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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
異世界にて
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異世界とお約束② 「ったく、どこまで下種なんだよ・・・」

「んぅ、はぐっ・・・うぅ~、美味しいです・・」


「あぁ、誰も取らないから落ち着いて。ゆっくり食べないと体に悪いよ?」


 現在、マローダーの後部座席――ってのは椅子がないからアレなんで、俺は居住区って呼んでる――、そこで俺は件の奴隷少女クーリアの食事風景を見守っていた。


 いや、ここまで苦労しましたとも。


 あの後、鍵束の鍵を使って彼女を閉じ込める檻を開けて、両手、両足の枷を外して助け出そうとしてんだけど、まずは檻の中に入って来た俺を見て彼女に酷く怯えられた。


 ま、それは彼女の立場からすれば当たり前なんで、仕方ないんだけどね。


 ただ、両手両足を引っ込めて体を縮込めちゃうもんだから、鍵が外せなかったんだ。


 だもんで、まずは説得から始めなきゃならなかったんだけど、まず、これが中々難しい。


 どんな経緯で奴隷になったかは知らないけど、あの状態からも解る通りまともに人として扱って貰って無い上に、さっきまであのオークなんかに乗ってた馬車が――それもどう頑張っても逃げられない状況で襲われてた訳だから、半ばパニック寸前だった訳で。


 こうなっちゃうと人間――彼女はハーフエルフみたいだけど、まぁ、同じだろう――、まともな判断が下せなくなって思考の迷路に嵌り込んじゃうもんなんだ。


 どれだけ優しく声を掛けても震えるだけの彼女を前に、流石の俺もどうしたもんかと悩んだもんだけど、結局は何とか落ち着いて貰う事に成功した。


 その方法はまぁ、簡単って言えば簡単・・・ではあるね。

 ただ、その半面酷くリスキーでもある。


 そう、出来るだけ優しく抱き締めて、俺の心臓の音を聞かせるって方法だからさ、これ、現代日本でやったらセクハラとか騒がれかねない訳だ。


 ならなんでそんな方法を思いついたかって聞かれると、これはある意味織絵の御蔭って事になる。


 今でこそ明るく育った織絵だけど、小さい頃は酷く寂しがり屋だった。

 だってのに両親は夜遅くまで帰ってこないもんだから、時々寂しさの余りパニックに陥るって事もあったんだよ。


 幼児期における両親の愛情は大切だって事だね。


 で、そんな時は幾ら言葉で宥めたって無駄。

 最終的に落ち着いてくれるのは、抱き締めて俺の体温と心臓の音を聞かせてやって『一人じゃないんだ』って教えてあげるしかなかった。


 その経験が活きたって言うと聞こえは良いけど、俺にはそれしか思いつかなかったってのが本音って所。


 まぁ、そんなこんなでどうにか落ち着いてくれた彼女を説得して両手、両足を伸ばして貰い、枷を外した。


 その時も色々と苦労はあったかな。


 だって彼女、裸な訳だしさ。

 ちょっと視線のやり場に間違ったら、彼女の恥ずかしい所に視線が行ってしまいかねない。


 流石に出会ったばかりの――それも今の今まで酷い扱いを受けていた彼女に、性的な目を向けるつもりはないけど、こればかりは相手の感じ方って事もある。

 それが原因でまた脅えられてしまったら元も子もない。


 なんで、目のやり場には細心の注意を払いつつ、彼女の枷を外すと、俺の上着を脱いできせてやり、即座に馬車から脱出。


 マローダーに乗り込んだ。


 彼女には申し訳ないけど、血の臭いのする所にいつまでも居て、他のモンスターなんかに来られたんじゃ堪らないからね。

 まずは助手席に乗って貰い、運転席に乗り込んだ俺はマローダーを暫く走らせる事にした。


 暫く走って大き目の岩陰にマローダーを乗り付けて停めると、溜まっていた息を大きく吐き出す。


 始めて見ただろう大型車両とその早さに驚いていた彼女の手を引いて、居住区に移動した俺は、そこで改めて彼女の恰好に頭を抱えた訳である。


 何せ、裸の上に俺の上着を羽織っただけ。

 最初が裸だった事を考えれば当たり前なんだけど、こうして一息ついてから改めて見ると、年頃の女の子がするには余りに酷い恰好だ。


 連れ込んだ居住区の内装が悪かったのか、彼女が再び震えだしたけど、これはまぁ、俺が悪かったかな?


