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俺の造ったAIが我儘すぎる件  作者: 桜音ハル
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夕飯と缶コーヒーといつもの

――カタカタカタカタカタカタ――



「ますたぁ~。お夕飯まだですかぁー? そろそろホンキで、お腹すいたんですけど」

「まあ、待ってろ… …これ結構難しいんだぞ?」



――カタカタカタカタカタカタカタ――


 

「えーっ、そう言って、もう三十分以上同じモノと格闘してるじゃないですかぁ。い

加減、一品くらい出来上がってもいいと思いますけど?」

 


そう言われても出来ないものは出来ない。

 第一、まったくやった事ない事を数十分そこらですぐに出来るようになる訳ないじゃないか。コイツは俺の事を、どこぞの龍悦した料理番組の達人達と同系列に考えているのだろうか?



――カタカタカタカタカタカタカタカタ――



「いくらやった事は無いとは言え、『調理方法』はマスターの得意分野でしょう? だったら、超上手く! とはいかなくても、カタチ程度はなるんじゃないですか?」


 俺の思考など丸わかりだ、と言いたげな口調で的確に文句を垂れてきた。


「得意分野だからこそ妥協はしたくないんだよ… …分かるだろ?」


「分かりません。お腹すきました」



――カタカタガキッ――



 こいつは――作って貰ってる分際で言ってくれるじゃないか。

 まあ落ち着け俺、もう少しだ。もう少しで上手くいきそうなんだから、あと少し我慢すれば、この我儘な奴もあまりの上手さに何も言わなくなるだろう。



――カタカタカタカタカタカタカタカタカタ――



「ま~す~たぁ~、は~や~く~~~~っ」



――ガキッ❘カタカタ――



「お~な~か、す~い~た~~~~~ぁ」



――ガギッ、――ガリッ

「〝あ〝あ〝あぁっ!?」



――ダァンッ!!



「さっきから言わせておけばっ! 人に作らせておいて何様だよ! そこまで言うなら自分で作れば良かっただろッ!?」


「だーかーら、数分前にも言ったじゃないですか。マスターに作って貰わないと意味がないんですよ。『食べ物』と言うのは食べられてカラダの一部になるんですから、それともワタシの一部になるモノが、マスターが作ったモノじゃないわけの分からないモノでもいいのです?」

 

「ぐっ… …答えが分かってて言ってるだろ」

 

「とーぜん♪ だってワタシはマスターが作った自立思考型プログラムですよ。世の中のあらゆる知識を入手する以前に、マスターの思考パターンの解析は終わってますもんっ」


 

 そんな単純思考の持ち主じゃねーよ。

 と言いたいところだが、驚くべきことに今まで十数回にわたって、このムカツク1と0の塊に俺に関しての質問をしたところ、的中率は驚異の98.4%、もう完全解答と言っても近いくらいに俺の脳みそを分かっているらしい。

 だから、なおの事面倒くさい。

 改めて思うが、どうして俺の作った自立思考型受け答えプログラム、つまり俺の作ったAIは思い通りに動いてくれないのだろうか。


 

「なぁ、俺の思考パターンが完全解析済みってことは、俺が望んでることも分かってるんだよな? 何で、俺の想定通りに会話してくれないの?」

 

「そんなの簡単ですよ。だって、マスターの全て思い通りにワタシが答えたら『面白くない』じゃないですかっ♪」

 

「全てに『Yes』で答えてくれなくてもいいんだよ。ただ、大部分はさ。6、7割くらいは創造主であるマスター(俺)に従って受け答えなり、甲斐甲斐しくサポートしてくれたりしてもいいんじゃないの?」


「い・や・だ・っ♪」

「ちぃっ! 相変わらず可愛げのないヤツだ! いい加減削除して、本気で主が誰なのか解らせてやった方がいいのではないだろうか… …って顔ですねっ?」

「ふっふっふ、残念ですねぇ。そんな事をしたって数分後にはワタシは不死鳥の如く蘇って来て同じ事繰り返すだけですよーっ」



 ―――ここでまコイツの自演。

 はぁ… …でもその通りなんだよな。コイツ曰く、俺がこのPCにプログラムとして作成して自我をもたせたところ、コイツ自身自分の危うさに気づき、自分で『バックアップ』を取ったらしいのだ。それも海外のサーバ―内に。それも数百単位の場所に。

 まさに、「ワタシはどこにでもいるもの…」的な存在なのだ。むかつく事この上ない。

 なら、パソコンからブロックしてしまえばいいじゃない。その通りだ。



「はぁ…」



 やったよ… …何十回もやったさ。その度にコイツは俺の作成した『壁』をすり抜けて入ってきやがる。つまりハッカーとしてもコイツは一流なのだ。

 自分の創ったプログラムにウイルスの如く侵入を許すとは… …何なんだろうね?



「まあまあ、そう気を落とさずにマスター。いくら自分の創ったAIに絶対優位を取られてプライドずたずたでもマスターはワタシのマスターですからっ」


「全然、慰めになってねぇよ… …というか、それ慰めに見せかけて追い打ちかけてるよな? 絶対そうだよな?」


「ソウ感じるのはマスターの心が薄汚れてるせいですっ」



 ズビシッ――とでも聞こえてきそうなポーズで指を俺に突き出している。まあ、こんな言い合いも何回やったか分からないくらいだしな。いい加減飽きてきた。


「はいはい。どうせ床拭き掃除用の雑巾のように俺の心は薄汚れてますよ。ほら、そうこういってる間に一応出来たぞ。味の保証は出来ないけどな…」


「何もソコまでは言ってないですけどね。マスターは相変わらずネガティブ思考ですねーっと。わーぃ、やっとお夕飯だー。もうお腹空きすぎてグラフィックプログラムが崩壊しそうでしたよ。」


 それはそれで見てみたいな… …100%冗談だってことは分かってるんだが。

 俺は一仕事終えたと一息をつき、右にある缶コーヒーを手に取った。少し口に含み、舌の上で転がすように糖分を頭で感じながら、ディスプレイの中で自分よりも大きなドーナッツと格闘している少女を眺めた。

 満面の笑みだ。何がそんなに楽しいのだろう。

 それとは対照的に黒い壁紙に写るのは20代前半くらいで眼鏡をかけ、寝むそうというよりは目の下の隈をつけ、まさに『死んだ魚の目』をして頬杖をついている青年。

 締めたカーテンからは薄明りが差し込み、薄暗い独特の暗室を作っていた。この『薄汚れた』空間でただ一人、俺の話す相手は俺の造ったプログラム。




 


 この一空間で俺の心と一日の全ては完結していた。


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