プロローグ
プロローグ
ここは普通の学校の体育館。
壇上に立つ生徒は、折り目正しく校長に向けて礼をする。
校長は彼に向け、やさしく柔和に笑みを見せた。
見た目は普通の少年だが、彼は、この学園一の秀才である。教師たちは、彼の栄達を心の底から喜び、彼も、教師の好意を受けているのを喜んでいた。
「軋世『きせい』君に拍手を」
校長が、マイクを使ってそう言うと、周囲の生徒達は、いっせいに彼の事をたたえた。
この学校の生徒達は、皆、彼の事を祝福していた。彼が、壇上に立って、皆から祝福をされる姿は、当たり前に絵になっていたのだ。
今は、精悍な顔つきをしている彼は、柔和な笑みを浮かべ自分を祝福してくれる生徒達に手を振った。
彼は全国のチェスの大会で、高校生の部で優勝という成績を残した。
その彼を、皆は羨望の目で見つめる。
こうなるのは当然の事。彼ならやって当然。これが周囲からの評価である。
彼は、壇上から降り、自分の席に座った。そうすると、校長は誇らしげにして、軋世の事をたたえ出す。
「彼は我が校の誇りだ。成績も常にトップで、皆の人望も厚い。皆、彼のようになる事を目指し、日々精進をするように」
校長は上機嫌で言う。
軋世は、それでも奢ることなく、まっすぐに前を見つめていたのだ。
「軋世……お前ってやっぱすごいな!」
校長主催の朝の会が終わると、ほかの生徒が軋世に向けて声をかけた。
「そうだ……俺はすごいんだ」
そういい、柔和にケラケラ笑った軋世。それに声をかけた男子生徒も一緒に笑い出す。
「全くこのやろう、嫌味な奴だよ、どうすれば、そんな完璧な超人になれるんだ?」
そう言って、その生徒は腕に炎の力を纏わせた手で、軋世の事を軽く叩こうとした。
だが軋世は、氷の力を纏わせた手で、それを受け止めた。
「おいおい、こんな事で魔法を使うなよ……」
軋世はそう言って苦笑いをした。
「うるせぇ、お前は嫌味なやつなんだから、一発くらいは殴らせろ」
「半分本気だな……?」
そう言うが、軋世は笑いながらである。特に気分を害している様子もない。
「彼女に報告をしないと……」
そう言い、軋世は、その男子生徒達に背を向けて言った。
「しかし、あんな子のどこがいいのかね? 確かに顔はいいけど、お前のような優等生が選ぶような子とは思えないな。もっと、グレードの高い娘を選べよ」
軋世は、それを聞いて、ピタリと足を止めた。彼は、今の言葉に、少し気分を害した。本当は心の中では、『あいつの事をぶん殴りたい』と、考えているほどだ。
だが、軋世は、笑い返しながら言う。
「あの子は俺がいないとダメだからな」
軋世はそう言う。柔和に笑って言う軋世に、その男子生徒は、笑い返した。
「確かに……」
何が面白いのか? それで笑った男子生徒の事を背にしながら、軋世は先に歩いて行った。
軋世は、学校の奥にある教室に向かっている。奥の部屋は静養室という名前の部屋がある。
「世夜『せよ』俺は、チェスの大会で一番になったよ」
軋世は静養室の扉の前で、中にいる世夜に語りかけた。世夜は中からドアを開けて、軋世を部屋に招き入れた。
その世夜は、腕に根性焼きを入れられた痕があった。軋世は、それをうやうやしくなでる。
そうすると、世夜は腕を引いた。
「その痕の事には触れないで欲しいかい?」
そう軋世が言うと、軋世から離れた世夜はこくんと頷いた。
「悪かったね」
軋世は、世夜に笑いかける。
「今日も世界の終わりの話をしよう……」
軋世は言い出す。
これはいつも世夜に向けてしている話だ。まるで、幼子が祖母からのお話を聞くかのようにして、興味津々で世夜は軋世の言葉を聞いていた。
「この世界を吹っ飛ばすことができると言われる魔法が、いくつも存在する。それらは、禁呪と呼ばれ、人目に触れないところで大事に保管をされているんだ」
だが、その禁呪は保管をされるだけで、処分をされる事はない。危険なら、使えなくするべきであるのに、愚かな人間は、それを所持し続けようとする。
「それはなんでか? 戦争が始まったら、自分達が有利に立てるからだよ」
この平和な世界であろうと、そんな事を考える人間ばかりだ。
人は醜い。人は汚い。人は浄化されなくてはならない。
この世の全てを憎んでいるかのような、顔をして、そう話を続ける軋世。それを、まるで、祖母からの昔話を聞くかのようにして、楽しげに聞いている世夜。
この二人は、この世界を破壊される事を願って、日々を過ごしていた。




