遊園地で
軋世は遊園地の中心で周囲を見回した。
こんなところに来たのは小さな頃以来だ。あの頃は一体何が楽しかったのか? 軋世は昔の事を思い出そうとした。
今は、どう考えてもつまらない。どうすれば、遊園地を楽しめるだろうか? と考え始めたのだ。
「一体何がおもしろいんだ……」
軋世はついそういう言葉が口から出た。
「おいおい……我々をここに連れてきたキミが言うかい……」
軋世の隣にやってきた教授が言う。
「なんか、君が何故我々をこんな所に連れてきたのか? 心当たりができてきたよ」
教授は言った。
「まったく……こそこそ探ったりせずにさっさとここに来ればよかったんだ……」
あのあと、不良警官から話を聞き出した連塔は黒曜組の組長のところに案内をされた。
連塔は何かの罠じゃないか? とも思ったが、それに従わないわけにはいかないため言われたとおりにやってきたのだ。
「本来なら、私達は犬猿の仲のはずですよ……」
組長の言葉にそう返事をした連塔。
布団から身を起こし連塔に向けて話しかけた組長は、口の端がつり上がっていた。
「うちらは何も悪いことをやってないぜ……」
いきなりそう言い出す組長。その言葉に連塔は面食らった。
こんな言葉は誰だって言う言葉だ。そんな事くらいで動揺をするのを見た組長は、逆に驚いていた。
「こんな言葉一つで、ここまで驚くとは思っていなかった……」
話に聞いたとおり、この男は本当にバカがつくほど真面目な男のようだ。そう感じた組長はニヤリと笑った。この男なら与しやすいと思ったのだろう。
「昔の事をつつかれれば埃も出てくるだろうが、今は合法の商売をやっているぜ」
そう言い、組長は魔法陣を部下に持ってこさせた。
「これは……?」
驚いた顔をした連塔。連塔が驚いた理由を分からない組長であるが、彼はそのまま話を続けた。
「これは新作の魔法よぉ。麻薬といえばそうかもしれないが、中毒性も体への悪影響もない画期的なもんさ……」
紙は何百枚と積まれている。それを見ると連塔は察した。
たしかにこの魔法陣型の麻薬は見覚えがあった。
「これを……一枚売ってもらえますか?」
連塔は言う。
「あんた……警官なんだろう? 気でも違ったか?」
組長もそう言い出す。
「あなたが合法という、この魔法麻薬を解析します。もしかしたら、違法のプログラムが使われているかもしれません」
「そうかい……」
組長はそう言って連塔の事を睨みつけた。連塔は組長の視線を何も返事をせずに受け止めた。
「売ってやれ……」
「組長……しかし……」
組長と構成員の会話。ここの構成員はこの麻薬を売ったらマズいと思っているのだ。
「あのガキの事だ。ヘマはしねぇだろう……」
そう言うと、連塔は固まった。
「あのガキ……?」
連塔がそう聞くと組長の顔は曇った。
「作った人間の事は漏らせねぇな……」
その組長に連塔はさらに言う。
「八幡 軋世ですか?」
そういうと黒曜組の連中は固まった。
「漏らせねぇな……それで、話はまだあるかい?」
今の言葉で黒曜組の連中は、連塔の事をくみしにくい人間と見たようだ。
「客人のお帰りだ……」
そう組長が言うと、連塔は肩を掴まれた。
「自分で帰れる……」
連塔はそう言うと、自分の足でこの家から出て行った。
あの当夜という少年もこれと似たような紙を持っていた。そして、あの時に感じた体がふらつくような感覚を思い出す。
「なぜ、当夜はあそこでこの魔法を使ったのか?」
連塔にあの魔法麻薬を使う事だけが目的だったのだ。だがそれで何があるのか? ちょっといい気持ちにさせてみたかった……なんて事はありえない。
『解析をしてもらおう……』
連塔はそう考えた。この魔法を解析することで、何かがわかるだろうか? 連塔はそう考えたのだった。
「最初は何がなんだかわからなかったが……」
教授と軋世は近くにあったベンチに座った。周囲には遊園地で遊ぶ人々がいた。彼らの様子を見ると、この場にいるのが居心地悪くなってくる。
「当夜君の事で、君も考え直す事があったのだろう?」
「……そうです……」
そう言った軋世。
「君も慣れない事するもんじゃないよ……」
世夜も遼子も、軋世のこの行動には疑問があるようだ。当然、教授も軋世の行動はわけがわからなかった。
「年の功だね。君は本当に不器用な男だよ」
教授が言う。
軋世はただ単に、仲間達と親睦を深めるために遊園地に来たのだ。
当夜は、軋世の命令を無視して勝手に連塔の事を殺しに行ったのだ。そして、自分の意にそぐわない行動をした当夜を軋世は殺した。
「こんなの独裁者のやる事だ……世界の指導者達は、基本的には民衆の支持があって成り立っているものだ」
