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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
三章   鏡篇
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夕焼け

 空を蹴り移動し続けて二時間弱。

 見覚えのある森に、見慣れた扉が一つ。

 僕はそれを開いて、言った。


「ただいま」


 扉を開いた先にいたのはただ一人、掃除中の者のみだった。


「あ…………樋口さん」


「おかえり、一ノ瀬。どうしたの、ぼーっとしちゃって。それに、沙耶って呼んでって言ったじゃない」


「ごめん、まだちょっと記憶が整理つかなくて、えっと…………ただいま、沙耶」


「よろしい! でも、なにか変よ? 何かあったの?」


「ああ、実は――――――」


 僕は話した。

 攫われたことから、己龍の家に行ったこと。

 そこから鏡を使って、大量に昔の記憶を見たこと。

 それが、沙耶を守るための戦いだったことを。


「そっか、あのときの」


「でも、戦いが終わったすぐ後に目が覚めちゃってさ。あの後どうなったか分かんないんだよね」


 言うと、少し照れた様子で沙耶は応える。


「そうね、まず戦いの三日後に一ノ瀬は私の家で起きたの。樋口の医療部隊がその間、ずっと腕の治療をしてたんだからね」


「そっか、前にも言ったかもしれないけど、もう一度礼を言いたいな」


「前にもう充分なくらいお礼してたわよ。しばらく治療の為に私の家に泊まることになって、その間家事の手伝いなんかをしてね」


 あら、これ以上は相手にしつこいと思われかねない。

 心の内だけで我慢しよう。


「しばらく私の家に居てって言ったとき、あなた真っ先に出席日数の心配したのよ? そんな場合じゃないだろうけど、留年する〜って。私がお父さんにお願いして出席したことにするよう言ってもらったけど、それまでは学校の心配ばっかり」


 恥ずかしい。

 僕が知らない僕の恥ずかしい過去を話されるなんて、思っても見なかった。


「それで、しばらく家で過ごすうちに体も完治して、一ノ瀬が自分の家に帰る前日に私が言ったの」


 そう言ってから言葉の続きを発す前には、既に沙耶の顔は赤くなっていた。

 現在時刻六時三十二分。

 夕焼けに照らされてか、それ以外か、紗夜の顔は耳まで真っ赤だ。


「私が言ったのよ、好きって」


 ああ、これはやっぱり夕焼けのせいだ。

 樋口さんの顔が赤いのも、僕の顔が赤いのも。

 全部、夕焼けのせいだ。

これは、ラブコメなのでは?!

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