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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
余命宣告と転生準備
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転生準備とマローダー① 「おぉぅ、これはデカイね・・・」

 俺が女神さんによる余命宣告を受けて早数カ月。

 まぁ、早いもんでしたよ。

 月日が経つのはね。


 で、遂に俺のマローダーが仕上がったって聞いたんで、喜び勇んで改造をお願いした工房にお邪魔する事にした。


「・・・で、お前は当然付いてくると」


「当然でしょ? 夫のある所に妻の姿ありよ」


 視線を少し横にずらして見れば、そこには我が義妹改め、晴れて恋人――自称、奥さんに昇格した織絵の姿が。

 俺の左腕に抱きついて、幸せ一杯の表情で笑っているのは良いんだが・・・。


 良いのか、お前、大学は?


「あ、大学なら休学届出して来たよ? 家庭の事情って言って」


 うわぁ・・・、思い切ったなオイ。


「愛しの夫、兼自慢の兄が後一年の命~なんて言われたら、そっち優先するに決まってるじゃない。大丈夫! ウチの大学って学生結婚OKだから、出産でちょっと休学とか割と居るしね」


 あぁ、さいですか・・・。


 とまぁ、妹どのからの告白は結局こうなった訳ですな。


 ぶっちゃけ、あの時は断ったんだよ。

 何せ、今の今まで『女』として目を向けた事なんかなかったし、性別上の異性だってのは知ってても、『妹で家族』なんだって認識しか持ってなかったから、マジで恋愛対象になるとは思ってもなかったし。


 しかし、それで諦めないのが織絵さんクオリティ・・と言いますか


『まぁ、そうだろうってのは解ってたからね。でも、これからは遠慮しないでガンガン攻めるから。今も昔も、私の初めてはお兄ちゃんって決めてたんだから、覚悟してね』


 と、実に、実に良い笑顔で言ってくれましたとも。


 そして始まる織絵さんの織絵さんによる兄貴攻略の日々。


 朝目を覚ましたら、いつの間にか俺のベッドに潜り込んでいた、なんてのはそれこそ朝飯前。

 食事時は必ず俺の隣に座り、伝家の宝刀「あ~ん」はお約束。

 俺が出かける時には必ず付き添い、さり気なく腕を組んで豊かに育った二つの桃を押しつけてきては、ふとした拍子に抱きついてきたりと俺の理性を崩しに掛かる。


 更には俺に告白した今、恥じ入る事等在りはしないと言わんばかりに、「恋人みたいだね」とからかうご近所さん、並びに「ご夫婦ですか? 仲が良くて羨ましいですね」と言ってくる出先の店員さんに、満面の笑みで「うん、やっと私に靡いてくれたの!」やら、「はい! 近々そうなる予定ですっ」やらと堂々宣言しては、頬に口づけて見せ・・・と、未だかつてない戦力をもって、俺を攻略に掛かって来た訳で。


 その結果――

 ・・・陥落しました、はい。


 いやぁ、流石にあそこまで無条件かつ大っぴらに、しかも一途な好意をぶつけられると、流石に『妹だから』ってだけで断る訳にも行かなくなりましてね。

 で、妹フィルター外して一人の女の子として見てみると・・・意外ってのは悪いけど、かなり良い女だったりしたのには驚いた。


 どうやらお袋に応援されて吹っ切れた後、何とかして俺を振り向かせようと女を磨いて来たんだとか。


 いや、だからってさ・・・、俺のイメージん中じゃ包丁握れば指所か手を斬り落としそうだったあの織絵が、店売りしてても不思議じゃないレベルの料理を――それも和洋中と何でもござれで作って見せるとか、女神さんとの邂逅以上にビックリしたもんだよ。

 見事な料理を前に目を向いて驚く俺に対して、織絵様はしてやったりの表情。


『料理教室掛け持ちして腕を磨いたかいがあったよ』


 なんて笑顔でサラリと言ってのけた。


 聞けば高校時代、部活にも入らず、さりとて放課後に遊び歩くでもなく『ちょっと早めの花嫁修業』と称して料理教室やら刺繍教室やらと、織絵が思う『お嫁さんの必須技能』の修得に明け暮れたと言う。


 当然、織絵の想いを応援してる親父とお袋が協力しない筈もなく、それからは妹が大学に入って家を出るまでの数年間、毎日朝昼晩と家事一切をこなして反復練習兼技能上達に努め、料理もののイベントがあれば必ず参加して腕を磨いた結果がこれだそうである。


