―暖かい違い―
どうも、祈りです。
お手にとっていただき感謝です。
休日はほぼほぼ更新できる感じです。
では本編へどうぞ!(っ´ω`)っ
風呂をでたマティルダは大量に服を持ってきたレイティアに捕まった。
そのままマティルダはレイティアとミコトに朝まで付き合わされた。
「いいの!?こんなに!」
一般的な衣服を見たことも宝箱を開けるような顔で眺めている。
その新鮮な表情にレイティアは大満足だ。
「女の子なんだから、ボロ布を着せておくフリュウさんがおかしいんですよ」
「フリュウさんを悪く言わないの!」
効果音にぷんすかと聞こえるようなしぐさ、やってる本人は分からないが、まったくと言っていいほど怖くない。
そんな表情をしながらもマティルダは新しい生活への期待でキラキラしている。二人にも筒抜けだった。
「そういえばレイティアさん?」
陽が出るまでファッションショーをしたマティルダが疲れを全く感じさせない声音で言う。
「どうしたの?」
「夜お店やってないのに、どこで服を?」
アスト王国はこの世界でもっとも平和な国といっていいだろう。それは国に守護神がいるからだ。守護神の四人はこの平和を維持する代わりに様々な権限を与えられている。
「すごいでしょー、私は創世神だからね!」
実のところ国王の城から盗んできただけなのだが、この国で一番高い権力を持つのが四人の守護神なのだから問題ないらしい。
そこへ下からミコトが食事の準備ができたと報告にやってきた。
マティルダは急いで一晩でお気に入りとなった赤い子供用のドレスを身にまとって階段を降りていく。
マティルダはレイティアの言うことを半信半疑だった。
アスト王国の主食はパンだ。
この国ではパン、肉、酒が食卓の定番になっている。
「...いいの?こんな豪華なの」
「いや?これが普通だよ」
神達には食欲というものは存在しない、フリュウが少しでも人間性を取り戻そうと、人間らしい生き方をするために欲がなくても家にいる間は続けると決めた。
食欲がないため食卓にはクロワッサンとコーンスープしかないが、食事すら満足にとらせて貰えなかったのか、マティルダには贅沢なものに見えていた。
ほっぺいっぱいにパンを頬張るマティルダはとても可愛らしい。
これが親心か...。
フリュウは心の片隅で微笑んだ。
「それじゃ顔出してくるよ」
フリュウは何ヵ月も守護兵団の任務を放棄して旅をしていた、帰ってきた報告と練習相手をするために国の真ん中の道を挟んで正面の兵団本部へ足を運ぶ、その後は国王にも顔を出すつもりだ。
ムラマサに、気を付けてと言われて何ヵ月も留守にした負い目を感じながらドアを開ける。
「まってー」
マティルダが階段からトコトコとなれない足どりで歩いてくる。
彼女は白いサンダルをはいていた。
そういえばずっと裸足だったか...。
フリュウは今気づいた、彼の薄っぺらな感情でも少女に裸足で歩かせ続けたという事実に申し訳なさを感じていた。
マティルダにそんな気持ちは伝わるはずがないのを理解して、この理不尽な世界の常識に納得がいかなかった。
無表情で行われるフリュウの自傷行動を知らず、階段から降りてきたのは真っ赤なドレスに真紅の綺麗な髪のマティルダ。見ている相手が破壊神でなければ見惚れていたはずだ。
「私もいく!」
フリュウは少女の熱い眼差しに全く免疫を持っていない、暑苦しい男の眼光か殺意をもった視線なら世界で最も免疫を持っているものの、今回の視線には何も言い返せず、一瞬で根負けした。
マティルダはウキウキと歓喜の感情に支配された。
「はぁぁぁぁぁ...」
思わずヨダレが垂れそうになる。すぐに意識を目の前で繰り広げられる歓喜の対象に向ける。
いい体してますねフリュウさん。
フリュウは守護兵団の団員3人の攻撃をすべてさばいて、体術でねじ伏せる。
マティルダの意識の対象は、蹴りとか攻撃に関しては相手に触れることができるのか、とかではない。
フリュウが何戦もするにつれて汗をかいたので甚平を上半身脱いだのだ。
マティルダはフリュウの未成熟の容姿からは考えられない、引き締まった肉体に見惚れていた。
「見ていて気持ちいいものじゃなかっただろう」
兵団員からの手合わせを全て終えて、彼女から見て暑苦しいと見えているだろう男達からの尊敬の眼差しや輪から解放されたフリュウ。
「そんなことないです!」
意外な発言に驚きながら手渡されたタオルで体を拭いていくフリュウ、鈍感なのかどうなのか、マティルダからの熱い視線に気づいていない。