 殆ど裸同然の恰好で連れ込まれた先にはベッドがある、とか悪い方向に考えるには条件が当て嵌まり過ぎるし。


 兎も角、再び恐慌状態に陥る前に何とか宥めて落ち着かせ、俺は荷物を漁って彼女の服を用意する事にした。


 それで用意したのが、今彼女――クーリアが来ている膝丈ズボンとTシャツ。


 ん?

 下着はどうしたって?


 その辺は俺のボクサートランクスの予備で・・・って訳じゃ無く、しっかりと女物の下着を渡しましたよ、はい。


 何で女物の下着が詰み込んであるのかって言えば、これは織絵が手配して詰み込んだんだ。


『ふふ、これなら兄さんと旅をしながらイチャイチャ出来るでしょってのは、流石に冗談だけどね。兄さんが行くって言う異世界の文化レベルって中世ヨーロッパ位なんでしょ? だったら、持っていけば売れると思うんだ。ほら、縫製レベルとか格段に上だし、いつの時代も女性は衣服には気を使うんだよ?』


 との事。


 その為に態々お袋は愚か友人まで巻き込んで、サイズごとにブラとショーツを20枚ずつ箱入りで、なんて無茶な注文をして買い込んできたって経緯があったり。


 いやぁ、あれには最初参ったね。


 だってコッチで売ろうってにも、俺には当然女性物下着のサイズ表記だとか解らない訳で・・・・。


 徹底的に教え込まれましたとも。

 それも、織絵が自分の体を使って『ほらほらお兄ちゃん、実地研修付きだよ。嬉しいでしょ』なんて言いながら嬉々として教えてくれて、最後には卒業試験と称してランジェリーショップに行って織絵の下着を買ってプレゼント、なんて事もさせられました。


 ・・・あぁ、今思い出してもあれは顔が熱くなってくる経験だった。


 けどまぁ、その経験が今ここで活きてるってんだから、何とも言えない気分である。

 ぶっちゃけ、一生役に立たないでいてくれた方が嬉しかったなぁ、俺的に。


 そんなこんなで漸く彼女の服装が整って、再び一息。


 まぁ、Tシャツとズボンは俺用に用意した奴だから、Tシャツは大きくてダボダボだし、ズボンの方も無段階調節のベルトで絞めてるから落ちはしないけど、脛の半ば位まで裾が届いてるって状態だけどね。


 何にせよ、服装が整ったならって事で彼女に話を聞いてみると――


 これが予想以上に重かった。


 彼女は人族の父とエルフの母の間に産まれ、山間の小さな僻村で育ったそうだ。

 正確には、元冒険者だったらしい父と母が彼女が出来た事に気付いてそちらに移り住んだって所らしい。


 その原因は彼女の種族――ハーフエルフってのに起因する。


 あぁ、別にファンタジー小説お約束のハーフエルフ差別って訳じゃないよ?

 この世界じゃハーフだろうが何だろうが、確りと税金を納め、能力を示せば表面的な差別はないんだそうな。


 ただ・・・ハーフエルフってのは性奴隷としては大人気の種族って所が問題なんだと。


「私みたいなハーフエルフは、ある意味半端物って言うのは間違いなくて・・・。人族に比べると力も弱いですし、エルフ族に比べると使える精霊魔法の適性が低いのは確かなんです」