今となっては悪人の台頭とされている男達は、国民の支持によって権力が成り立っていた。
独裁をするのにも協力をする人が必要だ。軋世は自分に信頼感を向けられていないのではないか? と思ったのだった。
「君は意外と繊細な人間なんだな……」
教授には軋世の事を見透かしたような事を言う。そして、軋世自身もそれを感じ始めていた。
「私は、何があっても君の事を裏切ったりしないよ」
教授は言う。
「なんか、ストックホルム症候群みたいだな……君の弱いところを見て君の事をさらに信頼するなんてな」
教授は言う。
「あの二人の女の子はどうだろうな? 今からフォローを入れておいたほうがいいかもしれんぞ」
教授は言う。軋世はそれを聞いて歩き出した。
「すまない教授……」
軋世はそう言葉を残して世夜と遼子を探しに行った。
「また最近になってあの時の事を夢にみるようになって……」
遼子の事を見つけて軋世。出会い頭に遼子がそういうのを軋世は黙って聞いていた。
「わたし……こんな世界はなくなってほしいのに……」
そう言う遼子。今彼女の頭はぐちゃぐちゃになっているのだろう。なにを言えばいいのか? 遼子の頭の中でも整理をしきれていないのだ。
今はもう深夜だ。客の数も少なく店員が一人だけの店で、俯いた遼子と軋世が座っている。
軋世は遼子の様子を見て言う。
「もう強がりは無理だ。いますぐにでも精神科医に診てもらわないと……」
「それは絶対に嫌!」
ぴしゃりと遼子は言い放った。
「私が何をして欲しいか? 分からないのですか?」
そう言う遼子。
「分かっている……だけどそれは俺にはできない……」
「いまさら悪魔か何かのフリですか?」
軋世は自分をただの人間ではないと思っている。人間らしい感情なんてないし、人を慰める方法など知らない。
知識では知っているのだが、それを実行するような心はないのだ。
「当夜の仇討ちをしてくれたんでしょう? 自分の身を危険にさらして……」
遼子が言う。
軋世は特に反応はしなかった。
「人間らしい行動に見えますよ……完全無欠の殺人マシーンのふりをしている八幡 軋世さん?」
「人を殺して『人でなし』と言われるのはわかるけど……」
軋世はそう言った。軋世は本当は遼子の言った言葉の意味を分かっている。
だが、軋世はそれを行動にうつすような気持ちは、自分には残っていないと感じているのだ。
「もういいです……」
遼子は軋世に向けてそう言った。
遼子はとぼとぼといった感じの足取りで歩いて行ったのを軋世は見送った。
軋世はそれから考えた。
自分が作ってきた仲間達の信頼関係が崩れていっているように感じていた。教授には借りを作ってしまうし、死体遺棄の片棒を担がせてしまった。
遼子は軋世に慰めて欲しかったのだが、軋世はそれを拒否した。
教授との関係、そして遼子との関係に亀裂が走ったのは確かだ。
「俺は仲間のために何をやれば……」
軋世は考える。今は世界を滅ぼす計画なんかを考えているヒマではないと思っていた。
連塔はあれから黒曜組の事を細かく調べ始めた。
ヤクザの中では中堅くらいの地位に位置しており、主な収入源は麻薬の取引だ。そして、今の黒曜組の組長は病気でふけっており起き上がるのにも人の手を借りなければならない状態らしい。
しかも黒曜組は先日ヤクザの抗争に負けて支配地域が縮小し、普通だったら経営を続けていける状態ではないと連塔は見ている。
「話によるとほとんど領地を譲るような形だったらしい……」
ナメられたら負けのヤクザの世界で、こんな事をするのはもう閉店休業をするつもりにしか見えない。
それに、譲られる前からも黒曜組の動きは全くなく近所の住民達はそれを不思議に思っていたようであった。
「そして……事務所にあの、『八幡 軋世』がやってくるようになったのだという……」
そう、口に出して考えた連塔。ここでもあの少年が裏にいた。
黒曜組の連中は何かに忙しそうで、事務所から出入りを繰り返しているので、活動をやめたわけではない。
「何をしているんだ? 一体……」
連塔は黒曜組の動きを監視しながら言う。
連塔は、黒曜組の事を監視し続けた。
「やはり来たか……」
あの時、当夜を撃ち殺した警官が事務所に入っていくのが見えた。
事務所の窓越しに中の様子を確認できる場所にいるのだ。そこで、黒曜組から金銭を現金で受け取っている姿をとらえた連塔はその姿を写真に撮った。
「あいつ……黒曜組との関係があるのは知っていたが……」
何の仕事をして、あのような大金を受け取っているのだろうか? そして、黒曜組は今は開店休業中のはずである。あのような資金をどこから調達しているのだろうか?
連塔は、あの男が出てくるのを待ち、事情を聞いてみる事にした。




