転生準備とマローダー② 「狭いね、この駐車場・・・って違うか」
我が家にマローダーがやって来て早一ヶ月。
ちょこちょこと転生準備の買い物に出向いてる。
最初はちょっと戸惑った左ハンドルにも今はすっかりと慣れ・・・たのは良いんだけど、ちょっとだけ問題が。
それは駐車場。
何せマローダーはビッグサイズ。
フツーのデパートやらスーパーやらの、駐車場にはちとサイズが合ってない。
まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだけど。
だけどコレ、ちょっと遠乗りでもしましょうかって時には大問題なんだよねぇ。
小腹が減った、喉が渇いたとかでコンビニ寄ろうにも、駐車場に気を使う。
田舎みたいなとこならまぁ、たかがコンビニなんかでも広い駐車場のある所もあるんだけど、街中に入っちゃうとなぁ。
大型トラックの運ちゃんよろしく、路註で買おうってにも主要道路なんかだと路註厳禁なんて場所は珍しくない。
そう言う意味ではこのマローダーって車、日本の交通事情にあってない・・・って、当り前かそりゃ。
取りあえずそんな訳で、マローダーの運転習熟も含めた転生準備は粛々と進行中である。
まずは衣服の類。
これは消費期限なんかに縛られないから、そうそうに集めてた。
お決まりのTシャツに下着はそれぞれ百は下らない程に買い込み、ジーンズだって20は下らないだろう数は買った。
半袖は熱いかもって思ったから、袖抜きシャツやらタンクシャツやらも買い込み、寒さ対策としてコートも数種類、数着ずつ買い込み、ジャンパーも皮製を始めに数着ずつ。
他にも寝巻代わりのスウェットやらロングTシャツにセーター、使わないかもしれないけど海パンだって準備済み。
靴下も当然下着同様、百を超える数を買い込んで、丈夫な登山靴タイプの靴を6足、踵付きのサンダルを六足、ビーチサンダル六足と買い込んでマローダーの収納スペースに納める。
えっ、少ないだろうって?
いやいや、これでも十分過ぎるんだな、これが。
俺が使える様になる『リロード』って魔法なんだが、これって入れ物があればその中に入っていたものを完全な状態で再装填、もしくは再充填出来るって優れ物なんだそうな。
つまり靴を例にとるなら、中身を取り出した空箱があれば、それだけでもう一足同じ靴がコピー出来るって寸法な訳だ。
つまりは魔力次第ではあるが、俺は異世界で物量チートが可能って事である。
ま、最初っからそれをあてにするのもアレなんで、それなりにしっかり物量は揃えて行くけどさ。
だって、カップ麺だとかレトルト食品だとかを毎食毎食リロードで復活とか、正直メンドイし。
箱単位で買い込んでって、ある程度減ってきたら『リロード』のが良いに決まってる。
服やら下着やらを大量に買い込んだのだって、場合によっちゃ一日で何回か着替えたりもあるだろうって事を考えると、ある程度の量は必要不可欠って理由もあるし。
兎も角、思い浮かぶ大抵の服は網羅した訳だ。
そりゃぁ、使い道が限られる和服だなんだみたいな民族衣装とかは除くけどさ。
食料品の類はリミットが近くなってきたら、日持ちする順に買い揃える積りでいる。
まぁ、基本はカップ麺やら缶詰だのみたいなものが中心だし、そうでなくてもレンジでチンかお湯で数分なレトルト品なんで、そこまで期限にうるさくない代物な上に、俺が拠点にしようとしてるマローダー内で保存してるものに限っては時間経過や周辺環境なんかを無視した超長期保存でも品質が変わらないらしいけど、それでも一応は、ってヤツ。
期限まで後三日で永久停止ってよりは、後数カ月で永久停止って方がやっぱり安心出来るのが人間だろう。
そうなると、絶賛続行中のデータ関連を除いて、買い出し品はそこまで多くない。
筆記用具の類にプリント用紙を各サイズと複合機のインクを予備を入れて二揃え・・とPCの周辺機器になってくるし、その辺りは消費期限がどうとか関係ないので、今の時点での最新式を容赦なく遠慮なく買い漁れば良いだけだ。
ま、基本はPC在りきで考えなければならない環境なんで、独立したオーディオコンポだとかは意味無いけどね。
スペース取るだけで電源ないし、あったとしてもそこまでスペースに余裕はない。
後はもう一つ。
大型特殊車両免許も取り終わり、車両集めも無事に終わった。
結構な額の金が飛んで行ったけど、その甲斐はある・・・だろうと思いたい。
今の所、練習がてらに実家にある畑をショベルカーを使って掘り起こし、二トンダンプと軽ダンプとで運び込んだ堆肥をブチ込んでから埋め直し、トラクターで耕すってのをやってみた。
ダンプ二台はまぁ、問題なし。
運転方法なんて普通の車と変わらないし、PTOのオン、オフと2WD・4WDの切り替えに気をつけようって位かな?
