無茶
逃げなければならない僕だが、まず無理だ。
幸い、二人が戦っている間に走れる程度には回復したが、間違いなく千輝には追いつかれるだろう。
術も使えない今、どうするか。
「敢えて戦おうか」
己を鼓舞するように言ってから羽団扇を拾い、完全に妖力零で戦う覚悟をする。
一歩、また一歩と進み、僕が千輝と柏崎の視界に侵入したであろう瞬間、左側頭部付近に羽団扇を構える。
それと同時に強い刺激。
僕の狙い通り、刃と千輝の拳は衝突していたのだ。
柏崎もいる今、千輝は戦いを長引かせようとはせず、僕を一撃で殺しにくるはずだ。
ならば、僕はそれを利用する。
次の瞬間、腹に千輝の蹴りが。
大砲で撃たれたような衝撃だ。
裸一つで北極に乗り込むような無茶。
この無茶こそが、最善の道だ。
僕は根性と日頃の修練で身につけた筋力のみで踏ん張り、蹴飛ばされずに済む。
地を蹴り、駆ける。
勢いがついた頃に跳ね、宙で体を回転させながら短刀を二本投擲。
「妖力を纏ってねえな、舐めてやがんのか?」
そう千輝が言うだけで、凄いプレッシャーだ。
嫌になる。
息を吸うだけで肺が痛み、歩み跳ぶだけで足は痛んで骨が軋む。
しかし何故だろう―――無性に心地よい。
この時間が、この戦いが、永遠に続いてほしい。
僕は千輝の足払いを回避して、それと同タイミングで千輝に触れようとする柏崎を僕は斬り、再生。
「怪現解けて今で二割以下。まあいいか」
千輝がそう言って、僕と柏崎二人から距離を取る。
「おいてめえ、お前は俺がこいつを殺さなきゃ帰んのか?」
「僕かい? 殺さないなら………………まあいいとしようかね」
柏崎が言うと、千輝は仕方なさそうに溜息を吐き、僕に言う。
「ならもういい―――殺さねえ。代わりにめんどくせえが、付いてきてもらうぜ」
それと同時だった。
僕の後頭部に、強い刺激が、鈍痛が響いたのは。
僕の意識は薄れ、薄れ、沈んで消えてゆく。
次に目が覚めたときには、休めることを願いたい。
無茶こそが、最善の道だってセリフ我ながらすこ