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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
余命宣告と転生準備
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一等当選と余命宣告 「・・マジで?」

 夢を買う。


 そんな言葉があるけど、宝くじってのは正にその通りだと思う。


 いや、ロマン云々は置いといて、当たる確率が正に『夢みたいなもの』だって意味で。

 まぁ、一等前後賞当選で一攫千金を叶えたって人は確かにいるし、『夢幻の如し也』なんてどっかの戦国武将みたいな事は言わないけど、それにしたって確立は低いからね。

 そんな訳で、夢みたいだなって思う訳だよ。


『これで一等当たったら何買おうかなぁ』なんて考えながら、それでも内心ではそんな筈ないんだけどと思いながら皆が買う宝くじ。

 

 俺こと、矢村(やむら)(いつき)もそんな中の一人だ。

 

 大学卒業と同時に就職した会社は、サービス残業と休日出勤の多さでは割と有名だったらしいと知ったのは就職後二カ月が過ぎた後。

 これが世に言うブラック企業かと思いつつも、特別有能って訳でも高い技術があるって訳でもない、一般人でしかない俺を雇ってくれそうな所は他にはなく、食い扶持を稼ぐに当たっての資金源を失う訳にも行かず・・・で辞めるに辞められず。


 田舎に戻るって手もないではないけど、あんまり意味ないしね。


 ド田舎って程ではないにせよ、東京(こっち)より就職が少なくて大変だってのは、アッチに残った友人から聞いてたし、まさか25にもなって親の世話になるって訳にも行かないだろうし。


 父と母は晩婚気味で、俺と妹はちょっと遅めの子共だったからさ。

 父も定年がそろそろ近づいてるし、俺と少し離れた妹はまだ大学に入ったばっかって事を考えると、仕事を辞めて・・ってのはちょっと気が引ける。


 毎日毎日、朝早くから遅くまで仕事仕事の毎日に疲れながら、宝くじを買っては『これで一等当たれば』なんて妄想するのが楽しみの一つだったんだ。

 高額当選したら外国行くぞ! だとか、一軒家買ったるぜ! とかね。

 ・・・ぶっちゃけ外国なんぞ行こうにも、有休申請通る筈もないんだけどさ。


 まぁ、そんなこんなでいつも通りに買った宝くじは、いつも通りに一時の夢を与えて終わる・・・筈だった。


「おめでとうございます! 一等、ご当選ですよ!」


「は? はいぃぃぃぃぃっ!?」


 どうやら、俺は夢を買ってしまったらしい。

 

 それから後の事は正に夢心地だ。

 何度も何度も、しつこい位に確認して、完全に間違いないと解ると、今度は一気に頭の中が真っ白になった。


 いや、さ。

 余りに金額がデカ過ぎで、何をしよう、とか、何が出来る、とか全部吹っ飛んじゃったんだよね。

 だからまぁ、言われるがままって言うか、形式通りに手順を踏んで・・・。

 俺が我に返ったのは、現金の山のまえで記念撮影をして、新たに作った3つの口座に一億ずつ分けて入金した後だったりする訳だ。




 そして我に返った俺がまずやった事は何かと言うと・・・。


「今日まで御世話になりました。今月一杯で退職させて頂きます!」


 と積りに積もった不満と共に、退職届を叩きつける事だった。


 いや~、面白かったね、あれは。

 就職難のこのご時世、多少無茶させた所で辞める筈がないなんて高を括ってたらしい部長、文字通り椅子から滑り落ち掛けてたよ。

 その後は、何故辞めるのか、考え直せないかと色々聞かれたけど、それは全部切って捨てた。


 大体、調子が良いんだよ。

 今までは何とか一カ月後のこの日に休ませてほしいとか、残業を少し減らしてほしいとか散々頼んでも、一切聞かずに『いやなら辞めろ。そんな軟弱者は要らん!』としか言わなかった癖に、いざ辞めるとなったらこれだ。


