すっとぶ
小学校の件から一晩経ち、今日の学校も終わる頃、樋口さんから声がかかる。
「これ、昨日の分ね」
「はい、ありがと」
一、二、三、四、諭吉さんが五人。
これは昨日の小学校での件で樋口さんが依頼人から得た収益の三分の一だ。
僕はこの取り分を条件に、定期的に樋口さんの仕事を手伝っている。
「折角だし、今日焼肉でも行く? お金貰ったし、出すけど」
「ん…………辞めとくわ。今日は早く帰るように言われてるの」
「了解、じゃあまた明日」
言って、樋口さんが教室から出ると、教室の男子一人から声がかかる。
「おいおい、なに沙耶ちゃんと仲良くなってんだよ」
「気にすんなよスー、前に話したら思ったより話題が合っただけだよ」
僕がスーと呼んだ相手、洲一和也は疑った目で僕を見る。
「親友だろ、あんま隠し事はダメだぜ」
「いや、そんな名言っぽい声のトーンで言ってもさっき言ったのが答えだよ、リアリーだよ」
「んだよ、つまんないの」
スーは口を尖らせて言う。
「仕方ないな、じゃあ楽しくなるよう焼肉行くか?」
「奢り?」
「当然」
「当然?」
「割り勘だよ」
「だと思ったよ」
スーは数少ない冗談を言い合える友人。
昔からの仲なので僕が妖術を使えることを知っているし、それでも周りには言いふらさずに黙っていてくれる。
「まあいいや、行くべ」
「了解らどこがいい?」
「駅前でおけ」
「じゃあ着替えて集合ね」
言って、一時帰宅。
母さんに夕飯を食べてくることを伝えて、家で着替えてから少し時間を潰して再度出発。
二時間ゆっくり焼肉を楽しんだ後、八時に店を出る。
満たされた腹に幸せを感じながら一人夜道を歩いていると、少し離れた位置に妖力を感じる。
「これは、樋口さんか?」
少し苦戦しているようだ、助けに行くか。
辺りに人目がないことを確認して、跳ぶ。
宙に足場を作り、それを蹴って加速。
一直線に樋口さんの方へ向かう。
一kmほど移動すると、交戦中の樋口さんを発見。
「火吹きの左腕一の指、火遊び!」
親指で空を斬り、言う。
炎の玉が樋口さんと男の間を過ぎゆくのを見てから、樋口さんの側に着地する。
「さっきぶり、手伝おっか」
言うと、どうやら疲弊しきった様子の樋口さんが、ほんの少しだけ恥ずかしそうに頷く。
「よし、じゃあ下がって休んでな。すぐ終わらせる」
口頭に次ぎ、手でも下がるように示し、樋口さんから相手に視線を移す。
「誰だか知らないけど、次の相手は僕だよ。軽く遊んでやるから、おいで」
自分のペースで食べれるから、宗介は焼肉が好き。