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当夜の復讐

 当夜は、今でもあの時の事を夢に見る。当夜はその夢を見るたびに憂鬱な気持ちになった。

 さっきまで、その夢に浸っていた当夜はあの時の事を思い出す。ベッドで体を起こした当夜の体はびっしょりと汗をかいていた。


 当夜は家に帰ると愕然とした。

「おい……丈二……母さん……父さん……」

 そこには、親友と両親の亡骸があった。全部包丁で刺殺されているのだ。

 その頃まだ十歳であった当夜はそこまで考えることはできなかったが、刺した跡はいくつもあり、止めを刺したのがわかる。明らかに愉快犯である。

 その直後にすぐに当夜は警察に通報した。

 その時に駆けつけてきた警官が連塔であったのだ。

 当夜は呆然として警察の到着を待ち続けた。警察が到着をした時になるまで、遺体のまえで佇んでいたのだった。

 その時、当夜の事を気遣ったのが連塔だった。

 遺体の前でたたずむ当夜の手を引いて、家の前にまで連れ出した。

「犯人は絶対に捕まえる……もう君は泣き止んでくれ……」

 そう言われて、当夜は自分が泣いている事に始めて気づいた。

 無表情の顔で目尻から一筋の涙を流し続けていたのだ。

「う……うわぁああああ!」

 そして、当夜は連塔に胸に顔を押し付けて泣いたのだった。


 それから、連塔は何度も当夜の前に顔を出した。

 あれから、一つの孤児院に送られた当夜のところにやってきていたのだ。

 あれからふさぎこみがちであった当夜は孤児院の仲間達からも一線を引いていた。

 その当夜を気にして何度もやってきた連塔。

 連塔はある日、近くの遊園地に当夜を連れてきた。

「仕事をすると嘘をついてやってきてしまったよ……」

 そう言う連塔。

「ボクなんかに構っていないで……」

 そこまで当夜は言って黙った。当夜は未だにあのショックから立ち直れていなかったのだ。

「キミはまだ先があるだろう?」

 連塔は、そう言って、当夜の手を引いた。


 当夜が連塔につれられたのは、観覧車だった。

「みてごらん……ここにはいろんな人がいるんだ。その中には犯罪の被害に遭った人だっている……」

 連塔はそう言う。連塔はそれから当夜の手をギュッと握った。

「君だけが辛いわけじゃない。君はこの事を乗り越えていかないといけないんだ」

 連塔の言葉を聞いた当夜。連塔は一回当夜の頬を叩いた。

 いきなり頬を叩かれた当夜は、唖然とした。

「もうくよくよするのはやめるんだ……」

 そう言う連塔は当夜の事を睨みつけた。

「君の両親を殺した奴はボクが絶対に捕まえる。君は自分の殻に閉じこもっていないで外を見るんだ」

 当夜はそう聞き、連塔に向けて顔を上げた。

 子供心ながらにも分かった。彼は真剣に自分と向き合ってくれている。彼の言葉に答えるのが、自分のすべきことなのだと思う。

「本当に犯人を捕まえてね」

 当夜はそう言った。それから当夜は自分の殻に閉じこもるのはやめて前を向いて生きていこうと決心をしたのだ。


