不死身
「助けに来たよ、宗介」
聞き覚えのある声、聞き覚えのあるセリフ。
だが、この声はこのセリフを言っていた声ではない。
僕は叫んだ。
全く肺に酸素が残ってはいないが、それでも全身の力を振り絞って、立ち上がりながら叫んだ。
「お前……柏崎か!」
「やあ、最近ぶり」
そう、九尾苑さんではない、声の主は柏崎景だった。
「しかし、助けに来たのにお前とはいただけないなあ。まあいいんだけどさ」
「おい、てめえなんのつもりだ」
千輝は言う。
「今宗介を殺されては困るからね―――悪いが、邪魔させてもらうよ」
瞬間―――柏崎の肉体は爆散した。
血と肉片を辺り一面にばら撒いて、ズタズタに。
「んだよ、雑魚か…………」
「いやあ――突然バラバラにされちゃ困るね」
言ったのは、傷一つなく元通りの体になった、柏崎だった。
「どうしたんだい? 不思議そうな顔しちゃって。ああ、服が元通りなのが不思議か。なに、妖具なのさ。僕の妖力を吸って、吸った分元の形を保とうとする。ただそれだけのね」
「見りゃ分かる、明治の浜崎家四代目の作品だ。んなことより、なんで生きてやがる」
「気にすんなよ。逐一気にしてちゃ―――早死にするよ」
瞬間、柏崎の首が刎ねられる。
「なんだ、単純だな」
千輝は言って、一つ舌打ち。
「てめえ不死身だな?」
「ご名答! まあ、嬉しくはないんだけどさ」
不死身。
妖、神、それら含めて怪異ならば別段珍しい言葉ではない。
不死鳥、吸血鬼、その他諸々。
既に死んでいる幽霊なんかも、不死身の一端かもしれない。
しかし、見るのは初めてだ。
肉片の再生は、想像していたより気持ち悪い。
大脳の中心に最も近い肉片に向かい、他の肉片が集まり、人体の形を構成する。
今の首の再生は、僕が斬ったとき同様斬った先からくっつく。
殺しようがない。
されど、勝ちようは何通りでも。
「さて―――己龍の、尻尾巻いて帰ってくれるなら僕は手を出さない。どうする?」
「当然、二人まとめてぶっ殺す!」
瞬間―――柏崎は手を振るい、それを千輝は肘から手刀で切断する。
次の瞬間には千輝が足払いで柏崎の足場の安定を奪い、縦に身を回転させて顎目掛けて膝蹴り。
僕も戦えるものならば戦いたいが、さっき一瞬気絶したせいで妖力の操作が途絶え、怪現が解けてしまった。
つまり、今から三日は術を使えないのだ。
歯痒い。
それに、どちらが勝っても僕には損。
なんとか逃げなければいけいな。
主人公、一歩も動かない。