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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
余命宣告と転生準備
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家族旅行と妹の告白 「いや、まさかねぇ・・・」

 帰郷当日にお袋と妹に盛大に泣かれてから早数日。

 矢村家はどうにか落ち着きを取り戻していた。


 いやぁ、ホント苦労しましたよ。

 何とか宥め様にも、中々落ち着いてくれなかったんだ。

 お袋と妹が。


 うん、まぁ、気持ちは解らんではないし、遺す俺より遺される皆の方が辛いんだろうなぁ程度の事は解るんで、仕方がないってのも解るんだけどね。

 だからって、俺の事で泣かれてる――しかも本気の号泣とかされた日にゃ、こっちの精神にもキツイ物があるんだって解って貰いたい訳で・・・。


 あれは今思い出しても疲れるものがあるね、マジで。


 兎も角、何のかんのとあったものの、何とか落ち着きを取り戻した矢村家御一行は、本日家族旅行と相成った。

 いや、何でって聞かれてもねぇ。

 いわゆる思い出づくりってヤツ?


 何て言うのかなぁ・・・。

 ウチの家族ってさ、今までまともに家族旅行ってもんをした事ないんだわ。


 いや、原因は色々あるよ?

 両親が晩婚ってのはもう言ったけどさ、夫婦そろって真面目一徹、仕事に打ち込んできた所為で結婚が遅れたって人達だから、結婚した頃にはそれなりの立場に居た訳だ。

 で、会社ってのは立場が上がれば上がる程、当然責任ってのも重くなる。

 いざ家族旅行と思い立ったは良いものの、それぞれ仕事の都合が付かずに休みが合わず・・ってのが大体のパターンだね。


 他は・・・まぁ、妹が出来たのも遅かったからさ。

 老い先は短く、他の家族程には永く一緒に居てやれない。

 なら、せめて遺せるものは遺すんだと、より一層仕事に励んだってのが一番大きいかも。


 兎角、子供の世界ってのは残酷なもんで、ちょっとでも人と違うもんがあるとその時点でイジメの原因になったりする。

 授業参観なんかで出てきた親父やお袋が、他のクラスメイトの親連中より明らかに老けてるってのは、ある意味じゃ十分な理由だったりする訳だ。


 俺や織絵なんかは気にもしてなかったんだが、親父達はその辺りが気になったらしく、だったらせめて金で苦労だけはさせまいと・・・って、ちと努力の方向性間違ってないかって気もするけど、まぁ、そんな感じで仕事に邁進したと。


 そんな訳で、俺も織絵も生まれてこの方、家族揃って遊びに行ったって記憶はないんだよねぇ。


 で、今になってそれに気付いた・・・と言うか、何時か余裕が出来てそんな暇も出来るさと先送りにしていた事をやろうって事になった。


 まぁ、俺のリミットがあるからね。

 もうちょっと余裕が出来たら、なんて言ってられなくなった訳だ。


 だもんで、親父とお袋は結構無理して長期休暇をもぎ取って来たらしい。


 らしいってのは、上役――社長さんだとかには、『息子が余命宣告を受けてしまったので、出来るだけ一緒に居てやりたい』と直訴して許可貰ってたらしいんだが、同僚さんからは結構反感くらったんだと。


 あぁ、別にその同僚さん達が冷血漢だって訳じゃないぞ?