「それからたったの数日だったな……」

 当夜は悪夢にうなされて目を覚ました時の事を思い出した。起きる直前に、自分が絶望の中に叩き落とされたあの時の瞬間が夢に出ていたのだ。

 昔の話だ。両親と親友が一緒に殺された。その時呆然としていた当夜を気にかけ、事件の後になっても顔を出して当夜を元気づけてくれた連塔という警官。

 途中までは、いまさっきみた夢の通りだ。ここで終わっていればただのいい話で終わっただろう。

 だがこの話には続きがある。

 当夜が孤児院の仲間たちと打ち解けていき、中学に入る直前の頃になった時の話だ。

朝木当夜あさき とうやはいるか!?」

 そう言って、警官が孤児院にまで入ってきた。

 何が起こったか? わかっていない当夜は警官の事を見た。

「ボクが朝木 当夜だけど?」

 そう言うと警官は一枚の紙を取り出した。

「君には、両親と友人の殺害の嫌疑がかけられている。付いてきてもらおう」

 そう言われ当夜は驚いたというよりは呆然とした。

「そんな事していない……」

 そう言うが、警官はその言葉をまったく聞き入れなかった。

「話は署の方で聞こう」

 有無を言わさずに当夜にそう告げた。訳がわからないまま、当夜は警察に連れられてパトカーに乗っていった。


「うちの捜査員の連塔君には君が自分で両親を殺したと言ったらしいね」

「嘘だ! そんな事言っていない!」

 当夜は連塔に会って元気づけられていただけだった。そんな話は一回だってしていない。

「連塔君……そうなのかね?」

 その警官のすぐ後ろに連塔がいた。

 連塔ならば、否定をしてくれると思っていただが、連塔はその期待を裏切ってこう言う。

「いえ……彼は自分が両親と友人を殺したのだと言っていました……」

 連塔が言った言葉に当夜は愕然とした。

「ウソだったのか……?」

 当夜はそう言った。自分を元気づけてくれたのはウソだったのか? 犯人を捕まえてくれると言ったのはウソだったのか?

「ウソだったのか……」

 当夜はもう一度そう言った。

 それから当夜が何を言っても警官は聞かず、そのまま裁判でも同じような事が続いた。

 何を言っても何をしても、当夜の言葉なんて完全に無視をされて、全ては止めようのない大河の水のようにして、無情に流れていったのだ。


 それから当夜は少年院に入れられた。情状酌量の余地があるとされ、数年で出れることになった。

 ただ、そのためにいろいろ事実の捏造があった。当夜は両親から虐待を受けていただの、実はこの友人は当夜から金をむしっていただの、根も葉もない事がでっち上げられていった。

 それは、何かの同情か? この事件にまきこまれてしまった者に対する憐みか? そうであるというのは感じていた。当夜は漠然と、この件の裏には大きな力が働いているのを感じていた。だが、当夜には何もできなかった。


 当夜はその事を思い出し、枕元に置いてある魔法陣を手に取った。

 世夜から、この魔法陣の使い方は聞いている。これはこの魔法陣の力を浴びた者の頭にまじないをかける。そして、軋世の魔法一つで頭の中にかけられたまじないが爆発をするのだ。

