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軋世の洗脳

 今、軋世達は教授の研究所に揃っていた。研究室の奥に倉庫がある。埃っぽいそこからシートをかけられた機械を引っ張り出してきた教授。

 その倉庫は普通の倉庫といった感じの場所だった。中には古い機械などがあり一人カラオケのボックスなどもある。

「私だって、楽しみの一つや二つくらい持ってもいいだろう……」

 教授の生活感を感じる倉庫の中を見た軋世達は、呆れたような顔をした。

「これが、魔法麻薬の開発者の倉庫ねぇ……」

 そう遼子が言うが、教授はその言葉を無視して話を進める。 

「これが問題のビデオテープだ……」

 教授はそう言ってビデオテープを再生させた。

「今の時代にビデオですか……」

「そりゃ、ずっと昔の研究だからね。それに、わざわざDVDに焼き直すようなものでもないし……」

 そう言う教授。その先は全員黙って映像を見続けた。

 十五年前の日付が映像に浮かび、それから一人の赤ん坊の姿が映った。

 すやすやと寝息をたてているその赤ん坊の頭に電極が付けられた。

 耳にはヘッドホンを付けられる。それからその映像の右側に縦書きで『実験開始』という文字が現れる。

 赤ん坊の体がビクリと震えた。それから、その赤ん坊は泣き始める。

 だが、いくら泣いても一定間隔で赤ん坊の頭に電流が流され続けた。

 その後、映像に一人の男が現れた。

『脳に電流を流し、耳から特殊音波を流すと、脳が少しずつ犯されていき洗脳と同じような状態になっていく』

 そう、今の実験の事を解説する研究者の男。その男の顔には軋世も見覚えがあった。

『オヤジ……』

 そのシワの刻まれた顔は軋世の父親の顔であった。軋世はその映像を見て察する。

「これは俺か……?」

「そうだ……君は父からある洗脳を施されている……」

『私の作った新しい人間を作り出す研究は確かに危険だろう。だが、世界を見回せば危険な力を実用化して平和利用をしている例なんていくらでもある。このように、幼いうちから洗脳を施していけば、将来立派な人間になるはずだ』

 ビデオテープの中の軋世の父はそう言う。

「自分の研究を認めてもらいたい一心でね……私だって研究のために失ったものは多かった。魔法麻薬の研究などはやめて別の研究でもしていれば、こんなに落ちぶれずにすんだかもしれない」

