貸し一つ
樋口さんは僕の後ろに下がってくれたので、一応は安全。
樋地旗さんぐらい強い相手が出てこない限り守り通せるだろう。
相手は警戒しているが、そこまで強い妖力を感じないので、樋口さんが勝てないのは相性的問題だろう。
樋口さんの術は空間の方向を変える術、視界で捉える限りは余程のことがない限り、地面などで相手を押し潰せる筈だ。
つまり相手は視界に捉えられないような術の使い手。
僕の獄壁のように目隠しを作るのか、高速移動で相手の視界に止まらないのか、それとも空間を移動するタイプか。
あとは透明になったり、それくらいだろう。
とりあえず対処できないパターンは無さそうだし、戦える。
小刀を一本抜き、炎を纏わせる。
炎を伸ばして、小刀の短い間合いを補う。
小刀を右腕に持って、火吹きの左腕を発動。
「さあ、おいでな」
瞬間、相手が動く。
体制を低くして、駆ける。
真っ黒の全身に張り付くような衣装も相まって、この夜中には姿を確認しにくい。
しかし、小刀から伸びる炎の灯からできる影で居場所は丸わかり。
子供だってそれくらい分かる。
僕は獄壁を使って自分の姿を隠して、僕を見えていないまま相手が放ったナイフの一撃を回避。
そのまま獄壁の上から飛び出して、小刀の炎部分で一撃。
瞬間、相手の姿は消える。
空間を移動するタイプだったか。
だとしたら、移動先は僕を確実に仕留めるために、背後。
「じゃなくて樋口さんッ!」
すとん。
勢いよく飛ばした小刀が、樋口さんの背後へと移動した相手の頭に見事突き刺さる。
「はい終わり。大丈夫、怪我してない?」
「え……ええ。あなたこそ、怪我は?」
「僕は平気だよ、無傷」
言うと、樋口さんの表情が少し曇って見える。
「私も、貴方ぐらい………………」
「ん、どした?」
「なんでもないわよ。それより、ありがとう」
「いいよ、ちょうど外にいたから来ただけだし」
それを聞くと、樋口さんは立ち上がってスカートについた汚れを手で払って、言う。
「でも、ありがとうね。今度お寿司ぐらい食べさせてあげる」
「いや、ジュース一本ぐらいでいい」
「なによ、ジュースは貰うのね。ちゃっかりしてるわ」
「貰わなきゃ樋口さんの気が済まないでしょ」
言うと、今度は曇った表情から一転。
嬉しそうな、少し赤らんだ顔で樋口さんは言った。
「そうよ、私のことよく分かってるじゃない!」
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