樋口
樋口沙耶、彼女は僕と同じ学校の生徒。
成績優秀、才色兼備、文武両道。
教師生徒、双方からの評価も良く、所謂完璧超人だ。
更に付け加えるならば、実家は超の付くほどの金持ちで、頻繁に政治家などが出入りしているらしい。
そんな隙のない彼女だが、何故僕がそれを語るのか。
彼女には、秘密があるのだ。
僕だけが知っている、僕と同じ秘密が。
樋口さんは、妖術が使えるのだ。
それを知ったのは先月、高校入学直後だった。
僕が樋地旗さんに言われて妖を退治しに向かうと、そこに樋口さんは居た。
僕と同じで、妖の退治に来たのだろう。
そのときから、僕と樋口さんは互いの秘密を共有している。
そんなことを思い返しながら下校していると、背後から声がかかる。
丁度考えていた、樋口さんだ。
「仕事よ、付いてきてちょうだい」
それだけ言って、樋口さんは跳ぶ。
制服のスカートを履いているというのに、全く気にせずに、すぐ近くの民家の屋根まで跳ぶ。
樋口さんはいつもこうだ。
突然現れて、仕事を手伝うよう言ったら、先に行ってしまう。
一度放っておいたこともあったが、次の日とても機嫌が悪くなってしまい面倒だった。
仕方ない、行こう。
僕も跳ぶ。
樋口さんに追いつくのは容易だった。
しかし、追いつくと同時に、速度を上げて逃げられた。
追いかけっこのつもりか、速度を下げて待っていてくれたのか。
間違いなく前者だと思いながら、追う。
「ここ? 確かにこりゃ多い」
辿り着いたのは、僕らが通うのとは別の学校。
昔僕が通っていた小学校だった。
「最近この学校で、変死体が発見されたのよ。目がくり抜かれ、舌は切断。全身の肌が爛れていたそうよ」
「生捕、退治、どっちがいい?」
「退治よ」
妖の数は一、ニ、三、四、いや、もっと。
少なくとも二十は居る。
「旧校舎にある札、それのせいで妖が集まってるらしいわ。子供が拾って貼ったか術師が貼ったかは分からないけど、危険だから剥がさなきゃ駄目ね」
「了解、じゃあ僕は退治に専念するから札は任せた」
「おーけー、頼んだわよ」
言って、別れる。
妖が居るのは本校舎、僕はそちらに向かう。
まず下駄箱に、一体。
人の形は保っているが、小さな雑魚が少し成長した程度。
妖がこちらに襲いかかり、左腕の大振りを回避と同時に、カウンターで頭を右拳で殴り抜く。
すると、本来血液。
本来このレベルの妖には血液は通っておらず、妖力だけで体が構成されているはず。
つまり、これは本物の血液ではなく何かしらの術だ。
妖な体を飛び出した血液の僕の間に挟み、次の瞬間に起きた爆発を防ぐ。
血液を爆発させる術、このレベルの妖で術を使うのは、本当に珍しい。
千に一つ居たとしても奇跡だ。
「術師がいるな」
そう、勘から出た、推測の域を出ない意見を呟き、僕は進む。
記憶改変前宗介は、術を使わなくても今の宗介より十倍は強い。