目を逸らせぬ、現実。
スキルの覚醒から2ヶ月が立ち、俺の体は完治した。この間に、俺のスキルの能力が
「赤、青、紫の3色のオーラが現れ、オーラの色に対応したステータスの強化と弱化が行われる」
「生物以外の物に触れることで、オーラの色に対応した武器を生成する」
「この能力は衣服にも影響する」
というものだとわかった。
赤は全体的に少しずつ強化、武器は生成されない。青は速力の大幅な強化と槍の生成、その代わり攻撃力と防御力が大幅に低下。紫は攻撃力と防御力の大幅な強化と剣の生成、その代わり速力の大幅な低下。と行った具合だ。
他にも能力はあるかもしれないが、今分かっているものはこれだけなので、これらを鍛えるしかない。
「だいぶ動きが良くなっていますね!最初の頃とは別人みたいです!」
「そうかい、そりゃどうも!」
「はい!そこまで!一旦休憩にしよう!」
「「はい!!」」
俺とギリメが同時に返事をする。
「♪2<×2<々498<:8…54○$%6>÷×→☆2$<・×¥#×。(訳:タケル、動きが良くなっているぞ、だいぶ魔法に慣れて来たようだな。)」
「はい。おかげさまでだいぶ慣れることができました。体も治ったし、鍛えられて実戦訓練にもだいぶついてこれるようになりました。」
この人はナイゼル・バウンティン将軍。スキル覚醒後の訓練の講師としてギリメが連れて来た人だ。将軍を簡単に連れてこれるなんて、ギリメはこの国では一体どんな立場なんだ?
「省略(訳:タケル、お前は目的を果たすために転移の能力を使えるものを探す旅に出るそうだな。)」
「はい、旅に出れば様々な危険に出会います。なので、身を守るためと、俺をこの世界に飛ばした奴をぶちのめすために、強くなりたいんです。」
「省略(訳:……おまえは、生き物を自分の手で殺したことはあるか?無いのなら、その経験を積まなければならない。
躊躇いなく自身の命を狙うものを殺せ、殺してもその後に食事が出来る、そんな人間以外に旅は出来ん。」
……人殺し。俺が旅に出るまでに出来るようになっていなければならないこと。
だが、虫とかならまだしも、赤い血を流すものを殺す覚悟は出来ない。本来なら、出来てはいけない。
そんな俺の心を読んだギリメが言う。
「ダメですよタケルさん。ここはあなたが生きていた世界ほど安全では無いんですし、価値観だって違います。この世界は、殺戮を躊躇う人間が天寿を全う出来るほど、甘くないんですよ。」
「私だって、もう何人も殺したことがあります。その殆どは死刑囚ですが。今のうちに死に慣れておかないと、
死ぬのは、あなたですよ。タケルさん。」
分かっている、分かっているんだ。この訓練も、そのためにやっているのだから。
………だが、俺に本当に出来るのだろうか。人の道を外れてでも、日本に帰る。そんな覚悟が。
俺の心は、望郷の念と、人道の狭間で、揺れていた。