転移と、決意。
「お疲れ様。明日も頑張ってね。」
「はい。明日で終わりですので頑張りますよ。」
明日で1年間続いたバイトも最後だ。一層気合い入れて励んで、有終の美を飾ろうじゃないか。そんなことや自分の将来について考えながら、暗い夜道を歩いていく。
「ようやくやりたい事が見つかったんだ、夢を叶えられるように頑張らなきゃなあ」
一人でぶつぶつ言っていても、誰にも聞こえないから恥ずかしくない。
やがて上り坂が見えた。坂から派生している道の一つに行こうとしたところで、目の前に猛スピードで車がやってきた。まったく危ないな、轢かれるところだったじゃないか。心の中でそう呟き再度渡ろうとした、その時だった。
さっきの車以上のスピードで別の車がやってきた。俺は避けろとか、早く渡れとか、そんな事を思う間も無く轢かれてしまった。
「う…ううん」
全身にくる鈍い痛みと共に、俺は目を覚ました。痛みのせいなのか視界がぼやけている。目が霞んで全然辺りの様子を掴めない。
「〒×→¥!」
聞いたことのない言葉が聞こえた。いや、そもそもこれは声なのか?高くて、大きく、よく通る音だ。
「○☆26〒5<5¥!5747*♪€〒#:5÷…4・6=29!」
その声を発していたのは白髪の少女だった。少女は俺には意味がわからない言葉を発した後、少女の真後ろにあった扉から外へかけていった。
なんだ、これは。俺はいったいどうしてしまったんだ?いくつもいくつも疑問が湧いてくる。だが、湧いてきたどの疑問にも、答えは出なかった。
さっきの少女が戻ってきた。後ろに白衣の男性も連れて。
「¥^○×→¥2°€46・27*¥%?」
この男性は俺に向けて話しているようだが、何を言っているのか、意味が全く分からない。謎の言語に困惑している俺にの脳内に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。さっき見た少女の声だ。
『ごめんなさい、勝手に話しちゃって。こっちの言葉がわかってないみたいだから、テレパシーを使わせてもらってます。あなたが脳で思い浮かべたものが私に伝わりますので、コミュニケーションはこれでお願いします。』
…は?テレパシー?なんでそんなものがあるんだ?というか、今俺が考えていることも全部、この女の子に筒抜けなのか?
『はい、そうですよ。なので、話したい事を頭で考えてくれれば、その考えが私にも伝わります。今はお互い言葉が通じないので、このテレパシーでコミュニケーションをとりましょう。』
そうか…これがテレパシーか。起こっていることはまったく信じられないが、意思疎通が出来てとにかく良かった。とりあえず彼女らのことを知っておこう。俺は痛みで軋む体を起こし、少女に語りかけた。
「あなたが、俺を助けてくれたんですか?いったい何故、俺はここにいるんですか?ここはどこなんですか?そこの男性とは意思疎通はできないのですか?」
少女は少し間をおいてから、俺の質問すべてに答えた。その顔は真剣そのもの。俺の質問を真摯に受け止め、答えようとしてくれていた。
「まず、あなたを助けたのは私の兄です。なので、救命のお礼は兄に言ってください。私は倒れていたあなたを見つけて、街のみんなに知らせただけです」
「次にあなたのがここにいる理由は、あなたを見つけた時、あなたがとても酷い怪我をしていたからです」
「ここは我が国、シャムビシェ王国の医療棟、その中でも特に重い怪我をしている者が運ばれる部屋です」
「この男性は私の兄で、あなたを治癒したものです。兄はテレパシーを使えないため、兄とあなたが直接テレパシーで繋がることはできませんが、私を介するならば意思疎通は可能です。」
………なんてこった、シャムビシェ王国だと?そんな国、今まで生きてきて聞いた事がない。ということはつまり、ここは俺の知っている地球ではないのかもしれない。今俺が陥っているこの状況の名を、俺はよく知っている。このジャンルの本が好きで、よく読んでいた。そう、これは…
異世界転移、だ。
自分の置かれた状況を理解し、すこし冷静になった頭にふつふつと怒りが湧いてきた。何故だ?何故俺が異世界なんかに飛ばされなくてはならないのだ?ようやく進路が決まったのに。やりたいことを見つけたのに。そのためにバイトを辞めたのに。これから、夢に向かって充実した毎日を過ごすはずだったのに。全部、全部、これでメチャクチャだ。
「ーーーーーーーーーーーーー帰ってやる」
声が漏れる。俺の人生を狂わせた、何かへの怒りを孕んだ声が。
テレパシーなんてものがあるのなら、他の魔法の様なものだって存在しているはずだ。ここがファンタジー世界というなら、なんでもありの所へ来てしまったのなら、その力で、どんな手を使ってでも、照屋丈瑠は日本に帰ってやる。
たとえ、どんなに人の道を外れようとも。俺は日本に舞い戻ってみせる。
初投稿の駄文ですがどうか応援よろしくお願いいたします。