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プロローグ:3

 水蒸気爆発のような彼女と別れたあと俺も疲れた疲労して疲弊していたので家にだらだらと帰っていった。人間関係ってこんなに疲れるものだったか?彼女が特別で異常なんだろう、そう願いたい。もしみんながみんなこのような人間関係のなら俺の人間対応は壊滅的だなぁ。

 

 「…憂鬱だぜ」


 と俺は気怠げにそう言った。はじめ先生も確かに今思えばそんな感じか。自宅侵入するし。通報すれば必ず不法侵入で捕まるけどはじめ先生のためだ、そんなことはしない。恩師だからな。

 

 哀紅に対しては自宅がバレなかった分判定は合格だろう。自宅がバレれば周辺がバレれる。周辺がバレれば俺が業務スーパーの住人であることもバレて露見する。それはもう恥ずかしいしなんとも言えなくなる。土に埋もれたくなる。業務スーパーのおばちゃんにも迷惑をかけそうだし。

 

 あー色々考えると嫌になってきたな、溜め息が溜まる。自販機でコーラでも買おう、美味しい飲食物は食欲を満足させて幸せになる。人間ってのも単純なもんだ、助かるが。無駄に複雑より単純のほうがいい。より良い。シンプル イズ ザ ベストとも言うしな。

 

 視界の端でチカチカと点滅すると思えばすぐ先の自販機が不規則に点滅している。夜道で点滅されると恐怖心を揺さぶる、余計なものまで考えるから嫌なんだよ。想像力が豊かなのか、無いものまで見えるような気がしてくるから厄介極まりない。想像力のおかげで良いことも考えることも出来るのだろうけどさ、思考に更けることも嫌いじゃない。端から見ればただの間抜けな面でボーッとしているようにしか見えないと妹に引かれたこともある。あの時の妹の微笑みは怖かった。


 前にも言った気がするけど。いや言ってないかな。代々世家の家族構成としては母、父、俺、妹妹だ。妹が二人いる。今は俺だけ別居中、喧嘩したとか家族の縁が切れたとかじゃなくて単純にただの別居だ。母父は共に世界で旅行しているらしい。何処をほっつき歩いて放蕩しているのやら。それでも時々手紙を寄越すのだから安心させくれる。今時手紙って。

 

 妹妹は別居、とはいっても同じ都市に住んでいるのだから会おうとすれば会えるのだ。しかし人間、出来るからこそやらないことがあり、最近は音信不通。俺よりは出来た妹なのだから無事友達もたくさんいて思い出に残るような学園生活を満喫していることだろう。


 とにもかくにも家族は大切だ、人間出来てない俺でも家族は大切なんだ。

 

 さっさと何かしらの清涼飲料水を買おう。こういう自販機専用販売のやつを買う。


 その時突然視界が不規則に乱れてノイズが走る。軽く違和感を感じる程度だがだんだん視界が大きく乱れる。

 

 「な、なんなんだよこれ…」


 得体の知れない恐怖が、先ほど暗がりに感じていた恐怖とは別の恐怖が内側から吐息のように俺の心を満たしていく。満たしきった恐怖が噴き出すように空気が重苦しい、外側と内側の境界線が曖昧になって自我がほぐれていくように感じる。呼吸が苦しい。左右の荷物が重くて仕方無かったらしく、いつの間にか辺りに散乱していた。


 苦し紛れに残っている意識を視界に回すとノイズにムラがある。ノイズが一番激しい場所、自販機があるはずの所が激しい。


 そこに焦点を向けると急激に指先から氷水に浸していくように寒気が、身の毛がよだつどころか全身の毛穴が広がるような感覚が襲ってくる。


 ーそこにこの現象の根源がある、否居る。目を背きたい、あれは見てはダメだ。見たら俺が壊れてしまう、と生物本能が警鐘をずっと鳴らしている。逃げよう、逃げて逃げて逃げて逃げよう。あれは手に負える者じゃない、人の手にさえ負える者なのか。


 逃げようと思ったときには足が縺れながらもノイズとは反対方向に向けたとき、それは声を発した。


「来、来てくれたのか…禊…」


 発したのはそもそも声だったのか理解不能だったが俺には意味のある言語、しかも日本語に聞こえた。それは俺の名前ではないに、足が、膝が、心が、脳がこれ以上動くことを止めていた。何故だか解らない。その声が酷く心に響いて締め付ける。


 「禊…儂じゃ…。儂を助けてくれ…」

 

 くそっくそっくそったれめ!そんな、そんな悲しくて憐れで惨めな声で知らないやつの名前を呼ぶな。そんなの。


 「た、助けるしかねぇじゃねぇか…くそっ」


 そして意を決してそいつの存在を受け入れるために腰から下を無理矢理動かし、骨が軋むのを感じながら振り向いた。その瞬間ノイズと共に全ての固定観念がぶち壊されるのを身をもって知った。その身体に刻み込まれた。

 

 激しいノイズで見ることもままならなかった辺りの景色は血、血、血、血の一色で構成されった世界だった。辺り一面、電信柱やコンクリートの壁や路上駐車の自動車も全て妖しく艶やかな赤一色で染められていた。まるで枯れた樹海のようで生々しくはなく、血の結晶にも見える。


 網膜直接訴えかけてくるような刺激的な視界に気をとられているうちに鼻腔を通り抜けて吐き気を催す程の血と鉄の臭いが襲いかかってくる。これはノイズが酷かったほうが良かった。一呼吸毎に精神がイカれそうになる。口で呼吸することで我慢して辛うじて喉まで出そうだったゲロを吐き出さずにすんだ。


