―温かい山道―
どうも祈りです。
お手にとっていただき感謝です。
二話目ですね、こんなペースで書けたらいいのですが。
では本編へどうぞ!
フリュウはマティルダを連れて人間界、アスト王国に向かうことになった。
歩くペースはマティルダに合わせている、彼にとって時間は何の価値もないのだ、人間をやめた時から彼の時間は止まっているのだから。
「...んー」
「どうした?」
マティルダが何かをねだるような顔で歩を止めてこちらを真っ直ぐ見つめる。
マティルダは必死な顔で手を大きく広げて伸ばしてくる。しかし、その必死な行動に応えてあげられない自分の呪いのような能力に嫌気が差す。
「あ...ああ」
パキパキと音をたてて虚無から拒絶の氷が現れて彼女の手を止める。
抱っこか、おんぶか、肩車か、幼いこの容姿で1人で逃げてきたのだ、人肌を求めるのも当然だろう。しかし俺にはそのどんな行動もとることが出来ない。
「悪いな...それは出来ない」
「なんで、私を阻むの...」
この世に絶望したような顔をして、それでもマティルダは手を伸ばし続ける。
「おにいちゃん、名前はなんていうの?」
「...俺はフリュウ...もう何日かは我慢してくれ...俺も好きで君を拒絶してるわけじゃないんだ」
「そう...」
沈黙が流れる、これは嫌われたかな?と思いながら、マティルダの必死に歩いている姿を眺める。ボロボロの布切れから覗いている傷だらけの皮膚は小さな少女が負うには早すぎる。
彼は必死に考えて1つの行動に出た。
「お腹空かないか」
「ふぇ...うん」
あまり元気のない声で返される、そして元気のない声は失いかけた人間性で必死に考えたフリュウを傷つけるわけだ。
「ちょっと待っててくれ」
フリュウは肉を探しに谷沿いの山道から外れて森に入ろうとするが。
「待って、一人にしないで」
泣きそうな、必死な声。
「...ついてきなよ」
マティルダは容姿こそ子供だが女性なのだ、女性の涙ほど男を動かせるものはない。フリュウは説得する気にもなれず、森に一緒に入ることにした。
パァァァという効果音がつきそうな驚くほど表情を一変させ。
「フリュウさん大好きっ」
マティルダが不意打ちで飛び込んで抱きつこうとしてくるが、氷に阻まれた。
「モッキュモッキュ...グスン」
時刻は2時といったところか、少し遅い昼御飯の時間。
氷で氷柱をつくり、飛ばして森に生息する鹿を狩って得た鹿肉、それを魔術で焼いた。しかし食べるのは彼ではない。
「モッキュモッキュ...ズズ」
必死に肉を噛み締めるマティルダ、久しぶりの食事なのだろうか、涙を我慢しきれていない。
「そんな泣かないで...」
嬉し泣きだとしても異性が泣いているのを見るのは苦しい。
「だって...お肉なんて貰えないもんっ」
鹿1匹でこんなに喜んで貰えるとは...久しぶりに微笑んだ気がする。
「アスト王国についたら、毎日肉食べられるから...」
「んんんー」
よっぽど嬉しいのか、両手をグーにして上下に振り回す。本来ならこの姿を愛らしいと思うのだろうな、そう考えるとため息が出てしまう。
しかし、この様子を客観的に見たら、もしかして俺は父親なのでは?とか想像して勝手に微笑むフリュウ、彼も彼女と同じく人肌を求めていた。
「どこで寝ましょうか」
食事を済ませて歩を進めたフリュウとマティルダだが、夜になった。
霊峰の夜道は呪われるとか言われるほど暗い雰囲気に包まれる。
フリュウは睡眠欲がないから平気なのだが、マティルダは眠たそうでだ。
魔術で夜でも昼のように彼女の顔が見える、歩き疲れた顔だ。
ちょっと待っててくれ、そう言ったがやはり付いてくるマティルダと共に再び森に入った。
「フリュウさん、どこにもいかない?」
もうフリュウさんの呼び名で定着していた。目はトロンとして、彼女はすぐにでも寝てしまいそうだ。
「どこにも行かないよ」
「ならギューってして」
幼女を襲う趣味はない、それ以上に触れることが出来ないのだ。人肌が恋しいんだろうなと嫌なほど伝わってくる、そして余計にこの呪いが嫌になる。
「それは無理かな...」
葉っぱを敷き詰めてつくった簡易ベッドに寝転ぶマティルダを優しく眺める。
「なら隣で寝てよ...」
「分かった」
せめてこのくらいは、そう思って即答する。
「アスト王国楽しみなんだ...フリュウさんの友達ならギューてしてくれるんだよね?」
目を輝かせて、あり得ないことを言う。だがあり得ないほど響かない俺の心にイラっとする。
「そうだな、好きなだけねだるといいよ」
ちょっとでも早く彼らに会わせてあげたいと思った。
彼はマティルダが眠ったのを確認して甚平を脱いだ。
「ほんと、なにやってんだろうな」
脱いだ甚平をマティルダの下に敷いて持ち上げる、彼女に触れないように。
「ちょっと寒いけど我慢してくれ」
アスト王国まで徒歩では月単位で時間がかかる、しかし彼は世界の概念を無視する神なのだから。
突如彼の背中から真っ黒な巨大な翼が現れ、月明かりに照らされながら飛び上がった。
その時から彼は自分の中で大切な人が1人増えたことを自覚していなかった。
読んでいただき感謝です。
後書きなのに、言いたいことは1つです。
応援よろしくお願いします!