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皆の戦う意味

「君は世界を滅ぼす。私はそれに従う。それが全てだ」

 あれから教授は軋世に向けてそう言った。

 軋世には教授の考えている事が、分からなかった。だが教授は、大分自分の事を見透かしているのは分かった。

「オヤジに何か関係が……?」

 軋世はそう言いながら悩む。

「教授は何を知っているんだろうか? 俺は知らない事が多すぎる」

 そう考えながら言う軋世。

「知らない事? あなたは何でも知っているじゃないですか?」

 今は学校への帰り道だ。世夜と一緒に学校への帰り道を歩いているところだ。

 世夜は軋世の言葉を聞き、軋世に向けて言ったのだった。

「『なんでも』はしらないさ……」

 軋世は言う。

「俺は、そもそも何のために戦っているんだ?」

 それを聞き、世夜は軋世につかみかかった。軋世の言葉に疑問を持っていると思うような顔で、ぼうっとした顔で軋世の事を見上げた。

「何を言っているんですか?」

 それから世夜は彼女らしくなくいきなり軋世の事を睨みあげた。

「この世界を滅ぼすためでしょう! 今になって何を言っているのですか!」

 いきなり豹変した世夜に軋世は目を見張った。

「そうだったな……」

 軋世も思う。世夜の言うことはもっともだ。元、軋世はこの世界に恨みがある。それがどこから出てきているのか? それは軋世にも分からない。

「考えたって分かることじゃない……」

 軋世はそう思う。

 そもそも、行動一つ一つ全てに理由がある人間のほうが少数派なのではないだろうか?