 親父もお袋も、極一部を除いて俺の余命云々の事は話してないそうで、それを知らない人からすれば、この忙しい時期に突然長期休暇取ろうってなぁ何事だって事なんだそうな。


 ぶっちゃけ、俺もそっちの立場ならそう言う話なぁ、と妙に納得したもんだ。


 後は織絵の方だけど、こっちはあまり問題なかった。

 元々、夏休みの間はこっちに戻る位しか予定はなかったらしいし、強いて言えば大学もそろそろ慣れて来たからバイトでも探そうかなって思ってた位らしいしね。


 加えて、俺の事があったもんで友達からの誘いは遠慮して来たって言うから、時間はたっぷりあるそうだ。


「だから、出来る事あったらお兄ちゃんの手伝いもやるから、気軽に言ってよ」


 と言って来たので、有難く手伝って貰う約束をした。


 言って見れば、これも思い出づくりってヤツに含まれるだろうし。


 と、そんな経緯で急遽決定した矢村家初の家族旅行。

 行先はそこまで遠場ではなく、車を四、五時間程飛ばした辺りにある山間の高原である。


 今更家族旅行で海だのキャンプだのって歳でもないし、時間ばっかかけて外国行ってもってのが正直な所だったので、ま、この際皆でノンビリしようって事でそこに決めた。


 何せこの家族、日頃多忙な仕事人間が多い。


 親父とお袋は当然として、俺はつい最近まではドが付きそうなブラック企業に勤めてた訳だし。

 ある意味、キチンと自分の時間ってヤツを持ててたのって、大学生以外の肩書を持ってない織絵位なものなんだから、ある意味丁度良いっちゃ丁度良かったとも言える。


 そしてそうと決まれば行動が早いのが我が家族。

 一時たりとも無駄にするものかと言わんばかりにそそくさと準備を整え、俺の愛車に乗り込んで一路高原へ。


 途中、面白そうなものを見つけたら寄ってみたりしながら、予約したホテルに着いたのは、そろそろ日も暮れようかって頃だった。


 天然温泉を引いているらしいホテル自慢の大浴場にノンビリ浸かり、火照った体で汗を拭きつつ部屋に戻れば、贅を凝らした山の幸満載の夕飯がお出迎え。

 互いに注ぎつ注がれつ酒を飲みながら料理を楽しみ、取りとめもない話をしながら夜も更けてご就寝。


 そして朝起きれば朝食を食べて周囲にあるらしい、観光スポットを巡ってみたり・・と中々楽しい一週間を過ごした。


 俺も織絵も童心に返ったみたいにはしゃいだし、親父達だってそうだ。


 そんな中、親父がふと漏らした


「こんな事なら、仕事仕事なんて言ってないで、お前らが子供の頃からやっとけば良かったな・・。ま、今更言っても仕方ないんだが」


 って一言が印象深かった。


 やっぱり、こうなって見て初めて思う所ってのもあるんだろう。

 一つも後悔のない人生ってのは、中々ないって事だ。


 そして一週間に渡る矢村家の家族旅行が終わり、実家に戻った俺達はそれぞれの日常に。


 ま、俺は最後の一年位はこっちに居てくれと言う両親の願いを断れず、今までいたアパートを引き払って戻って来てるんで、その辺りは変わってるとは言えるけど。


 親父とお袋はそれぞれ仕事へ出向き――何だかんだと理由をつけて定時で帰ってくるが――、俺は織絵に手伝って貰いながら着々と準備を進めていく。


 潤沢な資金を使って片っ端から映画にアニメのDVD――完結物に限る――を買い漁り、少しでも嵩張らない様にする為にブックタイプのDVDケースに収めなおしたり、借り込んだCDをMP3データに変換してSDカードにブチ込む作業を続けたりと、地味ながらも忙しい作業を進めていた。