 うん、気合の入り方が半端じゃなかった。


 元々両親に似てルックスは悪くない我が妹君。

 どっちかと言うと可愛い系の顔立ちとちょっと小柄ではあるけど、メリハリの利いた体系とぶっちゃけ、どこぞのファッション雑誌に載っていても可笑しくはない。


 そんな織絵が家事技能を手に入れたとか、モテ要素満載なんじゃないかと思うんだが、織絵曰く


『もう心に決めた人がいるんだから、それ以外に靡く訳ないじゃない。私は、お兄ちゃん一筋なの!』


 と見向きもしなかったそうな。


 とまぁ、そんな風に一途に純粋に想いを寄せられては無碍にも出来ず――と言うか、ここまで俺を思ってくれる良い女、他人に渡すのは・・・と、織絵ルート突入が決定した瞬間だった。


 あぁ、一応、子供は作ってない・・・と言うか、作らない事になってる。

 リミットがなければ兎も角、数カ月後には確実に居なくなるのが解ってるのに子供作るとか、ちょっと問題ありだろう。


 一応施設出の身としては、両親の揃ってない家庭ってもんの寂しさは重々承知なんで、その辺りは譲らなかった。


 織絵には、将来俺以外の男を愛して家庭を築いて欲しい。

 その時、子持ちってのは結構なネックになるだろう。

 性的にオープンになりつつある現代日本では、早めに経験を致してる子も多いからさ。


 単に処女じゃないってだけなら問題にはならないにしろ、流石に子供が居るとなると二の足を踏む奴は多い筈だしね。


 兎も角、そんな風に関係が変わった義妹改め恋人の織絵を引き連れ、少々の時間を掛けて工房に移動。


 いや、流石は田舎と言うべきか、車を使わないとなると時間が掛かる掛かる。

 駅前までは親父に送って貰えたから良かったものの、電車の本数が少ないから結構な飽き時間が出来ちまうんだよなぁ。


 あ、車で来なかった理由は至って簡単。

 そのままマローダーに乗ってくるつもりだからである。


 ちなみに、今までの俺の愛車は織絵に譲るつもりだ。

 織絵だって免許は持ってるし、やはり車のあるなしじゃ行動の自由さに違いがある。


 大学時代に使っていた中古車から、買い替えてまだ二年と少し。

 幸いと言うか何と言うか、残っていたローンは退職の件と合わせて一括で支払ってしまったので既にない。

 距離だってそんなに乗ってないし、後数年は問題なく乗っていられるだろう。


 そんなこんなで到着した工房では、厳つい顔した如何にも職人って感じの親父さんがお出迎え。


「おうっ! 矢村さんだったな、注文通りに出来てるぞ。確り確認してやってくれや」


 口調こそ乱暴なものの、嫌な気分がしないってのは彼の人柄って事なのかな?

 そんな事を考えながら親父さんの案内のままに進んでいくと、工房裏手にある駐車場に一際目を引く鋼の巨体が鎮座していた。


「おぉぅ、デカイってなぁ知ってたけど・・、やっぱ実際に見るとデカいなぁ、コイツ」


 四トン車に匹敵するデカさを誇るってのは知識の上では知っていた。

 が、実際に見て見ればそれ以上にデカく見えるのは何でだろう。

 やっぱり、トラックだとかみたいにある意味デカくて当然、って印象のある形じゃなくて何処となく乗用車って形が残ってるからかな?