「弱気な事を言ってすまなかったよ……ボクは世界を滅ぼす」

 俺がそう言うと、世夜はとりあえず軋世の事を冷たい顔で見るのをやめた。

「信頼していますよ」

 そう言い世夜は軋世に身を寄せた。

 その様子を見て、軋世は考えた。自分の目的は何なのか? 自分はなんでこの世界を滅ぼそうとしているのか? それを考え直し始めたのだ。


「当夜……これを見ておいて……」

 世夜と当夜は一緒にいた。静養室のドアを開けた世夜が窓のまえにいる当夜を招き入れたのだ。

 世夜は携帯を使って、ある男の画像を見せた。

「これが、私達の敵……」

 世夜が言う。当夜はその顔を見て目を細めた。

「こいつは……」

 そう言う当夜。当夜の目には恨みがこもっているように見えた。

「この男の名前は連塔いさきっていうんだけど……」

 世夜は当夜の様子を怖がりながら見た。

「連塔……あの連塔か!」

 当夜は言った。

「あいつだったのか! 俺の事をどこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!?」

 肩をわなわな震わせた当夜が言った。だが当夜はすぐに落ち着いて言う。

「この動画……もらっていいか?」

 そう当夜が言うと、世夜は当夜の携帯に動画を送る。

「こいつは……見つけたら殺してください……」

 世夜はそう言った。やはり世夜は熱心な軋世の信者だ。軋世の道をはばむ者には容赦をしない。

「そうだな……出会ったら殺してしまうかもしれない……」

 当夜が言う。

「この男と面識が?」

 当夜の返事を聞いて世夜は聞く。こんなに簡単に人を殺す事を決めるのはいくら当夜でもおかしい事だ。

「ああ……こいつは俺が世界を滅ぼそうと思った原点だ……」

 当夜はそう言う。世夜はその当夜をじっ……と見つめた。

「いくら仲間でも話せねぇな……そんなにいい話でもないし話しても虚しくなるだけだ」

 当夜は言う。

「ならば質問を変えます」

 世夜も詳しく聞き出そうとする気はないようだ。世夜はさっきよりも真剣になって当夜に向けて聞いた。

「その男は殺したいですか?」

 世夜は言った。当夜は何も言葉を言わずに頷いた。

「なら……」

 世夜は言う。これから、あの男を殺すにはいろいろな障害があるだろうが空を飛ぶことのできる当夜ならば、できるかもしれない。

「これなんかどうでしょうか?」

 そう言って魔法陣を当夜に見せた。

「これは基本的には魔法麻薬ですがこの魔法陣の魔法を使うと頭の中に術式が組み込まれます。数分魔法を起動させるだけで十分です」

 そうすればあとは軋世が何とかしてくれる。

 その術式を起動させるためのスイッチを軋世が押せば、そこで連塔の頭は吹っ飛んでいくだろう。

「数十秒かざすだけで、十分に術式は組み込まれます……」

 世夜は当夜にそれを渡した。とうやはその魔法陣の書かれた紙を受け取ると、無表情になった。

「これは軋世さんのためでもあります。あの連塔という男はいなくなるべきです」

 世夜は普段の軋世への態度から考えられないくらい黒い顔をしていた。

 これが彼女の本性なのだろうか? 軋世の事を慕う気弱な女の子の面影はまったくなりを潜めている。

「当夜さん。私からもお願いします。あの連塔という男を殺してください」

 世夜が言うのに、当夜は小さく頷いた。


「あいつの部屋は調査済みよ。警視庁の寮を使っているわ」

 遼子は言う。

 遼子の言った部屋番号を当夜はメモした。ここは当夜のアパートだ。ささくれだった畳に、亀裂の走る土塗りの壁。キッチンはところどころが錆びている。蛇口をひねると、赤茶けた水が出てくる事がある。

 そんな古びた場所だった。

「だけど、私もあいつにはうかつに近づかないように言われてる。あいつの事を殺そうと考えているなら、軋世さんに質問をしてからにしたらどう?」

 遼子は当夜に向けて言う。だが、当夜は首を横に振った。

「これは軋世とは関係ない。俺の私怨の話だ。あいつは俺が殺さないと……」

 そう言う当夜。遼子は部屋のカーテンを開けた。

 空は真っ黒になっている。だが星は見えない。この都会では空を見上げても階下の町の光に照らされて星が瞬く光が見えないのだ。

「人間がいなくなったら、星も綺麗に見えるんだけどね」

 そうつぶやく遼子。

「とにかく、軋世さんに聞いてからにしたほうがいいわ……連塔に手を出すのは私だって禁止されているの。私達は彼に従うしかないの」

 遼子は重ねて言う。

「確かにそうだな。俺一人だったらこの世界を滅亡させるなんて無理だと思うさ……」

 軋世はくすぶっていた自分に生きる活力をくれたと当夜は思っている。

「あいつの命令を聞くのはあいつが世界を滅ぼせるからだ……」

 軋世は確かに当夜の希望だ。神様に近い存在である。

「だが神様であっても王様じゃない……俺の事を導く人間であろうとあいつの命令を聞かないといけないわけじゃない……」

 当夜はそう言う。

「神様はお告げをくれるの。そのお告げを聞かなかった人間には悲惨な結末しか待っていない」

「これが俺の悲惨な末路だ……」

 すでに当夜は人間としてはなにもかも失っている。

 少年院にいた当夜は、ロクに仕事にはありつけなかった。

 親はいない。兄弟もいない。それらをあの事件で失っている当夜は学校にも通わずに日雇いのバイトをして、生活をしている。

 将来などないし今を生き抜くのに必死である。おそらくこのまま年を取っても明日のメシに必死になって日々を生きていくセコセコした人生しか残っていないだろう。

「そんなんだったら復讐のために命を捨ててやる」

 当夜は言う。遼子はその当夜の前に立ちふさがった。

「だめよ! 軋世さんに全部任せるの!」

「どけ!」

 そう言い、当夜は遼子を跳ね除けようとした。だが、遼子はそれに組み付いた。

「行かせない! あなたも一緒になるの! 軋世さんが人間達を根絶やしにした後で、私達は一緒に生きていくの!」

 遼子は言う。

「ねぇ。私達は似たもの同士よ……愛なんて知らない。この世界の事を憎んでいる」

 そう遼子が言うと当夜は止まった。

「愛ってものを知りたいと思わない? 私達二人で……」

 遼子がそう言う。当夜はそれで黙った。

「俺に告白をしているのか? 俺なんかに……」

 当夜は言った。遼子はそれでもっと当夜の事を強く抱きしめた。

「私なんかじゃ不満? こんなお化けみたいな女なんて嫌?」

 当夜は黙った。

『何を思えばいいのだろうか?』と考えた当夜。

 このような事態にいきなり放り込まれて混乱している。当夜はそれで、体を硬直させた。

「俺は俺の復讐を果たす……そういう話はそのあとだ」

 そう言い当夜は涼子を振り払って部屋から出ていった。

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