素敵な恋文は良き読み物なり
丁寧さを意識して書かれたと分かる文字を目に追うごとに、少しずつ胸が熱くなっていくのを感じてくる。恥ずかしく感じるくらいに私を褒め称えてくれる言葉は、スッと心に沁み込んでゆく。"あなたの透き通るほどに綺麗な瞳に見つめられるだけで、天にも昇るようだ"なんて!こんな言葉を言われただけで思わず頬が緩んでしまうもの!
ああ!私の容姿も性格も真っ直ぐに褒めてくれるこの手紙は、なんて素敵なものなのかしら!最後の文字まで読み終わると、ホッと息を吐き出してしまうわ。もう、読み終わってしまったことを残念に感じながらも、広げた手紙をそっと撫でながら机に置く。
一息入れるために用意していたお茶を軽く口につけてみると、程よい温度まで冷めていた。
読み終わったばかりの手紙を思い返しながら飲むお茶は美味しくて、これも楽しみの一つなの。
半分くらいまでお茶を飲んでから、もう一度手紙に目を通してみる。うん、やっぱり胸が熱くなる素敵な手紙ね。これはちゃんと大切に保管しなきゃ!
そう考えると、本棚から今まで貰った手紙を大切に保管しているクリアファイルを取り出す。また新しいページが埋まることが、嬉しくて思わず にへ と変な声を上げてしまうわ!ぁあ!少し恥ずかしいけど、それだけ嬉しいんだもの!
ふっふふ、これで12枚目になってきたわね。順調に集まってきているのが嬉しくて仕方ないわ。
よーし、今日は3枚恋文を貰ったから、あと2枚もあるわ!まだまだ、楽しませてくれることがとても心を弾ませてくれるね!
次はどれにしようかしら?この封筒もなくて、簡単に二つ折りされた手紙にしてみましょう。
新しい手紙を開いてみると、荒く書き殴られた文字が私への思いを告げてくる。でも、文字を読み進んでいっても、私の心へと沁み込んではこないの。私の容姿を褒めてくれているけど"可愛い"の一言だけだし、何よりも自分を褒めている言葉ばかりで読んでいても面白くない。
私は、私を褒めてくれている言葉を読むのが好きなの。あなたの得意なことなんて興味がないわ。
うーん、これは外れね。そう考えると手にした手紙を足元に置いていたゴミ箱へと落とす。
たまに面白くない恋文があるから、困るのよねー。とため息を吐きながら、残ったお茶に口をつける。
最後の1枚が、素敵なものだったら良いのだけど。そう期待を込めながら3枚目の手紙を開く。
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栗原 響子様へ
綺麗で美しいと噂のあなたにどうしても聞きたいことがあったので、
この手紙を書いてみました。
あなたは多くの人から恋文を頂いていると思うのですが、
それらに返事を出さないのは何故でしょうか?
良い返事でも悪い返事でも、返事を書いてあげるべきだと思うのです。
例えば、3日ほど前に貰った手紙とか読んでいるなら、
その返事だけでも良いのですよ。
駄目なら駄目と、はっきりと返事をしてやってほしいのです。
本当にお願いします。
毎日毎日、あなたとお付き合いした時の未来予想というか、
妄想を聞くのは嫌気を感じるくらいに飽き飽きとしているのです。
あなたと手を握りたいだの、抱きしめたいだのと、
どうでも良いことを毎日のように聞かされる気持ちは分かるでしょうか?
恋文を書く前からですので、かれこれ半年ほど聞かされているのですよ。
何でも入学式で一目ぼれしたとか、恋文にも書いてたのではないでしょうか?
どうでしょうか?嬉しいですか?
もしも嬉しいなら、さっさと良い返事を出してあげてください。
気持ち悪いと感じるなら、諦めたくなるくらいの返事を出してあげてください。
もう、妄想や知りたくもないあなたの美談とかは聞きたくもないのです。
きっと、返事が来れば止まると思うので、どうかお願いします。
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えっ?なにこれ?
変わった恋文…なのかしら?
でも、私を賛美する言葉見つからず、もう一度読み返してみても意味が分からない。
返事ってなに?この恋文には、返事なんて書かないといけないものだったの?なんで?恋文は私を褒め称えてくれるものなのでしょう?
良く分からないわ。良く分からないからとりあえずは、この恋文に返事を書いてみれば良いのかしら?
そうね、結局どうすれば良いのか聞いてみると良いかもしれない。きっと優しく教えてくれるわよね?
何で返事を書かないといけないのかや、3日前の手紙とは何のことだとか、気になることをサッとまとめて書き上げていく。ふふん、前に字が綺麗と褒められたこともあるので、手紙を書くにも少し自信があるんだ!
書き上げた手紙を3つ折りしてから、淡いピンクの封筒に入れてみる。うん、やっぱりこのピンクの封筒は可愛くていいなぁ!これお気に入りなんだよねー。いつもお菓子をくれる晶子ちゃんも可愛いって言ってくれるしね。
あとは、この手紙を誰に渡せば良いのかしら?貰った恋文をもう一度読み返してみると、最後に小さく名前が書かれていた。あっ、同じクラスみたいだね。それなら直接渡せば良いかな。
ふふ、何だかドキドキしちゃうね!
律儀に名前を書いてくれている人で良かったわ。それとも、今までの恋文でも書いてあったのかしら?誰に貰ったなんて、今まで興味もなかったから気にしたこともなかったわね。
ふと、大切に保管しているクリアファイルに目が止まる。あそこに保管している恋文にも送り主が書いているのかしら?
でも、いちいち調べる気も起きないわ。知っても意味がないもの。
それよりも、そろそろご飯の時間ね。今日は何かしらー。と鼻歌を歌いながら飲み干したお茶を片手に、リビングへと足を向けるの。