また後で
ごめんなさい、投稿遅れました。
昔々、それは驚くような少し昔のこと。
二人の男女と戦うために、とある貴族が十万を超える軍勢を作り上げたという。
各国から繋がりのある術師を掻き集め、それでは足りぬと妖までも仲間へ加えて、軍勢を作り上げたという。
双方の戦力差が一目瞭然かと思われたそんな戦いは、後にこう呼ばれるようになった。
――――――不死鳥前戦と、呼ばれるように。
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「さっき自衛優先って言ったけど、アレやっぱ無し」
言うと、樋口さんは両拳を握り、自分もめっちゃ戦うよ! とでも叫びたそうな顔とポーズ。
「じゃあどうやって戦うか、考えなきゃね!」
「いや、違くて」
「なるほど、逃げるのね! それなら―――」
「いや、それも違う」
すると、少し驚いた顔。
そこから少し考えるような仕草を取ってから、樋口さんは言う。
「そうよね、流石に一ノ瀬も逃げるわよね。分かったわ、またね」
今度は、少し悲しそうな顔。
表情がころころと変わる人だ。
「それも違う、全部違うよ」
また、驚いた顔。
「逃げるのは無理―――敵の数は十万以上だよ、穴なんてない」
「え、じゃあ一体どうしろって…………」
「僕はここから少し離れて相手を蹴散らすから、樋口さんは僕なんか気にしないで自分だけ守ってくれればいい。というか、僕がそうして欲しいって、思ってるんだ」
今度は更に驚いた顔をしてから、手で覆い隠してして蹲ってしまった。
「じゃあ、一つだけ約束してくれる?」
大きく息を吐いた後に、顔を隠したまま言う。
「いいよ、何だって約束する」
「今度、一緒に学校行きましょ」
思わず、笑った。
内容にではなく、スケールの差に。
十万を超える軍勢と、いつかの通学の約束。
「ああ、分かった」
このあり過ぎるスケールの差、悪くない。
「じゃあ、また後で」
「うん、またね」
なんだが、より一層やる気が湧いてきた。
僕らは互いの顔を合わせることなく、別れる。
見る必要がないからだ。
見なくても、互いに分かっている。
今見ずとも、これからも嫌というほど顔を合わせることになると。
この戦いの後で―――例えば、通学なんかで。