「...そうだマティルダ、さっき団員からいろんなこと言われてな」
「はい」
「可愛い娘ができたなって...な」
フリュウは珍しく歯をだしてニカッと笑うが、マティルダはそうはいなかい。
娘かぁ...そうだよね。
他人から見てこの容姿の違い、そう思われて当然だ。
それでも残念そうな素振りは1つもしない、必死にこらえる。
二人の間に認識の違いこそ出来ているが、マティルダは二人の時間に満足していた。
「はぁ...」
フリュウは国王の城の大浴場でため息をつく。
あの後、マティルダを連れてアスト王国の国王、アストラスのもとに顔を出しにいった。
そこまではよかった。
家に帰ってからマティルダがとにかくベタベタしてくる。人肌が恋しいのか、父親に甘えたいのか分からないが、本気で抱きしめてあげたいと思ってしまう。
ほんと、変な呪い持たせやがって。
何千回目だろうか、契約者に愚痴をこぼすのは。
この湯は温かいはずだ。
でもフリュウはその暖かさを満足に感じられなかった。
「ただいま」
「フリュウさーん!」
またか...。
声には出さないが心で呟いてしまう。
パキパキと音をたてて氷が形成される、エネルギーすら拒絶する氷だ。飛び付いてきたマティルダは氷に衝突するが、エネルギーは彼女に返らない。
「どこいってたの?」
見事に着地したマティルダ、もう馴れてしまったようだ。
「城の大浴場を借りてたんだよ」
とたんマティルダはショックを受けたような顔になって。
「私とお風呂に入るのはそんなに嫌ですか...」
半泣きで言われてしまうフリュウ、彼はこういう反応に全く免疫がない。
いくら父親代わりでもなぁ...。
微かに残っている常識的な感情が邪魔してしまう。
彼の心の中を正確に読み取った契約者が久しぶりに口を開いた。
『父親になったつもりなら娘を拒絶するのはどうかと思うぞ』
『オニマル、お前なんで口挟むんだよ』
数ヶ月ぶりに会話をしたのは力の源たる破壊神オニマル。
『お前の愚痴に付き合うのが飽きたんで、寝てただけだ』
『そしたら面白そうな状況になってたんで起きたと?』
『そうだ』
フリュウは人肌に憧れていた、しかし事情を知る者達は彼を傷つけないように避けてきた。
『せっかくお前と本気で向き合おうとしてる少女がいるんだ...なぜ拒絶する』
彼は本当は彼女と触れあいたいことを見抜かれていて言い返せなくなる。
「嫌じゃないよ...入ろうか」
「うん!」
満面の笑みで返されると決断して良かったと改めて思う。
「風呂用の着物しとけよ」
「はーい」
期待と不安。この期待は少女と二人きりでお風呂に入るというシチュエーションではない。これから俺はどう変われるのか、その過程でマティルダをどう傷つけてしまうのか、そこに期待と不安を感じていた。
「ほらっ、温かいよ?」
「ああ...」
城の大浴場と比べたら小さすぎる風呂だ、三人は入れそうにない、さらに足を伸ばすと一人しか入れない。
フリュウとマティルダ、共に風呂用の浴衣をしている。
普通の浴衣とは違って全て白っぽいが透けて肌が見えないようになっている。
マティルダが手を繋ごうとしてくるが、やはり氷が阻む。
それでもマティルダは笑顔のままフリュウを誘う。
湯に浸かりながら、マティルダはフリュウにもたれかかってくるがフリュウには届かず、結果的に氷にもたれかかってしまう。
「私体洗うから...足伸ばしてていいよ?」
「分かった」
フリュウとのお風呂が嬉しいマティルダはウキウキなのだが、フリュウはそんなこと知らない。
フリュウはマティルダを傷つけてしまったか、嫌われてしまったか、そういった思考で頭がいっぱい、彼は珍しく油断していた。
「フリューさん!」
体を洗い終えたマティルダが降ってくる。
「なっ!?」
とっさに彼はマティルダを受け止めようと手を伸ばす。
しかしマティルダは助けようとしたフリュウの手の上に出現した氷に抱き抱えられる。
「...」
「...」
沈黙は一瞬だけだった。
「ありがとうっ」
マティルダは恥ずかしさに耐えきれず風呂場を後にした。
残ったフリュウの思考は悲惨なものだった。
娘に嫌われてないか、怪我してないか、傷ついてないか、彼は親バカを自覚していない。
読んでいただき感謝です。
必死に暖かい感じを出そうとしてますが、できませんね。
頑張ります。
ではまた、お疲れさまです。