 まぁ、実際には装甲兵輸送車なんて使われ方してる位だから、どっちかってーと兵器って部類に入るのかも知れんけどさ。


 兎も角、実際目にしたマローダーのデカさに驚きも一入の俺の隣で、織絵も余りの大きさに大はしゃぎ。

 どうやら、こっちは驚くってよりもテンションが上がる方に天秤が傾いたっぽい。


「すごっ! ね、ね、中! 中も見てみようよ!」


 そう言いながら俺の手を引いてくる織絵に、親父さんもダハハと豪快に笑いながら背中を押してくる。


「おう、嫁さんの言う通り。確り中見てやってくれ。こちとら全霊込めて改造した成果ってのを見て貰わんにゃ、料金貰えんからな」


 いや、それはそうなんだけどさ。


 つか、ここでも織絵は嫁さん認定ですか、そうですか。

 結婚した訳じゃないんだけどなぁ、なんて思ってる俺とは対照的に初対面の親父さんにまで嫁さん認定された織絵のテンションは急上昇。

 腕を引っ張る強さがクイクイからグイグイに変わり、遂には俺の手を引いて走り出してしまった。


「ほら貴方、早く見てみよ?」


 いや、貴方ってね・・・・。

 あぁ、もう反論する気もねぇや。


 兎に角車内でも確認するとしましょかね。

 織絵に引っ張られながらマローダーに近づき、親父さんから鍵を受け取る。


「あぁ、助手席側は後ろのドア潰してあっからな? 後ろ入んなら右からだぞ」


 OK、承ったぜマイスター。


 言われた通り、運転席側の後ろドアを開いて乗り込んで見ると、そこは――


「・・・何と言う事でしょう?」


 瞬間的に往年のリフォーム番組のBGMとあの名台詞が脳裏に浮かんだ俺は、決して間違ってはいないと思う。

 改造前の車内は左右に四つずつ並んだ無骨なシートが並んでいるだけだった車内が、少々狭いながらも快適そうな居住空間に生まれ変わっておりましたよ。


 ドアを開けた真正面にはちと小さめではあるものの寝台が作りつけられ、その下のデッドスペースには四つ程の引き出しが。

 ベッドに腰かける様にして反対側を見て見れば、ドアの脇に薄型モニターが固定され、その下にテーブル代わりの板が張り出しており、壁に確りと固定された棚の引き出しにはマウスとキーボードが入っている。

 良く見ればテーブルの片隅には長方形の切れ込みが見えて、どうやら蓋になっているらしい。

 何だろうと開けて見れば、四つ程のUSBコネクタの差し込み口が並んでいた。

 成程、使わない時は邪魔にならない様にって気遣いな訳だ。


 そのまま視線を後ろにずらしていくと、後部ドアを完全に潰して取りつけたらしい、ギッチリと作り込まれた収納棚が見える。

 あれだけあれば、仕舞い方さえ間違えなければ結構な量が入れられるだろう。


 で、肝心の料理器具はってーと


「調理器具の方なんだがよ、あんまデケェのはスペースの都合上容れらんねぇ。だったらそんなもん、日頃から出しとくのもってんでな」


 そう言って親父さんはテーブルの一部の板を持ちあげてずらす。

 その下からはIHヒーターの加熱部が顔を出し、持ちあげた天板は裏側についていた薄い金属板を二枚横に開けば、そのままヒーターを覆う様な形に変わる。


 あぁ、成程。

 使わないときは覆いを畳んでしまえば、ヒーターもろとも隠してしまえるって訳だ。


 狭い車内をなるべく広く使う知恵って奴だね。


「後、注文の中にあった冷蔵庫だが、それはあそこだ。ベッドの後ろ見てみ? 壁があるだろ。その後ろっ側だ」


 言われた通りに視線を動かせば、そこまで大型って訳ではないものの、冷蔵庫が取り付けられており、その上には小さいとは言えシンクを挟んで天上辺りに電子レンジ。

 当然、確りと金属板を使って車体に固定されている。


「で、使用上の注意なんだが・・・。まず、レンジとヒーターは一緒には使えん。元々、この車は24V程度でな、車としちゃぁデカイ方だが発電量が追い付かん。一応、蓄電池も詰み込んであっから、日中確りと太陽光発電の方で充電しといてやりゃぁ何とかなるだろうが、他の電気機器の事も考えるなら、どっちかにするべきだな」


 その辺りは予想通りって所かな?


 そもそも、レンジ自体そこまで使用頻度は高くならないだろうと思ってるし。


「冷蔵庫の方だが、見ての通り容量もあんまりデカくはない。これは完全にスペースの都合だな。一応、キャンピングカーなんかに使うもの中じゃ一般的なサイズは入れられたが、お前さんのリクエストを考えると、収納で取られるスペースがデカイからな、そんなもんが限界だな」


 と、内装に関してはここまでとして、親父さんに来い来いと誘われるまま車外を回る。


「で、そこ見えるな? それが給水口だ。燃料じゃねぇから間違えんじゃねぇぞ? で、その下・・・、こっから覗きこみゃ見えっだろうが、あそこに汚水が溜まる。水抜きすんのは・・・」


 そう言って、実際にごそごそと開け方を実演してくれる親父さんの手元を確りと見ておく。


 まぁ、汚水って言ってもトイレと違ってそこまで汚いもんではないんだけど、流石に垂れ流しって訳にも行かないのは確かだし。


 その後もあれやこれやと説明して貰って、気付いた頃には二時間程の時間が経っていた。

 それ以上長々と説明しても、って事で後は実際に使って覚える方が良いだろうってのは親父さんも同意した事だ。


 なので、事務所に戻って料金等の清算を済ませ、「また来いよ!」と言ってくれる親父さんに頭を下げてマローダーに乗り込む。


「良い人だったね」


 助手席に乗り込んだ織絵がそう言って笑うが、俺もそう思った。

 残念なのは、「また来いよ」の「また」がないって事だろう。

 そう思うと少し寂しい気もするが、そればっかりは仕方がない。


「さて、そんじゃぁまぁ、帰りがてらに買い物すっかぁ!」


 気を取り直す様に言った俺の言葉に、


「こんな車で言ったら、他の御客さんビックリしちゃうんじゃない?」


 等と織絵もおどけた様に返してくれる。


 そんな織絵に笑い返し、俺は新たな愛車――マローダーのアクセルを踏み込んだ。


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