 うん、まぁ、自分で言うのもなんだけど、俺ってこの会社じゃ結構やり手な方だったのは確かなんだ。

 けど、そんな割に出世しないのが何でかって言うと、『部下の手柄は自分の手柄』がまかり通ってしまうこの会社の体質なんだよねぇ。

 この部長もその口で、俺の上げた実績で係長から上がって行った訳で。


 そんな中、出世の手段(打ち出の小槌)である所の俺が辞めるとか言ったもんで大慌て。

 急に態度を変えて


『残業は減らすし、残業代も考えて貰う様、上に取り次ぐ』


 だとか、


『休日出勤はなるべく減らすし、有休も考える』


 とか言いだしたが、そんなものは今更だ。

 

 考えるまでもない。


 三億円・・・世間一般のサラリーマンの生涯年収に匹敵する位の金が手元にあるんだ。

 今更、多少改善される程度でしかないブラック企業に居続ける必要はない。

 流石に一生働かないってのは不健康すぎるからアレだけど、一年其処ら遊んで暮らしたって罰は当たらない筈だ!


 と言う訳で、反対を押し切り、退職を勝ち取った俺は着々と仕事の引き継ぎをこなして行った。

 後一カ月、一カ月だけの辛抱だと会社に通い、そして――


「っしゃーっ! これで自由じゃぁ!」


 遂に自由の身となった俺は、会社を出るなり大声で叫んだ。

 うん、感無量。


 それでその後は田舎の両親に電話して、近々帰る事を伝えて眠りに就いた俺は――


「はい?」


 今現在、何故か真っ白な空間に居た。

 キョロキョロと辺りを見渡すものの、ただ只管に真っ白なだけで何もない。

 そんな空間。

 訳が解らず、尚も見渡す内に、ふと何かの気配に気づいて視線を下げると――


「おぅ・・・」


 実に・・・実に見事な土下座を披露する、金髪の美少女様の姿。

 

 実を言うと、この時点で悪い予感はしてたんだよな~。


 だってアレじゃん?


 これってさ、学生時代に読んだ異世界召喚物のネット小説だとかでの、鉄板ネタ。

 やれ『手違いで~』やら、『部下がミスして~』やらで寿命以前に死ぬ事になっちゃったから、異世界行って新しい人生をエンジョイしてくれってヤツ。


「・・・マジで?」


 単なる夢オチってだけなら良いんだけど、何でかこんな事にばかり良く当たる俺の勘が囁く。


 ――受け止めろ、これは現実だと――


「いや、無理だろフツー」


 っつーか、受け入れて溜まるか!

 こちとら大金手に入れて、やっとこブラックな会社を抜け出たトコなんだぞ!?

 全然全く、これっぽっちも完膚なきまでに一切遊んでないっつーの!


 際限なくヒートアップしそうな俺に、冷や水を掛ける様に


「・・・ごめんなさい」


 今にも泣き出しそうな、震えた声が響く。


 そしてそれを聞いた俺は、無意識に溜息を吐いていた。


 あぁ、ダメだわ。

 見た目妹位の女の子に泣きそうに謝られて、テンション上げ続けられる程自己中じゃなかったっぽい。




 それから何とか顔を上げてもらった彼女と話した所、俺の予想は概ね間違っていなかったらしい。

 俺が本来の寿命より早く死ぬのも、こっちで死んだ後異世界に行くのも予想通り。

 ただ一つ違うのは、死ぬまでに時間があると言う事。


「一年です。たった一年・・・それが、何とか取り戻せた貴方の寿命です」


 聞けば、彼女達生死を司る神の一人が何らかのミスをしたらしいのだが、その神は少々無茶な方法で解決したのだとか。

 その結果、生じてしまう混乱をどうにかしようと、現時点で最高の運勢を持っていた命をぶつける事で相殺し、ミスそのものを隠そうとしたのだそうな。


「当然、その程度で隠し遂せる程、神界は甘い世界ではありません。かの神は即座に犯したミスと、その解決の為の手段を問題に問われ、存在を消されました」


 たった一つのミスで存在抹消。

 それはそれで随分と重い罰則とは思うものの、本来はそこまでではないと言う。


 まぁ、一つのミスが命に直結する彼女達の職場では、ミス自体が許されないし、ミスへの考え方も俺達人間以上に厳格なのは確からしいけど、それにしたってミスによって生じた事態を、ミスを犯した神自体の神力――信仰や経年日数によって蓄積される神にとっての力の源であり、言わば神にとっての寿命そのもの――を消費させて解決させる事と、一定期間の封印措置による再教育と言うのが通例だそうだ。


