―温かい出逢い―
はじめまして、祈りです。
今日から温かい心を拾いました。連載していきます。
温かい目で見守ってください。
時間というものはとにかく理不尽だ。フリュウは山道で深くため息をつく。
場所は人間界と魔界を繋ぐ、霊峰と言われる場所。その神聖な場所に短い黒髪を揺らし、白い登り竜の描かれた薄い青色の甚平、念のため持っている刀二本をぶら下げて彼は歩く。
彼は人間をやめていた。
彼はもう、歳をとることはなく、体は衰えを知らない。
彼は破壊神と契約を交わした1300年前から、体は17歳当時のまま世界に固定されている。
「はぁ」
毎日がマンネリ化していた。アスト王国に帰れば彼を待っている仲間がいる、それを支えにして何とか無限に湧き続ける永遠という時間を刻む。
わざわざ人間界での仕事を放棄して、何ヵ月もかけて魔界へ出向いたのも暇潰しだった。
結局、得たものは魔王の自分勝手さを再確認したのみ、暇潰しは失敗だと言える。
「...」
微かな視線を感じて、長い時間を生きて身に付いた超感覚をたよりに振り向く。
「こんなところにいたら危ないよ」
谷沿いの山道で彼は珍しい者を見つけた。
黒い角...魔人の少女ですか。
薄汚れた赤髪ロング、衣服はボロボロの布切れ、黒い小さな角を二本ひょこりと出してる少女。
足枷か。逃げてきた奴隷か。
すぐに奴隷だと分かる。足枷を外すのは泥棒にあたる行為だが、彼にそんな法律は意味を持たない、そんな概念すら壊してしまう破壊神なのだから。
「...」
彼が壊したいと意識しただけで、パキィッと音をたてて足枷が粉々に砕けた。
ビクッと体を揺らしてしりもちをつく少女。
「はぁ」
その初々しい反応を見ても何も感じなくなってしまった自分を再認識してさらにため息をつく。
「君はもう自由だ、どこにでも行きなさい」
その言葉は少女に死を突き付ける意味を含んでいた。目が虚ろな少女が人間界へたどり着けるはずがない、かといって魔界に戻れば奴隷に逆戻りするだろう。世界は人間界と魔界と竜の地の3つに別れて戦争があるのはどこの時代でも変わらない。
他人への関心が消え変えている彼は何事もないように立ち去ろうとした。何人死のうが、世界の均衡は動かず、ほかっておいても死ぬ命だ、このことは忘れようと。
「君も人間界へ?」
「...ううん」
年齢は人間で見たらは5歳ほどだろうか、魔界の住民は長寿で人間より長生きするため成長は遅いが個人差があるため分からない。か弱い声で否定された。
「ならどこへ?」
フリュウは自然と顔の高さを少女にあわせるために片膝立ちになる。
「...ギュ」
予想はできていた。突然正面から首に手を回され抱きつかれた、いや、抱きつかれようとした。
「はぁ」
彼が世界を嫌になっている理由の1つが発動した。
「...!?」
抱きつこうとした少女は虚無から出てきた氷に阻まれた。
彼は破壊神と契約をした時から、〈破壊〉ともう1つ司る概念がある。
それは〈拒絶〉。
誰の温もりも感じられない彼。
戦闘ではとても便利なのになぁ。
これは少女に諦めるさせるには十分な能力だろう、そう思って歩を進めるが。
「...あ、待って」
そんな言葉も聞かずに歩き続ける彼を、少女はいつまでも追い続けた。奴隷だった名残か、動きが鈍い両足で懸命についてくる。
健気な少女の姿は彼の孤独の氷の心に綻びを生じさせた。
フリュウは1度止まって、少しずつ遠くなっていった少女のほうへ歩いた。
「...名前は?」
「!マティ...ルダ」
少女の顔が希望に満ちる。
「マティルダ、俺と共にくるか?」
「うん!」
もとの彼ではあり得ない言葉だろう、マティルダの生じさせた綻びはいつかフリュウを孤独から解放する、この言葉はその第一歩なのだ。
そんなことは微塵も考えず、満面の笑みでうなずいた。
読んでいただき感謝です。
温かい心を拾いました。は時間があるときに更新していきます。リアルが忙しいかもなので。
では温かい目で見守ってください。
ありがとうございました。