 だから、連塔の泊まっている寮の屋上にでも行って、この魔法を発動させれば、連塔はどこかで軋世に殺されることになるだろう。

『すぐにでも動きてぇ……あいつらに復讐を……』

 当夜はそう考える。自分を不当な理由で少年院にぶちこんだ奴らは、この手で抹殺をしないと気がすまない。

『深夜二時に動く手はずだ。だがまだ深夜二十三時……』

 小さな頃から使っている、子供用のかわいいペンギンを模して作られている時計を見る。そして時間がくるのを待つ当夜。

 今夜、それを決行しようと考えている当夜はびっしょりと濡れたベッドから起き上がり、着替えを始めた。


 当夜はある場所に向けて飛んでいった。小脇には今回の作戦のための『凶器』を抱えている。これを数十秒かざすだけでいいのだ。それで当夜の復讐は完成する。

 当夜は空を飛んで、ある建物の屋上に向かった。

 そこに着くと魔法を起動させる。そして世夜から受け取った布をターバンのようにして頭に巻いた。

「世夜からもらったやつとはいえ、不安になるな……もしかして、このターバン一つで魔法式が組み込まれるのを防げるっていうのは嘘なのかも……?」

 当夜は今更になってそう思う。

「だが、死ぬのは怖くねぇし……それでも別にいいか……?」

 当夜のこの行動は、軋世の知るところなのかも知れない。当夜は軋世に捨て駒として使われたのかもしれない。

 だが、当夜はそれでも構わないと考えた。

 自分の事をブタバコに押し込んだ奴らには前々から復讐をしたいと思っていたのだ。そのためだったら死んでもいいと、常々考えていたのだ。

 当夜はそれから魔法を起動させた。魔法陣が光り、魔力が放たれる。この魔法を近くで食らうと、強烈な快楽の中に落とされる。

「ターバンは機能しているみたいだが……」

 そう考える当夜。強烈な快楽などに襲われる事はない。魔法の遮断をする効果はあるようだ。

 そこで警報が鳴った。

 ジリリリリリリリリリ! という大きな音が鳴ったのだ。

「魔力探知機か!」

 当夜はそう言う。この魔法を使ったのはバレてしまっている。屋上に、ここの住人たちが押し寄せてくるのは時間の問題だろう。

「だが、数十秒だけこの魔法を発動させ続ける事さえできれば……」

 当夜はそう言う。そして魔法を起動させ続けた。当夜が十までかぞえたところで屋上に人がやってきた。

「早すぎるだろう!」

 当夜は言う。

「どんな事件も、迅速に対処しないとね」

 その言葉を言った人影は、当夜に近づいてきた。

「よりにもよって、お前とは……」

 当夜は言う。その顔は数年経っても見忘れる事のできない顔だった。

「連塔 いさき……俺の事を覚えているか?」

 当夜は言う。連塔は当夜の顔を覚えているようだった。

「当夜君……」

 当夜は少し成長をしたものの、連塔は当夜の顔を見て誰なのかがわかったようだ。

「なんでこんな事をするんだ?」

 連塔は聞いてくる。

「復讐だ……あんたは俺に無実の罪を着せたんだぜ」

「それは……」

 連塔はそれを聞いて唸った。

「あんたが無実の罪を着せた人間はほかにもいる。あんなめに遭ったのは俺だけじゃなかったようだしな」

 当夜は聞いていた。連塔はいままで、当夜の時と同じような手口で何人もの人間に濡れ衣を着せている。軋世がそう調べたのだ。

 不正に加担をしたおかげもあって、今は警視庁に務めることができているのだ。

 自分の罪を重ねる事で地位を手に入れたのである。とうやはそれを知り、この連塔を、本当にクソッタレな奴であると思っている。

「この魔法は一体何なんだ? なんか、頭がぼうってするようだが……」

 連塔が言うのに、当夜はニヤリと笑った。魔法麻薬の効果は出ているようだ。今、連塔の頭の中で術式が作られているところだろう。

「大丈夫、死にはしない」

 そう言った当夜は必死になって頭の中で数を数えていた。

『まだまだ…二十秒だ……』

 当夜はそう考えた。

 連塔の頭の中に、術式が組み込まれるのには、まだ時間がある。当夜は魔法の紙を拾い上げた。

「動くな!」

 そう言う連塔はピストルを構える。

 当夜はその紙を触り魔力を込めた。こうすればこの紙は自然に発火をして灰になるようにできている。

 連塔の頭の中に術式が組み込まれるまであと十秒くらいある。

「別に、魔法の紙を拾い上げただけだぜ」

 当夜はそう言う。

『まだ二十五……二十六……』

 そう頭の中で数えながら当夜は連塔の気を引く事を考える。それと同時に、紙が燃え始めた。

「何をした!?」

 そう言いながら連塔はピストルの引き金に指をかけた。

「別に……この紙を焼いただけだ」

 そう言い、当夜は黒く灰になった部分を自分で掴んでぐしゃぐしゃにした。魔法陣が描かれていた紙は灰の粉に変わり、風に乗ってどこかへと飛んでいく。

『これで証拠隠滅……』

 当夜はそう思う。軋世に何も言わずに魔法陣の事を持ち出した。その事に対しこの魔法陣を滅却する事でこの責任を果たしたのだ。

 そうすると、それからぞろぞろと男達が集まってきた。その頃には完全に魔法陣は焼却をされてしまっており。この魔法を使ったという証拠はなくなっていった。そして、当夜は屋上から飛び立とうとした。

 ドゥン!

 そう連塔の後ろから音が聞こえてきた。それは明らかに拳銃を撃った音だった。

「容疑者が飛び立とうとしたんだ……」

 そう言って顔をにや付かせたのは、連塔のマークをしている不良警官の一人であった。

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