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教授を殺せない

「軋世さんあの教授は用済みではなかったのですか?」

 今、世夜と一緒になって、帰り道をを歩いていた。

 世夜は学校に泊まっているため、校門がしまる前に学校にまで戻らなければならない。

「まあ、そう言うな、あいつがいい資金源になっているのは事実なんだ……」

 歯切れの悪い感じで言う軋世。

「軋世さんは、もっと決断力のある方だと思っていました」

 世夜が言う。正直に言うと、あの教授の助手など、もう懲り懲りなのだろう。軋世はその事を分かっていながら、唸って考えた。

「軋世さん……本当ならばあの教授は用済みなので殺すべきです、軋世さんに忠誠を誓っているわけでもないですし、あの教授が生きていたら、脳に登録された魔法式の解除の方法だって見つけられるかもしれません」

 そのとおりだ。欲しいものは手に入ったので、教授を生かしておく理由はない。世界を崩壊させるような、大きな作戦だ。小さな穴一つで、決壊をするような事にでもなれば、悔やんでも悔やみきれないだろう。

「あの教授は、これからも使い道がある。今だって、あいつの研究のおかげで資金が舞い込んでいるんだからな」

 そこまで言うと、軋世は話が終わりといった感じで世夜から目をそらした。

「私がお尻を触られる事くらいならどうってことないですけど……」

 世夜がそう言う。だが、軋世から返事は帰ってこなかった。


「俺のやっていることはヌルいのか?」

 軋世は学校に世夜を送り、自宅に帰る道すがらそう考えた。

「あの教授の事だってそうだ。教授はもう用済みのはずだし、資金なら潤沢にある。なのに、なぜ殺せない?」

 軋世自身に『教授を殺す』という選択肢はない。『なぜ?』と、聞かれても皆が納得のいく返事を用意することはできないように思う。

「これから世界を滅ぼすというのに、人一人を殺すことの、何をためらう?」

 軋世は、自問した。自分に投げかけた言葉は、返事が全く帰ってこない。

「こんなんで、世界を滅ぼすことなんて、できるのかよ?」

 軋世は、また自分について問いかけた。

「たとえば人間の事をダニとして置き換えよう……」

 必死になって考えを絞り出した軋世。

「ダニを自分の手で潰して殺すのは、俺だって嫌だ……」

 だから殺虫剤を撒くのだ。その殺虫剤で死んだダニを、掃除機で吸って捨てる、これならできる。

「なんだ……自分の手で触りたくないだけか……」

 軋世は、自分の考えている事を、そう理解をして、教授の処遇を、考え始めた。


 軋世の自宅は、古いアパートである。資金なら、もっと持っていて、いい部屋にも入れるはずなのだが、軋世はそうしない。

 軋世は自宅に帰ると、壁に取り付けられている写真を見た。

「オヤジの写真か……俺はなんでこんなものを後生大事に……」

 すでに他界をしている父の写真だ。

 その父はまだ四十代はずであるが、白髪に顔に刻まれたシワの深さから、七十代にも見える姿をしていた。

 父は、研究科であったのだという。

 ある人は父の研究は世界を崩壊させる危険な研究だといい、またある人は、父の研究は、世界を変える、画期的なものであるといった。

「世界を崩壊させるか……今となってはどんな研究なのか? 興味があるが……」

 軋世はそこまで言って悔しそうにしていた。

 今となっては父の研究が何の研究だったか? は、分からなくなっている。幼い頃に父の研究はどのような研究であるか? 一度聞いておけばよかったと、今になって思う。

『俺が世界を崩壊させようとしているのの、手伝いくらいにはなったかもしれない』

 軋世はそう考える。

 だが、軋世の計画は、彼が幼い頃から計画をしていたのだ。今となっては父の研究よりも、確実に世界を崩壊させる事のできる計画となっているはずだ。

 軋世はそう考え、父の事を考えるのを、やめた。

 それより、当面の問題は、特務呪法科の見学のことだ。

 軋世の計画を察知した男が、軋世の特務呪法科の見学を計画したのだ。その男は必ず姿を現すだろう。

 敵は、どんな手を打ってくるだろうか? それに対してどのような対策を考えればいいか? そもそも、敵はどこまで軋世の事を疑っているのだろうか? 敵が持っている情報は、どんなものだろうか?

