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雨上がりの屋上。

始まるよ

「ふんふん、ふふん♪」

初夏のぬるんだ陽気が、吹き込んだ風に押しやられてどこかに飛ばされていく。空気に湿気が混ぜこまれる夏というのは、季節の中でも冬に次いで嫌いだけど、それでもこの暖かさが心地いい。周りは「あづーい」なんて服装をだらしなく崩してる子ばっかりだけど、私からしたら「ちょうどいい陽気ね」って感じ。湿気のことに文句を言いたくなるのを除けば、夏こそ私の本調子って感じ。

「お、アーちゃんどこいくの?」

廊下の曲がり角からひょっこり顔を出したのは、

「あら、シオンちゃん。私はお昼を食べに行こうかなって思ってたとこ。シオンちゃんは?」

「あーこの後?適当にご飯食べて茉莉花いじって楽しむぐらいかな。」

「ふふっ、ほんとに仲がいいんだから。」

「はぁ?あいつのどこが仲がいいのよ?あのヘタレ………………っと、何でもない。」

「ヘタレ?」

しまったと言うようにシオンちゃんが口元を抑える。

「あー………………そこは聞かなかったことにしておいてくれる? あいつも最近、なんか気にしてるみたいだし………………」

「………………ふふっ、なら秘密にしておきましょ。さーて、私はシオンちゃんにも会ってないし何も聞いてませんよっと。」

「さんきゅーアーちゃん。それじゃあご飯行ってらっしゃい。」

「はぁい。」

軽く手を振ると、シオンちゃんはそのまま教室の方へと走っていく。………………さてと、私も急がないとね。

階段を上がっていって、ついには屋上の鉄扉。その向こうには、今のところ行くことはできないみたい。でも、私はそんなものには目もくれず、扉の脇に積み上げられた古びた机と椅子の山の向こうに首を伸ばす。

「ロッカ、ご飯持ってきたよ。」

その向こうにいたのは、小柄な身体を縮こまらせて携帯ゲーム機に夢中になる子。イヤホンで塞がれたはずの耳からは、時おり破裂音が漏れ聞こえてくる。私が声をかけた途端に、さっきまで時おりカチャカチャと動いていた指がぴたりと止まる。

「………………なんだ、また来たの?」

「また来たのって………………つれないんだね。」

「ボクにとってはどうでもいいことだからね。」

イヤホンを外して視線をあげたその子の前に、私はお弁当の包みをゆらゆらさせる。

「ふーん?どうでもいいことなら、このお弁当も要らないよね?さーて、帰ろっと。」

「ま、待って………………ったく、ほら、入りなよ。」

と、積まれた机を軽くずらして入り口をつくってくれる。

「………………で、ここに来るまでに誰にも見つからなかったよね?」

「多分ね。そもそも立入禁止の屋上に来る人自体少ないし。」

「いや、キミの場合目立つし………………………………って、今更そんなこと言ったところで無駄なんだろうけど。………………あ、そのタマゴ焼きおいしそう。」

お弁当を広げると、すかさず手が伸びてくる。それをパシッと払ってから、割り箸を差し出す。

「こらこら、手づかみはダメだよ?」

「い、いいじゃないかっ。………………ったく、めんどくさいなぁ………………」

ぶつぶつ文句を言いながらも、ちゃんと割り箸をパキンと割ってお弁当に箸をつけるロッカ。こういうとこは妙に律儀なんだから。

「………………………………あと、ボクの名前はロッカじゃない、望月 蘆花だからな?」

「わかってるよ、ロッカ。」

「蘆花だっての………………………………はぁ、もう。」

ついには訂正するのを諦めたのか、シャケの切り身をほぐし始める。

「………………それにしても、もう7月も半ばかぁ。もうそろ試験だよね。」

「………………もう、そんな経つんだ。………………凜とボクが出会ってから。」

「………………………………そだね。」

そう、あれは梅雨の時期のことだった。

終わらないよ

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