表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
三章   鏡篇
110/164

阿呆

 樋口さんの危険を感じて駆けつけた一戦から一晩明け、土曜の休日。

 僕は昨日の戦いも忘れて、家のリビングでゲルのように溶けているのではないかと思い違うほど脱力して、テレビを漠然と眺めていた。

 視界にはジェームズ煕という最近一発ネタで大ブレークしている芸人が出ているテレビ番組が写ってはいるが、それ以外の情報を全く取り込めていない。

 耳から入る情報も右から左へ。

 虚無だ。


 僕は今現在、世界で最も不必要な時間を過ごしているのかもしれない。


 さっきから掃除機をかけている母さんから気が散るとのクレームも耳には入っているが、空返事だけで微塵も動く気はない。


「もう、少しは外出て運動でもしてきなさいよ」


 頰を抓りながら言われれば、流石の僕でも聞こえるようだ。

 母さんはそう言って、僕を家の外へど追い出した。


 まあ、僕が自らの足で歩いて出たのだが、圧に負けて出たんだ、追い出されたのと同義だろう。


 今日は樋地旗さんも店休みだし、暇だ。


 とりあえず山にでも行こうか。

 偶然にも今は夏。

 アイスでも買って山に行けば、多少は時間も潰せるだろう。


 幸いにも、僕は母さんの圧に耐えながら、財布と携帯の入ったバッグだけは部屋から持ってくることに成功したのだ。


 現在所持金は紙だけで三万六千円。

 時間は一時半。


 時間は充分にある。


 先ずは近所のコンビニへ向かう。

 激しい日差しが照りつけるが、普段扱う術の炎と比べれば、どうってことは無い。


 危惧するべきは、暑さではなくモチベーションだ。

 さっきから一歩歩くたびに、山なんて行かなくていいのではないかと言う気持ちが芽生えるのだ。


 このままでは不味いと、少し駆け足でコンビニへ向かう。

 徒歩で十分。

 僕が走れば一分もかからない。

 全力ならば五秒ほどで辿り着く筈だが、街中なのでそれは我慢。


 成るべく人気のない道を選び、到着。

 それと同時に僕は籠を取り、アイスを箱で三つ、氷を二袋、ジュースを四本買う。

 袋は大き目で、アイスと飲み物で分ける。


 さて、出発だ。

 駆け足で家へ戻り、辺りに人がいないことを確認。

 足に力を込めて、跳ぶ。

 空高く、舞い上がる。


 まずは真っ直ぐ跳び上がり、そこから宙で妖力の足場を蹴って方向転換。

 近くの山へ真っ直ぐだ。

 袋は妖装をつけて、風で千切れないように準備万全だ。


 樋口さんに見られたら、無駄な労力だの言われるかもしれないが、一度山で堕落しきった時間を過ごす想像をしてしまえば、それはもう実行するしかないのだ。


「待ってろよ、山」


 僕は激しい風の中言う。


 風にも負けず、風にも負けずだ。


 途中でブレーキをかけて、急停止。

 山に到着だ。


 足場の妖力を消して、上空から落下。

 妖装と妖力で強化された体を信頼しきった降下方法だが、僕ならば上空一kmからの落下でも無傷でいられた実績がある。


 よし、いい感じの場所に着地できた。

 アイスを食べながら、風で揺れる木の音を楽しむ。


 たまには低徊趣味に徹するのも悪くない。

山はいいぞ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