ショベルカー――ユンボって方が普通らしいけど、それの運転は最初こそ左右のレバーとフットペダル、前進後進のレバーが右左のキャタピラで分かれてるってのに戸惑ったけど、まぁ、これも慣れだね。
何とかなった。
トラクターもこれと同じく。
最初こそロータリーの上げ降ろしだとか深耕調整だとが問題だったけど、この辺りは説明書もさる事ながらメーカーの販売員さんが親切に教えてくれたってのが大きい。
『良い作物を作ろうと思ったら、どうしたって機械も重要になってきますしね』
なんて笑顔で言っていた販売員さんの背中には、『日本の農業応援団』の文字が。
それを見て、ちょっと悪い気がした俺は、もう一台小型のトラクターを親父達へのプレゼントに買う事にした。
だって、せっかくそれなりの大きさのトラクター買ったのに、俺は後ちょっとしたら異世界行きで、日本の農業には貢献出来ないし。
なんかちょっと申し訳ない気が・・・ねぇ。
それは兎も角、買い込んだ車両のリストはこうなる。
●マローダー 一台
●ダンプカー 軽×1、2t×1の計二台
●ユンボ 小型×1、中型×1の計二台
●トラクター(34馬力) 一台
の合計六台。
後は亜空間車庫と言いつつ、何故か搬入可能だと言う刈払機と耕運機、チェーンソーにそれぞれの替え刃一組ずつと、災害時にも使えると言う謳い文句の自転車が数台。
以上が亜空間車庫に搬入するものだ。
う~ん、刈払機の替え刃みたいなノリで他のも搬入できるんなら、まだまだ持って行きたいものってあるんだけどなぁ。
どうにも食料みたいなもんは、亜空間車庫に保存って訳には行かないらしい。
それが解ったのは、めでたく亜空間車庫が使える様になったからなんだけど、実際に確かめて見てから解った事ってのは意外と多い。
まずは、さっきも言ったけど食料の類を始めとして、搬入不可能のものがあるって事。
これに関しては、恐らく『車庫』って部分がネックになってるんじゃないかってのが、俺と織絵の出した結論で、刈払機だのチェーンソーだのって機材は車庫の片隅に置いてあったって不思議じゃないけど、食料が置いてあるってのは考え難い。
だもんで、車庫においてあっても不思議ではないものを、スペースの許す限り収納できるってのが、亜空間車庫の定義って奴なんだろう。
ただそうなると、一つ疑問なのが――
「何で風呂が付いてんだよっ!?」
そう、これだ。
何でか付いてるんだよ、風呂が。
何だ?
車庫の中に風呂が付いてんのが最近のスタンダードなのか?
月見やら雪見風呂ならぬ、車見風呂が流行ってんのか?
・・・解らん。
本気で解らん。
「うん、何か本気で理解の範疇超えて来たよ・・・」
「お兄ちゃん、さっきから何ブツブツ言ってるの?」
疲れた様に呟いた声に、織絵が怪訝そうに尋ねてくる。
あぁ、うん。
別に声かけてくるのは良いんだよ。
恋人だろうが義妹だろうが、別段声掛けられて戸惑う様な中じゃないし。
ただ、さぁ・・・・。
「織絵さん、せめて前は隠しませんかね?」
視界に移るのは、麗しきフルヌード姿の織絵嬢。
ちなみに現在地、亜空間車庫ないの風呂場からの中継になります。
そんな風に脳内でおふざけをしつつ、現実逃避を試みる俺に対して、織絵は心底不思議そうに小首を傾げて見せる。
「何で? だってもう恋人どうし、って言うかお兄ちゃんにはもう裸より恥ずかしい姿みられてるじゃない」
おぉう、それを言ってきますか織絵嬢。
いや、そうだけど!
確かに恋人にステップアップしてから、何度か抱いたり(性的に)もしたけども!
