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プロローグ:2

 と、このとうり校門に独りポツンと呆けている訳だが、特に目的地もないのでそそくさと一目を掻い潜って自宅へと帰ることにする。


 いや、違う。近場でポイントカードも作ってしまった業務スーパーに行かねば。冷蔵庫の中身には空っぽのはず。比喩表現ではあるが確かソース類と粉類しかない、あいつらは中々減らないからな。味に飽きたら結構辛い。それを学習してから何時も少量サイズのものを買うようにしている。主婦の知恵ならぬ主夫の知恵だ。妻も彼女も居ないのに主夫は嫌だな。別の言い方は独身貴族か、名前からして偉そうだ。貴族だぜ?それはもう偉いセレブに決まっている。

 

俺も男なのだから料理には興味はなかったが、素材をさばく時に感じる素材に対する征服した気持ちになれる。もう「お前はもうまな板の上だぜ、生殺与奪は俺の手に。ハハハハハ!」みたいな。俺のなかの魔王が生き生きとしているのを感じて以来料理をぼちぼち作るようになった。そして腕がよくなった。


◆◇◆


 とりあえず食材ゲット。国産を選ぶように心掛けている。ILOVEジャパン。…ほんとの話、今や食料自給率はほぼ100%らしい。ほとんど国産である。昔は食料自給率はかなり低かったらしいけど、科学の発展と共に日本でも生産が可能になったらしい、実用性込みで。遺伝子組み替えされているとはいえ味や品質も変わらない気がする。遺伝子組み替えだとか表示しなければ絶対わからない。食材の声が聞こえるほど料理人ではないしな。


 両手にエコバッグを吊り上げている姿は中々生活感溢れるものである。袋から葱やら卵パックをちらつかせて生活感を更に増加させている。自転車持ってくるべきだったか、腕が辛い、鍛えられそう。重い。

 自宅より最も近いスーパーもあるのだが、業務スーパーのほうが品揃えも豊富で安い。断然お得だ。それが今腕に負担をかけている。欲張りすぎた、タイムセールだからって。

 タイムセールとか割引されていると何だか買いたくなっちゃう。これも科学で解明されているらしい。科学無駄なものまで解明するな。

 

 科学にダメ出ししている間に目の前、ざっと10m先ほどにやたらブラブラ、いやおろおろしている影がある。輪郭としてはスカートで若干ジャギィのかかったロングヘアーの髪。清純派と見せかけて少し反抗的とでも言いたげな髪型だなぁ。ピアス無し、煙草無しにお酒無しの優等生さ、天才性が滲み出ている。

 

 俺の高校の制服だ。しくじったなぁ、見知らぬ相手ならいいけど、白髪だけ覚えてるような輩は多いからな。逃げたい。

 でもって両手に花ならぬ両手にエコバッグだ。走れないし、走ると音が出る。

 そして俺も同じくおろおろする。見た感じ同じ動きをする不審者にしか見えないだろう。白髪ってイメージだけ焼き付いたら大体俺に通報来るんだよなぁ、勘弁してくれ。

 またしくじった。目の前のあの子から目を離したのが俺の敗因だ。なんで失敗するかな、目の前の黒い影の女の子はこっち側、或いは向こう側を向いて固まった。どちら向いてるなんて輪郭でわかるわけがないだろう?

 こちらも蛇に睨まれた蛙の如く固まる。影が段々大きく、すなわち近づいてくる。知らない顔だと願おう。知ってる顔のほうが少ないけどさ。

 「代々世…朔佐…?」

 ここにきてやっとのこと俺の名前が呼ばれた。


 やっとだぞ、おい。俺の名前は代々世朔佐。代替品に代替品を重ねて世捨て人の世、朔月の朔に人偏に左右の左だ。解りにくい。代々世は断じてyoyoyoと読まない。間違えるやつがいて―いや、名前はそれほど覚えてもらえた試しがない、ようは白髪が印象強すぎなんだよ。今度絶対髪染めよう、毛染め真っ黒だ、うんうん。

 

 「あ、ああ。俺が代々世朔佐だけど…哀紅さんでいいのかな?」

やばい、そこまで自信がないのに話ししてしまった。これで間違えていたら穴に埋まって死ねる。穴を掘らねば。名前覚えてもらえないと愚痴を溢したくせに名前覚えてないとは救いようない愚か者だ。


 「ああ、うん。私の名前は哀紅藍火、というか名前覚えてるだなんて。学校では面識も交流もゼロに等しいのに。まぁ、あの事件というか、一寸したいざこざは最近だったしね。ストーカーで名前把握していたのなら死ね」