 だが今回はと言えば、詳しくは教えてくれないものの、ミスを起こした原因も悪辣なものだったと言う事に加え、無関係な命――この場合は俺だ――を無為に消し去る事で隠滅しようとした事で、そこまでの罪になったのだと言う。


 その神については、もはやそれで良いのだが、それで問題になるのが俺だ。


 事件そのものが発覚した時点で、急速に失われつつあった俺の寿命を回収し、抹消決定された犯人(犯神?)の神力を根こそぎ注ぎ込んで回復させたのだが、既にして決壊していた『命の器』を癒す事は出来ず、何とか繋ぎとめる事が出来たのが一年と言う余命。


 本来の寿命に関しては規則だからと教えてはくれなかったが、それでもこの歳で死ぬのは余りにも早過ぎるらしく、原因が神の側にあると言う事も含めて、世界の理への影響が大き過ぎると言う。

 

 かと言って、既に破壊された命の器を回復する事も出来ないので、地球と言う世界では既に俺の死は決定されてしまっていて覆せない。


 ならばどうするか、と言う事で何とか捻り出したのが『地球とは違う世界に魂を送り、健常な命の器を持つ新たな肉体に宿らせる事で新たな人生を全うさせる』事であるらしい。

 

 だったらまたゼロ歳児からスタートかと言うと決してそうではなく、死ぬ時点での俺の肉体を魂が離れた段階で一度神界に回収、新たな『命の器』を与えた後で再び魂を定着させて世界を移動させる、と言う結構な手順を踏む様で


『貴方の感覚で言えば、転生ではなく転移だと思って貰って良いと思いますよ? そこまでの過程で苦労するとすればそれは私達神々ですし、貴方の意識ではこちらで目を閉じた後、再び目を開けたら異世界に居た、位だと思いますから』


 と言って苦笑された。


 ま、そうであるなら話は解り易い。


 そう言って苦笑する俺に、目の前の女神は少し表情を緩める。

 と、この女神様、実はミスをした犯人(犯神?)とは何ら関係がある訳でもなく、ただ単に彼女以外に対処可能な神が居ない為に彼女が此処に立つ事になったのだそうだ。


 思いっきり貧乏くじを引かされた、とも言える。


 まぁ、俺にとって気楽だったのは、俺の転生やら何やらに消費されるのは、ミスした神の神力らしく、 自分は悪くもないのに頭まで下げてくれている彼女の神力を消費させる事にはならない、と言う事かな。


 俺がそう言うと、彼女は驚いた後、深々と頭を下げてきてちょっと困ったものの、何とか頭を上げてもらって話を進める。


「一年後、貴方が異世界に渡るのはもう決まってしまっていますが、その際には消滅罰を受けた神の神力の一部を貴方に託す事になっています」


 おおぅ、それって所謂『神様チート』?

 完全に異世界召喚物の鉄板来たな、オイ。

 

「その内容ですが・・・・」


「マジですか!?」


 うん、聞いて驚いたよ。

 直接的に『俺TUEEEE!』は出来ないにせよ、結構なチートだ。

 それに、在り来たりな『俺TUEEEEE!』能力よりは、こっちの方がよっぽど楽しそうだと俺は思う。


 だったら、俺がやる事は――



 最後まで申し訳なさそうにしていた女神さんと別れ、現実世界で目を覚ました俺は、軽く背伸びすると、気合を入れた。


「うっし! 残り時間一年! いっちょ準備と行きますか!」

 

 視界の隅には、残りの寿命を示すカウントダウン。

 こっちの世界に残るだろう悔いを少しでも減らす為、アッチの世界に行ってから出来るだけ楽しく、安全に過ごせる様にやれるだけの事はやっておこう。


「取りあえずは・・・生命保険の書き換えからかね」


 事故か何かで急死でもしない限り、俺が両親や妹より早く死ぬのは確実なんだし、両親の今後と、僅かでも妹の将来に役立つ事を祈って、異世界の準備に必要な額以外は全部渡せる様に書き換えてしまおう。

 

そう考えながら、俺は顔を洗いにベッドを抜け出した。


9/2 樹の年齢を23から25に訂正しました。


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