 そう言ってクーリアは淡い笑みを漏らした。


 他にも、ハーフエルフ特有の特徴って奴が、性奴隷の最適条件ってのにピッタリ嵌ってしまっていると言う。


 聞いた事を纏めると、こう言う事だ


 種族全体として整った容姿を持つエルフ種は、外見ではなく内面で相手を選ぶ。

 そしてその相手がどの種族であれ、産まれた子はエルフ側に近い容姿を持って生まれ、エルフ同様にある程度の年齢で外見上の老化が止まる。

 ただ、エルフに比べれば寿命自体は半分程度だそうだが、美しい外見を持ち、尚且つ若いままで老いる事がないと言うのは、そう言う目的からすればピッタリって事は確かだ。


 加えて、エルフに比べ精霊魔法への適性が低く、尚且つ人族や獣人族より低い身体能力しか持たないと言うのは、支配しようとする側からすれば、大変にやり易い相手って事でもある、と。


 なので、元々ハーフエルフ自体が珍しいって事もあって、このまま街に居たんじゃこの子にとって良い事はないと両親が判断して、遠く離れた僻村に移り住んだんだそうだ。


 実際、ハーフエルフ欲しさに両親を事故に見せかけて殺害、在りもしない多額の借金を背負わせてその子供のハーフエルフを奴隷に・・・なんて事は決して少ない訳じゃないのだと言う。

 冒険者として活動していた彼女の両親は、調査以来なんかでそう言った事例も知っていたからこそ、それを危惧したんだろう。


 それが功をそうしたのか、貧しいながらも幸せに暮らしていたらしいのだが、ある時、悲劇が襲った。


 村を訪れた旅人の誰かが、その村にハーフエルフ――詰まりはクーリア――が居る事を奴隷商人にバラした様で、それを聞いた奴隷商人が“その手の”輩だった事もあって襲撃を喰らったのだ。


 人口自体も少なく、細々と生活していた村に戦える者が居る筈もなく、戦えたのはクーリアのご両親だけ。

 まして、クーリアを産んだ事で力が弱まっていた母親は戦力的に酷く低下している状態だったらしい。


 どうやら、エルフ種ってのは出産に際して胎内の子に自身の力を訳与える事で、我が子の精霊適性を引き上げているらしく、両親揃ってエルフである場合は兎も角、母親のみがエルフって場合は本来の倍以上――自身の精霊力の大半を失う程に消耗するんだとか。


 これは時間の経過と共に回復していくもんらしいけど、そこはやっぱり長命種故と言うか、かなり長い時間が必要なようでクーリアが産まれてから産まれてから16年と言う歳月を経た今でも、全盛期の四分の一程度までしか回復していなかったらしい。


 この辺りがエルフの出生数が少ない理由でもあり、ハーフエルフが狙われる原因の一つでもあるらしいが、戦える人が二人だけ――それもその片方は精霊魔法を使う後衛職でありながら、魔法を使う力が回復していないと言う状況では、もはや結果は見えている。


 優しかった村人は全て殺され、最後まで娘を護ろうと奮闘したご両親も、クーリアの前で斬殺された。


 その後は俺も見た通り、全ての衣服を剥ぎ取られ、手枷、足枷を点けられて檻の中に押し込まれ、売り先だと言う街へと運ばれていたのだそうだ。


 何て言うか、聞いてるだけでも胸糞悪くなってくる話だったけど、どうやら彼女が受けた酷い扱いってのはそれだけじゃなかった。


 今でこそ、ベッドを椅子代わりにテーブルについて食事を取っているけど、最初に食事を用意した時は慌てて服を脱ぎ捨てようとしていたし、それを押しとどめたら、今度は食事の盛られた皿を床に置いて俺に背を向け、お尻を上げた状態で犬みたいに手を使わずに食べようとし出したんだよ。


 慌ててそれを押し留めて聞いてみれば、『性奴隷スキル』を付けさせる為に一日二回与えられる食事はそうやって――しかも、あそこに居た男性陣全員の前で食べさせられたんだそうだ。


