手を引いて。
お昼休み、なおも群がってくるクラスメイトをやっとこさ振り切って、ロッカの待つ隠れ家に足を運ぶ。
「ロッカぁー………………あれ? いない………………」
椅子の隙間からひょこっと覗いてみるけど、ロッカの姿はそこには無くて。………………トイレかな? でも、いつもなら置いてあるロッカのカバンもないし………………
「………………凜? 」
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、
「………………あぁ、ロッカ。そっちに居たんだ。」
「蘆花だっての………………ん、まぁね。たまにはホームルームの時から授業出てないと、居ないものとして扱われちゃいそうだし。………………元からサボってるけどさ。」
「あら、自覚があるなら毎日授業出れば? 」
「断る。………………大体さ、英語なんて覚えたところで何になるって言うんだ? 他のは、それなりに役に立つかもしれないけどさ………………」
「ほらほら、そんなこと言わないのっ。………………ところで今日もお弁当作ってきたけど、食べない? 」
「食べる。」
即答された。ロッカもだんだん、私のごはんにメロメロになってきてるみたい。
「そう、なら待ってて、すぐに広げるから」
「あぁ、待った。………………ここで食べるのもいいけどさ、たまには別のところで食べない? 」
「あら、どこかいい所知ってるの?」
「………………………………凛、どこかいい所知らない? 」
思わず力が抜ける。………………の、ノープランなのっ!?
「………………なんで私任せなの? 」
「………………よくよく考えたら、この学校の中のせまっこい隠れ家しか僕知らないや。」
「んもう………………ならもう、ここでいいじゃない? 」
「それはヤダ。」
あっさりとロッカが即答する。
「………………………………ちゃんとさ、凛と落ち着いてご飯食べたいもん。」
………………おや? ロッカ、なんで目ぇ逸らすの?
「別にここでも落ち着いて食べられそうだけど………………」
「いや、僕みたいなチビならまだしも、凛の場合天井に頭ぶつけそうでしょ? そんなちっちゃくなって食べさせるのも、なんだかかわいそうだし………………」
「はぁ………………ロッカ、それ、もうちょっと前に気がついて欲しかったんだけど………………」
最初に来た時、髪の毛にクモの巣が絡んで取るの大変だったんだから………………
「んで? どこにしよっか。」
「ロッカの好きなとこでいいよ。………………あ、でもトイレの中とかは嫌だよ? 」
「さ、流石にそれは僕も嫌なんだけど………………うーん、どこがいいか………………」
「そう、ねぇ………………」
つい天井を眺めて、ふと教室でのことを思い出す。さっき教室から出る時、レイがバスケットを持ってどこかに行こうとするのが見えて、思わず『レイちゃん、それなぁに?』って声をかけたの。そしたら、『今日はお天気もいいからハチコとクーのおさんぽ』って言われて、『いってらっしゃい』って返したんだっけ。………………あ、そうだ。
「そうね、ちょうどお天気もいいし………………中庭でご飯なんてどう?」
「中庭かぁ………………まーたツナギの用務員に追っかけ回されそうだなぁ。」
「あらあら、よっぽどトラウマなのね。」
「だってあいつ早いんだもん、チラッと見えて、やべぇ逃げないとって背を向けた時には、すぐ後ろにたってて………………ありゃあ人間じゃないって………………」
「散々な言いようね………………中庭がダメなら、いっそ4組に食べに来る?」
「いや待て。流石にそれは………………」
「あら、大丈夫よ。今はみんな食堂に食べに行っちゃってるだろうし、残ってても数人よ。」
「そうじゃなくて………………いいのか? 凛が、僕みたいなのと一緒にいるとこを見られて………………」
「へ? 」
思わずきょとーんとしてロッカのことを眺める。
「………………ロッカったら、今までそんなこと心配してたの? 」
「そ、そりゃあ………………」
「………………ロッカって、ヘンなとこ気にするのね。 私なら大丈夫よっ。それに………………まぁいいわ。ついてきなさい」
お弁当を畳むと、ロッカの手を引いて階段を降りていく。
「わ、ちょっ、待てよりんっ」
「待たないわよ。待ったらロッカ、逃げ出すくせに。」
「逃げないって………………」
「ふん、どうだか。」
さて、と。4組の前まで来たわね。
ロッカを引きずり込もうと教室に足を踏み入れると、向こうからも誰かが教室を出ようと向かってきて、
「あら失礼。」
「おっとっと………………チョーコちゃんもご飯?」
「ええそうよ、そっちは………………まだ食べてないみたい? 」
私の手に持ったお弁当箱の包みをちらっと見てチョーコちゃんがほほえ………………いや、『ほくそ笑んだ』。後ろでロッカが後ずさるのを感じる。………………中身はいい子なんだけど、ねぇ………………
「そうなの。ところで、他のみんなは? 」
「さぁ………………?他は安栗さんがそこでスヤスヤ寝てるぐらいだけど。」
「アカリン寝不足っぽかったけど、まだ寝てたんだ………………まぁいっか。じゃあね、チョーコちゃん。」
すれ違った後にロッカの方を振り向くと、ぺたーっと床に座り込んでいて。
「………………もしかして、腰抜けた? 」
「あ、あの笑い方は絶対世界征服企んでるって………………」
「大袈裟………………とも言えないわね、あながち………………」
………………ほんとに、中身はいい子、なんだけどねぇ………………