外に出てみたら。
慌てて昇降口を出ると、通りすがりの用務員さんの冷たい視線を浴びる。………………ってことは、私たちで最後ってことかしらね。
「………………なんだよあの用務員………………」
姿が見えなくなってから、その子がボソリと呟いた。
「折角の隠れ場所を何箇所も潰されたし、ブラついてたら『授業はどうしたんだ』って目で見られるし………………ボクは授業出なくたって大丈夫だってのに、もう………………」
「ふぅん、授業出てないんだ。」
校門をくぐって一歩踏み出すと、その後の行き先に困る。
「んっと………………あなたはどこに住んでるの?」
「ん、こっから歩きで実家だけど。………………それを聞いてどうするのさ。」
「あら、実家なのね。………………私は寮済みだから、もしかしたらそっちでも〜って思ったけど………………あらら。」
「………………………………は?」
何だかよく分からない、といった様な顔をされる。
「………………………………キミは、このボクをどうしたいんだ?」
「ふふっ、なんだか面白そうだからお友達になれたらな、って。」
「………………………………………………はぁっ!?」
私の言葉をしばらく頭の中で反芻してやっとこさ理解したらしく、すっとんきょうな声をあげる。
「………………このボクと友達になりたいだって? ………………………………キミ、熱でもあるの?」
「あら、ひどい言われようね。………………ふぅん?今ならこれあげようと思ったんだけど、やめとこうかしら?」
と、バッグの中からさっきのクッキーを取り出してひらひらする。
「………………む、むむ?なんだそれは?」
あ、食いついた。
「お、欲しいの?………………でも、どうしよっかなぁ?さっき私のことを変人扱いしたし。」
「………………わ、わかった、謝るからっ………………」
向こうももう必死になって、私の持つクッキーを欲しがってくる。………………しめたっ。さっきからお腹鳴ってたし、やっぱりお腹減ってたんだ。
「じゃあさ、こうしよ?………………まず、あなたの名前教えて?」
「うう………………わかったよ………………。蘆花、望月 蘆花だ。」
「なるほど、ロッカちゃんね。」
「蘆花だって………………………………んで、キミは?見たかんじ上級生っぽ、いや、その校章は同級生か………………キミの、名前は?」
「あら、知りたいの?」
「そ、そりゃあ、呼ぶ時に困るし………………あと、ボクだけ名乗らせといて自分は名乗らないのって卑怯じゃない? どこの中ボスだよまったく………………」
む、かっちーん。
「やっぱりお菓子あーげないっ」
「わ、わーかったよっ!!………………お願いします、あなたのお名前教えてくださいなっ。………………こ、これでいいのかよっ。」
「はい、よく出来ました。………………じゃあさ、一度しか言わないからしっかり覚えてよね。」
「な、なんだよそれ………………」
戸惑うロッカを前にして、私は息を深く吸う。そして、
「………………私の名前は、Armaghan Jamileh Rin Kurosaki。よろしくね。」
ニッと歯を見せて笑うと、ロッカは一瞬きょとんとした顔になって、それから急に焦り始める。
「な、なんだよそのあるま………………ナントカって!? どこの世界の皇女だよぉっ!?」
「はい私の名前をリピートアフターミー、アルマガーン、ジャミーレ、リィン、クロサキ。………………と、言うわけでよろしくっ。」
「え、ちょ、まっ!?………………あるまがーん、じゃみーれ、りーん、くろさき………………ああもうめんどくさいっ!!もうリンでいいだろ!?」
「んー、まぁ、それでいいかなー。あ、時々抜き打ちテストするからそこんとこよろしく。」
「するのかよっ!?」
「ほんじゃまったね〜。」
「あ、ちょっ………………………………って、おいっ!?クッキー置いてけよぉっ!? 」
一通りからかったあと、私は背を向けて立ち去る。………………あ、忘れてた。
「………………クッキーならロッカのバッグに入れといたよ。」
「なっ………………あ、ホントだ。あむっ………………しかも美味い………………」
「私と友達になったらいつでもあげるよっ。それじゃまた学校でね〜。」
「あ、ちょっ………………………………ボク、いつもは屋上に続く扉んとこに居るからな。………………またクッキー持ってこいよ………………///」
「んーわかった。覚えてたら行くね。」
「ちゃ、ちゃんと覚えとけよっ!?………………あと、誰にも見つかんなよ。」
「はいは〜い。」
ふふっ、変わったお友達ができちゃった♪