「性奴隷スキルは普通にしていれば付かないスキルです。それを持っているのは、性奴隷・・それも本人が承諾して専門の奴隷調教官に教育されたものだけですから。逆に言うと、そのスキルを持ってさえいれば、例え違法に浚って来た奴隷であっても、合法的な性奴隷だと言い晴れるんだそうです。だから、ごしゅ・・・いえ、あの奴隷商人は検問までに何としても、私に性奴隷スキルを身につけさせたかったみたいです」


 そう語るクーリアの顔には表情が浮かんでいない。


 ここに来るまでに二カ月近くをそんな環境で過ごさせられた事で味わった、屈辱と恥辱を思いだしているのだろうが、それを表に出す事を嫌がっている様に見える。


 ま、当り前か。

 年頃の女の子がそんな風に扱われてどんなに辛いかなんて、想像する事は出来てもそれを味わった本人には遠く及ばない。

 そんな程度の認識しか抱けない他人に、安易に同情されたくないだろう。

『辛かったね』だとかって言われたとしても、『お前に何が解るんだ』って言い返したくなるだろうし、それならそれを見せない方が良いって事か。


 ただ、さ・・・。


 それをやるにしても目に浮かんだ悲しげな色だけは隠せてない。

 そんなクーリアを見て俺が放っとけるかって言うと、やっぱり無理なんだよ。


 気付けば、俺はクーリアを抱き締めていた。


 別に同情の積りはない・・・とは言い切れない。

 クーリアの経験してきた傷みと辛さは、どの道想像するだけでしかないし、男の俺にはどだい理解できないもんだってのも解るけど・・。

 まずは、思いっきり泣いて抱えてるもんを吐き出しちまった方が良いって位は解るからね。


 突然抱きついて来た俺に驚いていた見たいだったクーリアも、その内恐る恐る俺の体を抱き返して来て、


「あ、あぁぁぁああああっ・・・」 


 気付けば、声を上げて泣き出した。


 その後は、泣くだけ泣いてスッキリしたらしく、ちょっとだけ照れた顔で笑うクーリアに俺もまた笑みを返した。


 その際、冷めてしまった食事を見てちょっと寂しそうな顔をしたクーリアに


「ちょっと待っててくれな」


 と言って食事をレンジで温め直す。

 少ししてチンッと言うお決まりの音と共に、再びホカホカと湯気を出す料理を並べてあげると、クーリアは酷く驚いた様で目を白黒させていた。


 ま、現代日本じゃ御馴染のレンジでチンも、こっちの世界じゃ見た事もない魔法の箱って事だね。


 そして、冒頭に至るって訳だけど――


「あぅぅ・・・こんなに美味しい物、初めてです・・」


 そう言って滂沱の涙を流すクーリアに俺としては苦笑するしかない。


 ついさっき、って言うか奴隷商人に捕まっていた時は、野菜カスと古くなって固くなり過ぎた固焼きパンを薄く塩で味付けしたお湯で煮て、ドロドロに溶かしたみたいな奴だったらしいし、村に居た頃も貧しかった為に――これはクーリアの家族がって意味ではなく、村全体的にって意味で――塩以外の香辛料が効いた料理ってのは初めてらしい。


 ちなみに、今クーリアが食べているのは日本じゃ何処ででも手に入る、レトルトのシチューとハンバーグ、そして『玄関開けたら』が決まり文句の『S氏のご飯』。


 こんなって言うとあれだけど、このメニュー位で大喜びされちゃうと、俺としてももっと美味しい物を食べさせて上げたくなってくるよなぁ。

 幸い、調味料の類も大量に積み込んできてはあるから、その内長年の自炊生活で磨いた料理の腕を振るって上げるのも良いかも知れない。


――まぁ、それも彼女が俺と一緒に居る事を望んでくれたら、何だけどさ。


 そんな事を思いながら、心底美味しそうに、幸せそうに食事を取るクーリアの姿を眺めていた。


モンスター文庫大賞に応募して見る事にしました。

宜しければ皆さん、応援の程よろしくお願い致します。

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