 教授は言う。

「今が落ちぶれているんですかね?」

 世夜が言う。

 教授の研究は成功をして実用化をされつつある。世間に向けて量産をされているのだ。今となっては偉大な研究であると言えるだろう。

「でも結局は研究費用欲しさに、大悪人と手を組んだマッドサイエンテストだ」

 そう臆面もなく言う教授。

「そんな事ありません! 軋世さんの計画に協力を出来たのは光栄のはずで……」

 世夜がそこまで言ったところで軋世が世夜を止めた。

「すまない世夜。今は教授の話の続きを聞くのが先だ」

「ですが軋世さんの事を大悪人なんて……」

「世夜……君だってボクの事を大悪人だっていっていたじゃないか」

 軋世が言い教授に視線を向ける。教授はそれを見て話を続けた。

「私は自分の研究を完遂できた。それでもう心残りはない」

「しかし、平和な方法では利用されませんよ。ヤクザに言って販売をしてもらっているくらいですからね」

 軋世が言う。

「それでもだ……」

 教授は言う。表情を見ると何を考えているかわからないが、教授はこの結果に満足はしているようである。

「私の研究の成果で麻薬にのめり込んで人生を壊すような人間は一人でも減って欲しいものだ」

「過去になにかありましたか?」

 遼子が聞く。教授は遼子の方を無表情で見た。

「君ほどのものがあるわけではないがね……」

 教授は言った。軋世はそれで、遼子の肩を掴んだ。

「それ以上は言わないほうがいい……」

 遼子はそう言われて言葉を止めた。

「そうだな、君の昔の話は知っている。今は安静にする事だ」

 教授は言った。

「それで、わざわざこのビデオを見せたのだ。この赤子はこの時、世界を滅亡させるように洗脳をかけられていた。そして、今その洗脳が解けかけている」

「俺が世界を滅ぼそうとするのは、オヤジの洗脳?」

 軋世はそう言った。本人はその事実に思うところはある。だが、軋世はそんな事はまったく顔に出さずに言う。

「関係ないね……」

 軋世の言葉に、遼子と世夜の二人は顔を明るくした。

「この世界を滅ぼそうとしていたのは洗脳だって? 洗脳だろうと何だろうと関係ない。この人間世界を滅ぼす理由なんて山ほどある。今になってそれを止める理由は何もない」

 教授は、何かを考えるようにして目を閉じた。

「老い先短い人生……研究は完遂したし心残りはない……」

 そうして、遼子と世夜の事を見る教授。二人の顔は軋世の言葉を聞いて顔を輝かせていた。

「本当にいいのだね……?」

 教授は二人に向けて言った。

「もちろん!」

 世夜と遼子の二人は声を揃えてそう言ったのだ。


「今になって計画を止めるなんて不可能だ……」

 軋世は言う。今は田園地帯にいる。周囲は使われていない田んぼであり、そこから何匹もの虫が出てくる。その虫の事は気にせず軋世はその場に座っていた。

 軋世は今空を見上げていた。今日は三人は教授の研究所に泊まる事になった。

「本気で世界を破滅させる気はないのかい? そんな弱気な事を言うなんて……」

 後ろから教授が声をかけてくる。教授は軋世の隣に座った。

「こんなにデカい事をしようとしているのだ。本気でやってくれなきゃ達成できないぞ」

 今はみんなが寝静まった夜中である。ここでは町の光が空を照らさず星がくっきりと見える。

「迷いがあるね……彼女達をぬか喜びさせただけだったかな?」

 教授は言う。何が楽しいのか? 教授は軋世にそれを言ってニヤリと笑った。

「みんなが寝静まったのを確認してからやってきたんですよ。何で起きているんですか?」

 軋世は教授に向けて言う。

「随分迷惑そうな顔をして言うね。昔の君はそんなに簡単に表情を表す事なんてなかったのに……」

 そして、軋世の言葉に答え「これくらいの年になると、少しの物音で目が覚めてしまうのだよ」と付け加えた。

「君はもう普通の高校生だよ。シンデレラの魔法はもう解かれてしまった。それでもお姫様を演じ続けるのかい?」

「気持ち悪いたとえですね……」

 軋世は言い教授はニヤリと笑った。

「まったく、少し前の君はこんな軽口には付き合わなかったのに……随分と愛想が良くなってまあ……」

 教授が楽しそうな顔をしている事に軋世はイラついていた。

「まあまあ、そう気を悪くしないで……」

 教授は言う。

「普通の高校生に世界を滅ぼす事なんてできるのかね? 今の自分にそれができると思っているのかい?」

「計画の大部分は完遂している……それに、今はヤクザとのつながりまであるんだぞ……いきなり手を引けるような状況ではなくなってる」

「それはそうだろうがね……君はこの虫が殺せるかい?」

 教授は近くにいる虫をつまんで軋世に渡した。虫一匹を殺すのを躊躇するような状態で人を大量虐殺などできるのか? と、聞いているのが軋世にはわかった。

 軋世はその虫をためらいなく握りつぶした。そして虫を上に放り投げるとその虫は空を飛ぶ鳥に空中でキャッチされる。

「鳥まで操るのかい? 君は……」

「こっちに降りてくる鳥を確認しただけですよ」

 それに合わせて虫を放り投げたのだという。軋世の行動力や洞察力はいつも教授も舌を巻いていたところだが、それは洗脳が解けた今となっても衰えてはいないようだ。

「こんどは何を研究すればいいんだい?」

 教授は言う。どうやら、軋世は今でも世界を滅ぼす余力があると感じてくれたようだ。

「魔法の複製をお願いしたい。この前盗み出した禁呪を使って……」

 軋世はそう言って研究所に戻った。

「ついてきてください。持ってきてあるんですよ。その禁呪……」


「一言で言って『麻薬』ですね……これは快楽中枢に直接作用するようになっています」

 ここは魔法医学の研究所である。ある医師に連塔の持ってきた魔法麻薬を渡した。

 ここは客間になっていて、ソファーが並べられている。二つのソファーが向かい合わせに並べられていて、壁は綺麗なくらいに白く、カレンダーや絵が壁に下げられている。

『この魔法陣の解析を頼む……』

 連塔はそれだけ言って医師に渡した。医師はこの魔法陣が麻薬なのであるという事を見抜いた。そして、この魔法麻薬の中に込められている術式には何か違法なものが使われているいるだろうか? と聞いてみたのだ。

「分かっている事があるなら先に教えておいてください。解析を頼むのであれば、そちらも本当の事を言ってくれないと……」

 やはりこの医者は頭が切れるらしい。連塔はこの魔法の中身を知った上で医師に渡したのを気づかれたのだ。

「すまない……」

 医師の様子は連塔の事を恨んでいる感じだ。こんな事をして試すような事をされたら、誰だって不満に思うだろう。

 連塔が一言そう言ったが医師の機嫌は直らず、不満を持った顔のまま話を続けた。

「一部、麻薬効果に関係のない術式も組み込まれています。これは見たことのない術式なので調べるのには時間がかかると思います」

「解析できなかったのか……?」

 連塔は聞く。医師は「ふん……」と、不機嫌な顔をしながら言った。

「先に麻薬だと教えていただければ解析にこんなに時間はかかりませんでしたよ。この術式を調べる時間が足りなくなったんです」

 連塔はこの医師をたばかろうとした事を反省した。どうも信頼感なども失ってしまったらしい。

「この術式の解析を続けますか? 調べるには時間がかかりそうですよ」

 医師はそう言った。様子を見るに面倒そうである。これ以上ものを頼むのは無理か? そうおもった、連塔は医者の顔をうかがった。

『こんな事で時間を食っている場合ではないのだが……』

 そう思うが口には出さない。これ以上この医師の機嫌を悪くさせるわけにはいかないのだ。

 こういうしがらみがあるのが、人間世界のめんどうなところだ。そう考え、連塔はその部屋から出ていった。

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