だからって隠そうともしないってのは、無警戒にも程があるんじゃなかろうかと。
「大丈夫! お兄ちゃん以外に見せる気ないし! 大学じゃ鉄壁の矢村で有名なんだから!」
「いやいや、そこは俺相手でも節度持とうよっ! まだ昼間! 真昼間だからね!? いやそんな時間帯から織絵と風呂入ってる俺も俺だけどさぁっ!」
そうだよ。
何でこんな時間から風呂入ってんだよ俺!
しかも織絵と一緒に!
答え:最近は織絵と一緒に入るのが習慣化してて、全然違和感感じてませんでした。
・・・ダメじゃん、俺。
「私は嬉しかったけどなぁ。自然にお風呂に一緒に入って一緒にノンビリ出来るって、お兄ちゃんが私と居て、それだけリラックスしてくれてるって事だもん」
ぬぅ・・・、またしても男をダメにしそうな言葉を・・・。
織絵さんや、兄さん、貴女の将来がちょっと心配です・・・えっ、お前が言うな?
ごもっともです、はい・・。
いえ、あの、僕にも言い分はあるんですよ?
ちょっとこう・・・、色んな原因が積み重なってですね、そう、初めて出来た彼女でしたので、ちょっとばかしはっちゃけたと言いますか・・・。
ぶっちゃけ、初めて異性として抱き締めたその日の内に、彼女の柔らかさと温かさに嵌ってしまった訳でして・・・・。
うん?
つまりは、お前が原因?
言い訳すんな?
仰る通りで、はい・・。
とまぁ、若干桃色風味な日常が続いている訳ですが、やる事は確りやってますよ?
何せ、アッチでの俺の一生に関わってくる訳だし。
ただ、そう考えると・・・。
ちょっと所じゃなくて、織絵に申し訳ない気がしてならないんだけどさ・・。
そんな事を考えていると、突然織絵が抱きついて来た。
慌てる俺に、織絵の静かな声が響く。
「何考えてるか解るけど、お兄ちゃんは気にしなくて良いんだよ。私は、今があるだけでも幸せ。ずっと叶ったらって思ってた、そんな瞬間がたった数カ月でも送れるんだから。それでだけで十分。だから、お兄ちゃんはもっと欲張りに自分の幸せを考えてよ。そうじゃなきゃ、私だってその時が来たら笑顔で見送り出来ないじゃない」
その言葉に何も言えなくなる。
所詮、居なくなる俺は気楽なもんだ。
アッチの世界に行ったって俺の生は続いてて、女神さんがくれたチート能力もあるからよっぽどの下手を打たない限りは楽しくやれる。
けど、遺される織絵達にしてみればこっちでのリミットは、そのまま俺の死でもある。
幾ら違う世界で生きてるんだって知ってても、こっちに遺される俺の遺体を一度はキッチリ弔わなきゃならないし、二度とは会えない。
それは永久の解れと変わらない。
なら、それを知りながら、それでも俺に告白してきた織絵を思うなら、出来る精一杯の事はしてやらなきゃならないだろうが!
確りしろよ、俺!
織絵を受け入れたのは自分だろ!?
なら、織絵を不安がらせるな!
最後まで自慢の兄貴で・・・そして自慢の恋人のままで居てやれよ!
いつか年月が流れて俺がただの思い出になった頃、『あぁ、自分の兄貴は、最初の恋人はこんな奴だったんだ』って、笑いながら自慢できるそんな男で居てやれ!
どうせそれしか、織絵にしてやれる事はないんだからさぁ!
だから俺は、そんな内心を隠して笑って見せる。
「織絵さん? ここで抱きつかれると、俺の方もちょ~っと抑えが利かなくなりそうなんでって事で、はい、離れた離れた」
「ぶ~ぶ~、お兄ちゃんのヘタレ。普通は勇んで襲いかかる所でしょ~」
なんて事を言いながらも、織絵の表情は笑顔。
いつも通りの俺が戻った事が嬉しいらしい。
「ヘタレ言うなや。これは常識人って言うんだ。うん」
「・・・常識人は義理とは言え、妹を抱いたりしないと思う」
「グハッ!?」
こんな当たり前の日常が愛おしい。
そんな風に思えたのは、きっと織絵が居たからだ。
だから、俺は忘れない。
矢村織絵って言う血の繋がらない妹が居た事。
四苦八苦しながらも世話を焼いて来た事。
その甲斐もあって、真っ直ぐ育ってくれた事。
最後の最後に告白されて、想いと体を繋げた事。
全部、全部纏めて忘れない。