信頼
百二百、当にその程度は殺したはずだ。
しかし、桁が違う。
十万だぜ、よく考えたら分かる。
人一人で相手していい数じゃない。
関ヶ原の戦いの死人でもこんないねえ。
ああ、辞めたい。
でも約束しちゃったし、頑張らなきゃ。
「落炎!」
一先ず近くの敵を燃やして、少しの余裕を作る。
こんな燃やして、山火事になったらヤバいな。
まあ、そこは樋口の奴らが隠蔽するだろう。
双炎で作った刀を飛ばして相手に突き刺して、新しく刀を作り直す。
「火火《 かか》、炎の間に烈刻み、剣の鋒炎が溶かす。千の鋒向かうは大地………ッ!」
「蛮勇の騎士は骨身で焼かす。攻術詠唱術式、炎の剣庭ッ!」
敵の息つく間もない猛攻に対処しながらの詠唱、最中は戦いに向ける神経が詠唱に向くため、攻撃を四回も喰らってしまった。
一つは頭に、もう一つは右腕で、残り二人は胴だ。
幸い、どれも皮膚を突き破りはしなかったが、腕は罅が入ったかもしれない。
しかしまあ、それも今の術を発動出来たことと比べればトントンだな。
「そんな術も覚えてたか、相変わらず詠唱術式の習得が早いね」
声が聞こえた。
振り向くと同時、眼球スレスレを稲妻が通過する。
「やあ―――さっきぶりだね、宗介」
「ああ、今度は戦うか?」
「違う。今に限り、僕が味方をしてあげよう」
突然現れた端蔵と僕の会話に、敵は眺めることしかできない。
僕らが手を組めば自分達が絶対に負けることを知ってはいるが、僕らの話に割って入って攻撃した結果、生き残る可能性が零だということも知っているからだ。
「なんだよ、共闘は嫌だったんじゃないのかよ」
「共闘じゃあないさ、君は今から敵の大元に突っ込む。僕はその間ここで戦う。共になんて、戦っちゃいない」
屁理屈だ。
しかし、納得は出来た。
今に限り僕の味方になろうって理由も大方想像はつく。
どうせ、ずっと戦い続けるだけの展開が全く変わらないこの状況を、見飽きたのだろう。
「分かった、じゃあ頼んだ」
「了解、任された」
僕はそう言ってから、敵の妖力が一番密集している位置を探る。
「じゃあ、行くわ」
言うと、静止の声。
「この武器、使えるようにしといてよ」
端蔵が言っているのは、恐らくさっき僕が出したばかりの炎の剣庭のことだろう。
「燃え移らないようにしとくよ。じゃあ今度こそ」
「はいね、バイバイ」
そう言って今度こそ、跳んだ。
端蔵、信頼してるからな。
敵だからこそ、何度もお前と戦った僕だからこそ、お前の性格を、実力を信頼してる。