 そう、どんどんと深く考えていく軋世。

 その軋世は、そこでニヤリと笑った。

『そうだ、俺はここまで考えて計画を実行しようとしている。この計画的な行動を止めることができる者はいないはずだ』

 やはり自分は天才だ……軋世はそう考える。

 これは事実だ。軋世は運動でも授業でもトップであるのだ。

 それに、国家上層部ともコネを作っている。この年の人間にしては、出来すぎているくら出来すぎている。

「この天才少年に勝てる奴なんていないだろう?」

 自分でそう言う。

 誰かに聞かれでもしたら恥ずかしすぎる言葉だ。そう感じた軋世は、一度咳払いをしたあと、特務呪法科に見学をしに行く時の事を考えた。


「ここが特務呪法科だ……」

 鳥実は、建物も前に立つとそう言った。

 周囲は森で、人が住んでいるような場所ではない。ここにやってくるのに、車に乗って一時間もかかる場所だ。

「禁呪が暴走したとき、周りに被害が出ないように、こういう場所に建てられているんだ」

 そう言う鳥実。確かに車を持っていないとキツいだろう……ここに毎日通う事を考えると、普通なら気が滅入ってくるはずだ。

「いい場所じゃないですか……」 

 軋世は言う。その言葉をただの心にもないお世辞であると聞き取った鳥実は、苦笑いを浮かべた。

「では中に入るよ……」

 特務呪法科の建物の中は、綺麗であるが、道がホコリを被っている。

「国の施設なんだから、掃除のおばちゃんでも雇えばいいと思うんだけど、ここの施設長がそうしないんだよね」

 理由は、『ここは機密の塊なので一般人を入れるわけにはいけない』と、いう真っ当にも聞こえる理由であるが、『掃除のおばちゃんを雇う金をケチりたいとでも思っているんだろう』というのが鳥実の考えだ。

「ここの施設長は、昔、横領をしていてね。それが見つかってクビになりかけた時、コネを使って偉い人に助けてもらったんだ。ただし、本部に残る事は出来ないもんだから、ここの施設長として左遷されてきて……」

 鳥実は言う。多分、ケチった金の横領でもやっているんだろうというのが鳥実の予想だ。

「どうだい? 特務呪法科がどんなところか? わかったかい?」

 鳥実は言う。

「まだ、入ってもいないじゃないですか……」

 まだ建物の中に入ってもいな状態で、そう言い出す鳥実。

「中を見たら、もっと、ここにいたくないと思うだろうね」

 愚痴のようにしてそう言う鳥実。

 軋世は鳥実が先に入っていくのに続き、建物に中に入っていった。


 本当に掃除のおばちゃんを雇うのをケチッているのが分かる。廊下を歩くと、ホコリが舞い上がった。

 廊下の隅には埃の塊がいくつもあり、もうここは空家なのではないか? と、思うほどの荒れように軋世も唸る。

 まさか、ここまでヒドいところだとは思っていなかったのだ。

「警備員などはいないんですか?」

「いるはずがない」

 軋世の言葉と、それに答える鳥実の言葉。

 ここには警備員が居ないと聞いて、さすがに軋世も面食らった。

「ここは表に出てはいけない禁呪の管理をしているんでしょう?」

 そのような施設が、こんな無防備なのはおかしい。そう考えた軋世は、周囲を見回した。「そうだよ……まあ、施設長の采配だ、私が文句を言うところではない……」

 鳥実もそうは思っているらしい。だが、口を出す気はないというのだ。完全に『お役所仕事』といった感じの内情である。

「これなら、簡単に盗み放題じゃないか……」

 軋世は思わず言う。

「世界を壊すような魔法や、やたらと魔力ばっか食う欠陥魔法を奪って、どうしようというのかね?」

 そう言う鳥実。

「そんな大量破壊兵器が、もし悪い奴の手に渡ったら……」

「施設長の采配だ。私が何かを言えるものではない」

 鳥実は軋世の言葉にピシャリと言って遮った。

『本当に腐っているな……』

 軋世は思う。金の横領をする事しか考えていない施設長。それを止めようともしない周囲。これらを見て、軋世は心の底からそう思った。

「この先が従業員達のフロアだ。ちょっと見たらそれで帰ろう……」

 鳥実が言う。言いようから、『こんなところに来たくない』と、目が語っていた。

 鳥実が、コンコンとドアを叩く。だ返事は帰ってこなかった。だが、そんな事は構わずに、鳥実はドアを開けた。

「どうだい? これが現状だよ?」

 中の従業員達は、とてもではないが仕事をしているようには見えなかった。

 競馬新聞を読んでいるものがいる。軋世は、まさか本当に耳に鉛筆をかけて競馬新聞を読む者がいるのを初めて見た。

 ドアをあけたのに、全く反応がないし、迎える人間はいない。

 ここの連中は、とにかく自分のことで忙しいのであった。

「なんか来客みたいだけど、誰か聞いてる?」

 新聞から目を離さずにそう言う男。それに合わせて、一人の男が立ち上がった。

 イヤホンを耳につけ音楽を聴きながら、軋世達を迎えるその男。

「あんたの顔は見覚えあるよ。鳥実とかいうやつだ。なんか評判が悪いとかで……」

 歯に絹を着せずにそう言う男。

 鳥実の顔は引きつっていた。

『大丈夫ですか……?』

 小声で鳥実に向けて言う軋世。

『ああ、だいじょうぶだ……これくらいは覚悟でやってきたんだ』

 どうも、仕事に対する意欲もなく、意味もなく皮肉屋な男だ。だが、この男が、この事務所では一番マシらしい。他の者達は、来客の対応をやる人間がいるからと、軋世と鳥実の事を、見向きもしなくなっているのだ。

「施設長に用ですか? 多分パチンコでもやっているんじゃないかな?」

 そう言う男はそれからアクビをした。

「まあ、そんなとこだろう。とにかく施設長の許可がいるんだ……待たせてもらう」

「許可? 許可ってなんすか?」

 その男は言う。

「君は自分の仕事に戻れ。私は適当に待たせてもらうよ」

 そう言い、鳥実は軋世についてくるように指示を出した。

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