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世界の終わりを望む人たちへ……  作者: 岩戸 勇太
ほころびが見える
14/21

何をして欲しい?

「最近になってあの時の事を夢にみるようになって……」

 遼子がそういうのを軋世は黙って聞いていた。

「わたし……こんな世界はなくなってほしいのに……」

 そう言う遼子。今彼女の頭はぐちゃぐちゃになっているのだろう。なにを言えばいいのか? 遼子の頭の中でも整理をしきれていないのだ。

 今はもう深夜だ。客の数も少なく店員が一人だけの店で、俯いた遼子と軋世が座っている。

 軋世は遼子の様子を見て言う。

「もう強がりは無理だ。いますぐにでも精神科医に診てもらわないと……」

「それは絶対に嫌!」

 ぴしゃりと遼子は言い放った。

「私が何をして欲しいか? 分からないのですか?」

 そう言う遼子。

「分かっている……だけどそれは俺にはできない……」

「いまさら悪魔か何かのフリですか?」

 軋世は自分をただの人間ではないと思っている。人間らしい感情なんてないし、人を慰める方法など知らない。

 知識では知っているのだが、それを実行するような心はないのだ。

「当夜の仇討ちをしてくれたんでしょう? 自分の身を危険にさらして……」

 遼子が言う。

 軋世は特に反応はしなかった。

「人間らしい行動に見えますよ……完全無欠の殺人マシーンのふりをしている八幡 軋世さん?」

「人を殺して『人でなし』と言われるのはわかるけど……」

 軋世はそう言った。軋世は本当は遼子の言った言葉の意味を分かっている。

 だが、軋世はそれを行動にうつすような気持ちは、自分には残っていないと感じているのだ。


「もういいです……」

 遼子は軋世に向けてそう言った。

 遼子はとぼとぼといった感じの足取りで歩いて行ったのを軋世は見送った。

 軋世はそれから考えた。

 自分が作ってきた仲間達の信頼関係が崩れていっているように感じていた。教授には借りを作ってしまうし、死体遺棄の片棒を担がせてしまった。

 遼子は軋世に慰めて欲しかったのだが、軋世はそれを拒否した。

 教授との関係、そして遼子との関係に亀裂が走ったのは確かだ。

「俺は仲間のために何をやれば……」

 軋世は考える。今は世界を滅ぼす計画なんかを考えているヒマではないと思っていた。


 連塔はあれから黒曜組の事を細かく調べ始めた。

 ヤクザの中では中堅くらいの地位に位置しており、主な収入源は麻薬の取引だ。そして、今の黒曜組の組長は病気でふけっており起き上がるのにも人の手を借りなければならない状態らしい。

 しかも黒曜組は先日ヤクザの抗争に負けて支配地域が縮小し、普通だったら経営を続けていける状態ではないと連塔は見ている。

「話によるとほとんど領地を譲るような形だったらしい……」

 ナメられたら負けのヤクザの世界で、こんな事をするのはもう閉店休業をするつもりにしか見えない。

 それに、譲られる前からも黒曜組の動きは全くなく近所の住民達はそれを不思議に思っていたようであった。

「そして……事務所にあの、『八幡 軋世』がやってくるようになったのだという……」

 そう、口に出して考えた連塔。ここでもあの少年が裏にいた。

 黒曜組の連中は何かに忙しそうで、事務所から出入りを繰り返しているので、活動をやめたわけではない。

「何をしているんだ? 一体……」

 連塔は黒曜組の動きを監視しながら言う。



 連塔は、黒曜組の事を監視し続けた。

「やはり来たか……」

 あの時、当夜を撃ち殺した警官が事務所に入っていくのが見えた。

 事務所の窓越しに中の様子を確認できる場所にいるのだ。そこで、黒曜組から金銭を現金で受け取っている姿をとらえた連塔はその姿を写真に撮った。

「あいつ……黒曜組との関係があるのは知っていたが……」

 何の仕事をして、あのような大金を受け取っているのだろうか? そして、黒曜組は今は開店休業中のはずである。あのような資金をどこから調達しているのだろうか?

 連塔は、あの男が出てくるのを待ちあの男に事情を聞いてみる事にした。


 今、連塔は路地裏にその男を引きずりこんでいた。

 前後両側は壁で、右横にはゴミ箱が置かれていて左にはエアコンの室外機が置かれている。

 掃除もしていないらしく、地面は何かで黒く染まっていた。

 そこに連塔と男がいた。連塔は男の胸ぐらをつかみ壁に押し付けている。怒りの形相をしている連塔は男に向けて言った。

「おい……キミ。黒曜組と何のつながりがある?」

 まどるっこしいのは嫌いな連塔は、彼に向けてそう言った。

「なんだ……? そんな怖い顔をしてよ……」

 その男は連塔の事を常々苦手に思っている事は、連塔だって感じていた。こういう後暗い事があるからの反応なのだろう。

 警官が暴力団に取り入るなんてよくある事だ。捜査情報を漏らしたりパトロールの経路の話をしたりして報酬をもらっているのだ。

「確かあいつらの資金源は麻薬の密売だ……だが最近あいつらの動きはないぞ……」

 軋世とのつながりを調べるため、黒曜組の事を監視していた。そして、その男が黒曜組に出入りをしているのも見た。

 すでにこの男が黒曜組の幹部から金を貰う瞬間の写真だって撮影済みだ。

「俺の言う事を聞いて、今までの事を全部白状して黒曜組の事を探るためのスパイになるなら、この映像は消去してもいい」

 連塔は言う。

「クリーンな警官とは思えない要求だな……」

 その男は言った。

「お前が言うな……警官のくせにヤクザとつながって……」

 連塔が本気であるのをその男も感じたようだ。

「俺は! あいつらから依頼を受けただけだ! もし、秘密を漏らしそうな奴がいるなら、連塔……つまりあんたに捕まらないように手配をしてくれと……」

 あの場で最初に屋上に上ったのは連塔だった。後からやってきて、連塔にあの小僧が捕まるのを止めるには、殺すしかなかった……というのが男の言葉だ。

「実際に殺してでも止めろと言われていたからな……」

 不審者に向けて発砲をすること自体は何も違法ではない。ただ、彼のケースでは犯人を殺してしまっているため、裁判沙汰になったり懲戒免職になる事だって有り得た。

 あれだけの金をもらえるんだったらあんなクソみたいな仕事をやめてもいいと思っていたのだという。

 そう続けた男。当夜の死の裏側を開けてみれば、結局はこの男のような金に目がくらんだ浅ましい犯行であったのだ。

「彼には……」

 連塔はそう言う。だがこの先の言葉は何を言えばいいか分からなかった。

『悪いことをした……』だろうか?

 そうであったら、自分が彼の事を同情する資格はない。連塔は彼をはめた人間なのだ。

『助けられなかった』だろうか?

 だが、彼は軋世の仲間の一人だ。ここで同情をしていては、軋世と真正面から戦うことはできない。

 そう考えた連塔は、それを考えるのをやめた。

「俺は八幡 軋世を止める。それだけが俺の正義だ……」

 そう言った連塔。連塔は一人で路地裏から出て行った。

「キミの不正の証拠は俺が握っている。また連絡するぞ……」

 連塔はそう言い残した。



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