 「一息で言い切った!?さらりと韻を踏みながら人に暴言を吐くな!」


 韻を踏みながら暴言って。新手のラップ使いかよ。


 「まぁそれはそこら辺に置いといて、私は貴方に謝罪をしにきたの」


 謝るつもりが全然伝わってこない。建前で謝ろうとしている気がする。はじめ先生、どうやらこの子ははじめ先生の心理アイズから逃れた模様です、はじめ先生しっかりしろ。


 「でも気が変わった、あなたの顔が気にくわないし鬱陶しいし苛々するから決闘しましょう。決闘をします。レッツデュエル」

「ここで優等生の王女様とかが言いそうなテンプレ要素ぶちこむな!」

 

 でもデュエマ知っていることに少し親近感というか、少年の心を刺激した。いいね。好感度上がってるぜお前。


 「そう簡単に好感度上がるなんて安い男ね。冗談決闘何てしないわ、貴方が闇のデュエルで敗北するのは決定事項だもの」

 「人を生まれながらの敗北者みたいに言うな」

 「みたいに、ではなく実際に敗北者なの。ルーザーなの」

 「…」


 ノーコメントでお願いします。もう付き合ってられん、一体なんなんだこの女子高生は。人をしっちゃかめっちゃかに掻き乱しやがって。


 「…そ、その。ごめんなさい、貴方に迷惑をかけてしまって」

 

 彼女は突然咳払いをしてしおらしい態度でそう言った。

 如何にも反省しているような態度だ、先ほどのやり取りがなければ俺とて一撃で落とされていただろうに。先ほどのやり取りがなければ。反省…してるのかなぁ…。俺も甘いおとかえではない。安い男とは言われたが甘い男とは言われないぞ。苦い男とは何なのだろう。

 

「代々世君?大丈夫?ぼーっとして。あ、私の迫真の謝罪と美貌に心を奪われたのね。私ってば罪な女」

「今許そうかなって揺らいでたのに!迫真の謝罪ってなんだよ。罪な女じゃなくて実際に罪背負ってるだろ、点数だだ下がりだったことに八つ当たりして。モンスターなペアレントやら取り巻きやらで袋叩きにしやがって」

「じゃあなに?土下座しろって言うの?こんな可愛らしい女子高生を夜の道端で土下座させるなんてマニアックなのね」

「そこまでは言わないけどさ」


 そこまでは言わないけどさ。これ以上言うとみみっちくて器の小さい男っていうレッテル貼られそうだしなあ。


「土下座したら直ぐにスカートやらシャツやら破いて大声で叫ぼうと思ったのに。15歳の女子高生に陵辱の極みをした最低最悪の男子高校生になるところを、運のいい男、悪運のいい男」

「最低だな」

「そんなことするわけないでしょう。冗談よ冗談。冗談の通じない男は嫌われるわよ」


 冗談だったのか、絶対しそうだよな。否、する。そしてちゃっかり冗談の通じない男ってレッテル貼られそうだし。異名が増えそう。


「嫌われるとかべつにいいんだけどさ。既に嫌われてそうだし。謝罪の応えだけだど許すからもう帰っていいよ。むしろ帰って下さい」

「えっ!?これから私を人目のつかない暗がりに誘い込んで謝罪の要求として肉体のあんなとこからこんなところまで蹂躙されると思っていたのに!?」

「俺はどんな鬼畜野郎だ!」

「しょうがないわ、私が人肌脱ぐしかないようね…」

「や、やめろ俺は勘違いで性犯罪者になりたくない」

「あら、私はただ人肌脱いで貴方と携帯番号とメルアド交換してあげようと思っただけよ。代々世君たら何を想像して妄想していたのかしら。ほら」


 といつの間にか取られていた端末が放物線を描いて丁度手の内に入る。危ねぇ、万が一にも落としたら複雑骨折だぞ、端末が。彼女の端末は可愛らしいストラップが釣り下がっていると思ったが、俺と同様無愛想な初期出荷状態だった。不自然さを感じる。普通、というか哀紅ならデコレーションやらストラップやらと如何にも友達とお揃いみたいなのかと思ったが。

 ちゃんと電話帳とアドレス帳を確認したらしっかり、あ行だから一番最初に登録されていた。元々は家族かはじめ先生か数人しか登録されていなかったが、これであ行が埋まって開いたときの物寂しさが無くなった。

 …俺彼女に連絡することあるのかな。


「物凄く寂しいアドレス帳で目頭が熱くなってきたわ。大丈夫?」

「余計なお世話だ。お前の連絡先を悪戯には使わないから安心してくれ」

「ふぅん、これで謝罪と借りは返したことだしスッキリしたわ。気分爽快よ」

「そうか。じゃあまた会えたら、また会おうぜ」

 

 彼女は本当にスッキリしたようで少しスキップしながら帰路に戻っていった。少々下手くそなスキップだけど。そして俺は初の女子高生の連絡先を偶然にも手にすることができた。使い道がなくとも人との繋がりが持てたことは素直に嬉しいことだ。

 もちろん俺はその二日後にその連絡先に面倒になるなんて思いもしない。連絡しようと思ってもいなかったのに。


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