 そんなある日――


 その日は、親父とお袋はどうしても抜けられない仕事で泊りがけだと言って出かけており、俺と織絵は久しぶりに二人だけの夜を過ごす事になった。


「しっかし、お前と二人で実家に居るってのも、結構久しぶりだなぁ」


「うん、お兄ちゃんが入社する前位ぶりかな」


 何の気なしに行った俺の言葉に、織絵が正確な答えを出してくれた。


 あぁ、そんなに経ってたのかと思うのは、余りに忙しかった会社時代の毎日が年の経過ってのを忘れさせていたからかもしれない。

 にしても、俺が会社に入る前だから・・・かれこれ4、5年は経つのか。

 時が流れるのは早いもんである。


「お兄ちゃん、大学遠いのにわざわざここから通ってくれてたもんね。まぁ、だから私は一人にならなくて済んでたんだけどさ」


 まぁ、なぁ・・・。

 ウチの二親は、仕事人間が高じ過ぎてちと放任気味だったからなぁ。


 だからって当時11其処らの妹を家に一人にさせる訳にも行かないので、俺は毎日往復四時間の道のりを車を走らせて通学していた訳だ。

 何せ、深夜0時過ぎやら午前様は当たり前ってのがあの二人の帰宅時間な訳で、幾ら田舎とは言え、幼い娘一人に留守番させるのはちと不用心が過ぎるだろう。


「あ~、あんときゃ我ながら頑張ったなと、少しばかり自画自賛してみたり」


 うん、頑張ってた。

 あの時の俺。


 大学が終われば真っ直ぐ家に帰り、夕食の準備。

 風呂の準備と食器洗いは妹がやってくれるので、暫し体を休めたら洗濯機を回しながら、妹が取りこんでおいてくれた洗濯ものを仕分けてアイロンがけして畳んで・・。


 朝は早く起きて洗濯ものを干したら二人分の朝食を用意して、妹の分にはラップをかけて、車に駆け込んで大学へ。


 ホント忙しい毎日だったと今でも思う。


 ま、その甲斐あって・・・ってのも変だけど、妹も変にグレたりせずに真っ直ぐそだってくれたんだから良しとしよう。

 そんな事を思いながら缶ビールを煽っている俺に、織絵が続ける。


「自画自賛なんかじゃないよ。誰が見たって、お兄ちゃんは頑張ってた。それは私が一番良く知ってる」


 そう言って、織絵も缶ビールをチビリと飲む。


 本来なら18歳の織絵にはまだ酒は早いんだが、俺と一緒に酒を飲んでみたいって言うんで少々フライング。

 ま、法的には問題かもしれないが、そこらは余命一年の俺に免じて許してくれって事で。


 そんな事を考えている間も、織絵の言葉は続く。


「毎日毎日、ご飯を作ってくれて、お洗濯もしてくれて・・・覚えてる? 私が遠足でお弁当だって時も、そのお弁当を作ってくれたのってお兄ちゃんだったんだよ?」


 あ~、うん。覚えてる。

 あん時は親父もお袋も、二人揃って出張が重なっちまって家に居なかったんだよなぁ。

 だもんで、流石に買い弁は可愛そうだと、徹夜明けで眠い目擦って必死扱いて作ったんだっけ。


「他にも沢山沢山・・・。私、お兄ちゃんが居たからここまで大きくなれたんだなぁって、時々思うんだ」


 いや、流石にそこまではなぁ。

 一応、何くれと世話は焼いてたけど、結局、生活基盤に当たる金を稼いでくれてたのは親父達だし。

 俺は手が回らない所をフォローした程度だろ。


 織絵自身が良い子だった事もあって、あんまり手がかかるって訳でもなかったしね。


 俺がそう言うと、織絵は曖昧に笑った後、手にした缶ビールをグイッと煽ってから俺に笑顔を見せた。


 そして――


「ね、お兄ちゃん。子供、作ろっか」


 爆弾発言を投下した。


 ホワイ?

 子供?

 作る?

 誰と誰が?

 俺と織絵が? 

 ・・・・・・・・・・・・・・。


「いやいやいやいや、ちょっと待とうや織絵さん。俺とお前、兄妹。そこんトコ解っとるかね?」


 兄妹でそれはあり得んだろ。

 法的にも、倫理的にも、うん。


 しかし、慌てる俺とは違い、妹どのは小さく笑って首を振る。


「ホントの兄妹ならそうだけど・・・、私とお兄ちゃんなら大丈夫でしょ? 血、繋がってないんだし」 


「って、お前知ってたのか、それ!?」


 今更隠す事じゃないのかも知れないが、織絵が知ってるってのは正直驚いた。


 そう、俺と織絵に血の繋がりはない。

 より正確に言うと、俺はこの矢村家の誰とも血縁がないって事だが、これは至って簡単な理由で俺が養子だからってだけの話。


 親父とお袋が晩婚だっての話したが、それだけじゃなく、どうやらどっちがってのは兎も角として不妊症もあったらしい。

 らしいってのは詳しく聞いてないからなんだが、そんな両親は例え血が繋がらなくてもと子供を求めて孤児院を訪ね、気に入ったらしい俺を養子に迎えた。


 ま、その数年後には諦めずに行ってきた不妊治療が実を結び、織絵が出来た訳だが、だからと言って俺と織絵の扱いに違いはなかった。


 俺は息子であり織絵の兄として、織絵は娘であり俺の妹として、血の繋がりなんぞに関係なく家族として扱ってくれていたし、俺にしても実の親父とお袋、妹として接してきた積りでいる。


 だからまぁ、ばれた所でそれがって話ではあるにせよ、少しばかり驚くのは仕方ない事だろう。


 そんな俺の気持ちに気付いたのか、織絵は視線を俺の顔から天上の月に移して続けた。


「最初は、ね。私って変なんだって思ってた。だって、幾ら一杯良くしてくれてるからって、お兄ちゃんの事好きになっちゃったんだもん。ホントにちっちゃい頃なら、無邪気にお兄ちゃんの御嫁さんになる~なんて言えるけど、ちょっとすると家族とは結婚出来ないって解るじゃない?」


 そりゃぁ、なぁ・・・。


 一般常識ってのもあるが、その辺りの法令関係は確か道徳かなんかで出てくるんだっけか?

 昔過ぎて今一記憶にないが。


「まぁ、ホントの意味で好きなんだって・・・異性として好きなんだって解ったのは、お兄ちゃんが就職して家を出てからだったんだけどね。何か、心の中にポッカリ穴が開いたみたいで、あぁ、随分お兄ちゃんに依存してたんだなぁって思ってたんだけど、やっぱり何か違うんだよ。それで、偶然お兄ちゃんからのメールを読んでる所を見てた友達がさ、『随分嬉しそうだけど、彼氏から?』って言うの。それで、気付いた」


 そう言うと、織絵は縁側から垂らした足をブラブラと揺らす。


「気付いちゃったら、後はダメだったな・・。どんどん気持ちがおっきくなって行って、ちょっとした事でお兄ちゃんを思い出して嬉しくなったり寂しくなったり。ま、そんなんだもん。幾ら仕事が忙しくたって、お母さんも気付くよね」


 サンダルをつっかけて庭に出た織絵は、そのまま月に向かって歩きながら続ける。


「どうしたんだ、って聞かれた。最初は誤魔化してたんだけど・・・やっぱり誤魔化しきれなくて・・・、結局話した」


 そこで、織絵は俺に振り返った。


「そしたらさ、お母さんが応援してくれたんだ。あれは驚いたなぁ。反対される、怒られるってばっかり思ってたからさ」


 そう言って笑う織絵を見て、何となく解った。


 詰まりは、そのタイミングで――


「そこで、俺が養子だって知った訳か・・」


「うん」


 そう言って笑う織絵の顔は、儚げに見えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] こう成れば織絵への遺産に生命保険を自身に10億掛けて 残したら?ヨーロッパの保険は掛金を掛ければ 死んだ場合煩いこと言わず出すよ? 日本やアメリカは煩いが四の五の言わず黙って払うよ? 織江と…
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