 既に狂いかけている嗅覚と視界の衝撃に慣れてきた。慣れてくるのか麻痺しているのかもう解らない。ボタボタと滝のような汗で背中がびっしょりしていて不快感がある。

 そして俺はやっとそこにいるであろう何処の誰かに助けを求めているそいつ―を意識する。本能的に目を背けていたそいつを視認するために恐怖心を殺して、二つに眼球の焦点をただならぬ存在感がいる方向に向ける。


 そこには血よりも血らしい赤髪の絶世の美女、少女が倒れこんでいた。一番異様で目を引くのは厳めしい荘厳な山羊のような対の角、赤く麗しい艶やかな髪は臀部にまで届きそうなほど長い。整ってまるで人形のような面構え。辺りの流血の泉ではっきりと目立つ程の血の気のない白い肌。神々しいさと悪魔的な誘惑する魅力が同時にあわせ持つような少女が自販機に食い込むようにして倒れている。

  

 とても綺麗で、科学的に証明のしようがない科学の根源をぶち壊すような、人外魔境の住人だ。少なくとも俺たちと同じような世界で生きていない。こんな、彼女様なものが居たら世界のほうがぶっ壊れてしまう。


 先程まで引き延ばされた時間で感じていた恐怖は、この少女に対する畏れにして畏怖だったのだと身をもって感じる。このような、この存在がノイズの原因で俺の今まで培ってきた世界観という常識やら固定観念にこのような存在がいてはならないから、だからノイズが視界覆って、自分で目を背けて存在を認めることを拒絶していたんだろう。

 

 意を決して彼女を助けるために近寄るべく彼女に近づく。彼女を中心に血飛沫が吹き出ていて、この血染めの景色は彼女が原因なのだろう。中心に進むにつれて靴に血が浸っていく。彼女から血が止めどなく流れているのでよりいっそう早く着くために踏ん張りをきかせて本能のストッパーのかかった下半身を錆び付いた車にエンジンを無理矢理かけるように動かす。


 どうしようもなく逃げ腰な心に鞭で打って無様に転げて這いつくばって這いずりながら、血飛沫を浴びながらも彼女の元へと辿り着く。改めて彼女に対する畏怖を強めながら生死と肉体状態を確認する。破れたスカートから覗く四肢は所々肉が抉れて、骨が見えるであろう程の傷が悲惨で思わず目をそらす。彼女の負っている傷はありとあらゆる攻撃を加えられたように見える。とても惨い。


 「うぅ…うぅぅぅぅっぅぅぅぅううぅう…っ!?」


 切傷が、裂傷が、割傷が、挫滅傷が、挫創が、銃創が、爆傷が、刺創が、咬傷が、熱傷が、凍傷がその身に刻まれている。とても惨い、とても惨いけどそこまでされても表面上だけで彼女には大した傷ではないことがとても恐ろしい。全てが致命傷のはずなのに、致命的ではない。

 

 衣服も同じように破けたり焼けた跡があったり引き裂かれた跡もある。


 そしてこの血のが流れている一番大きな傷、致命的な致命傷を探すために血染めの洋服を捲り上げた。滑らかな腹にはない。石膏のような背中にもない…ならば一番致命傷になりうる胸部も確認するために上まで衣服を捲らしてもらう。


 胸部には特におかしい点は見当たらなかった、心臓に位置するであろう左側に大きく断面図が円柱状に抉りとられている以外は。まるで穴だ。ぽっかりと背中側の景色が見えるほどに綺麗に抉れている。この穴から容赦なく血が溢れ続けている、これがこの傷が致命傷なのだろう。目を背けたくなるような傷だ。


 致命傷を傷を塞ぐため…ではなく心底から目を瞑りたくなるような傷を見ないようにするためだったのだろう、止血をしようとして傷に触れた瞬間、辺りで静かに景色を覆って浸していた血が脈動を始める。

 

 傷を塞ごうとしていた呆気にとられている俺を嘲笑うかのように血が彼女の胸の傷へと流れ込んでいく。濁流のように血の渦を形成しながら集まってくる。

 

 あまりの激しさに目に血が入らないように目を閉じた。耳だけで状況判断しようとしても瀑布のような爆音しか聞こえない。それもいつまで続くかと思ったが、だんだん静かになっていったかと思うと顔につく血の感覚も無くなっていた。


 目を恐る恐る開けてみると辺りはなんの違和感のない、今まで培ってきた世界観という常識やら固定観念通りの景色だった。血の一滴も、血の赤もどこにも見当たらない。まるで狐につままれた気分だ。

 

 それでも腕のなかに彼女は居て、自販機は壊れ、業務スーパーで買った荷物が散乱し、端末はガラスと金属の破片となっている。その事が嘘ではないことの証明だ。


 どのくらい経ったのだろう、ただボーッと呆けていた。驚きのあまり全てがついていけなかった事をようやくたどり着いた。とりあえず、家に帰ろう。彼女をここに放って置く訳にもいかず、色々聞きたいことがあったので連れて帰ることにする。目立たないように上着を羽織らせておんぶして帰宅した。


 玄関で倒れこみそうになるが最後の根性で彼女をベッドに寝かせ、俺はソファーに倒れこんだ。あれだけのことがあって眠れないかとおもったが直ぐ様睡眠へと落ちていった。

やっとこさ赤髪登場です。一度データ消えて魂抜けました。


誤字脱字、意見とコメント楽しみです。

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