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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファイティングケロ介・怒りの焼き鳥編

作者: 水島緑

無茶振りに応えた結果がこれだよ!

やっつけかつ適当なんでささっと流してくださいね!


憎しみの唐揚げ編とかには続きません。

 年若い蛙族のケロ介には、まだ尻尾が生えていました。


 子供の証である尻尾の通り、ケロ介は無鉄砲でやんちゃ、しかし家族を大切にする優しさを持っています。


 そんなケロ介には、一人の妹がいます。名前はケコ実、まだまだ小さなオタマジャクシです。兄妹の仲は大変よろしく、舌足らずに喋るケコ実のそばにはいつもケロ介の姿がありました。


 いつも通り、川辺でケコ実と遊んでいたケロ介は、ふと輝く物を水の中に見つけました。いまはまだ上手く泳げないケコ実の体を支えながら、顔だけを水中に入れてみると、なんと飴玉のようにまん丸な、透き通る石が転がっているではありませんか。ケロ介は器用に足でそれを拾い上げると、ケコ実に見せびらかしました。


「けろけろ。みてみろケコ実! 綺麗だろ!」


「けこけこ。わぁ、すごいねおにぃ! きらきらしてるよ、きらきら!」


「けろけろ。へへっ、すごいだろ? よし、これはケコ実にやるよ! 大事にするんだぞ?」


「けこけこ。いいの!? わぁい、おにぃ大好き!」


 ケコ実の小さな手に透明な飴玉を渡そうとしたそのときでした。なんと空から何かがものすごい勢いで水面を叩いたのです。激しい水飛沫に思わず目を瞑ったケロ介は、しっかりと支えていたはずのケコ実の体がなくなっていたことに気づいて、慌てて目を開けました。ですが、ケコ実の姿はありません。


「…………けてぇ! ……にぃ、たすけ……!」


 遠くに、ケコ実の悲鳴が聞こえて、ケロ介は空を見上げました。


「ケコ実ぃぃぃぃっ!」


 なんということでしょう。ケコ実は凶暴な鳥族に攫われてしまったのです。


 悠々と空を飛ぶ鳥族に向かって、自慢の舌を伸ばして捕まえようとしたものの、まったく届くことなくケコ実は連れ去られてしまいました。


 このとき、ケロ介は決めました。


 すべての鳥族を焼き鳥にして、ケコ実を助けようと。




 それから三日間、一睡もせずに鍛錬に励んだケロ介の顔は、精悍な男のそれに変化していました。本人は気づいていませんが、子供の証である尻尾も少し縮んでいます。


 両親には内緒の旅立ちです。袋に食料を詰め込み、少しだけ眠るとケロ介は誰にも何も言わないまま、村を飛び出していきました。まだまだ子供のケロ介は、家族に心配を掛けたくない気持ちだけが先走ってしまったのです。鍛錬していた三日間、ケコ実も帰ってこないこともあいまって、ケロ介の両親は泣いてしまうほど心配していたのですが、ケロ介は気づくことがありませんでした。


 村を出て数日。食料を節約しながらひたすらにぴょこぴょこと跳ねて鳥族の村を目指すケロ介は、遥か遠くに見える霊峰ハゲタカを睨みつけました。


「けろけろ。必ずにいちゃんが助けにいくからな……」


 そんなときでした。


「こけーこっこー。旨そうな蛙だ! きめたぞきめたぞ、今日の夕食は蛙にきーめーたー!」


 真っ赤なトサカを揺らしながら現れたのは、鳥族のニワトリ吉でした。舌なめずりをするニワトリ吉を一瞥したケロ介は、おもむろに近づいていきます。


「こけけー! 自分から喰われにくるとはおかしなやつだなぁ。食べられたいというなら食べてちゃうぞ! バターと砂糖を……えっと、刷り込む?」


 どこからか取り出したバターと砂糖を持って悩んでいるニワトリ吉の足元へ辿り着いたケロ介は、口をもごもごと動かしたあと、勢いよく何かを吐き出しました。


 それは、ケロ介の舌でした。


 とんでもない速度で射出された伸縮自在の舌は、ニワトリ吉の胸をやすやすと貫くと、背中まで突き抜けてしまいます。


 崩れ落ちるニワトリ吉に向かって血を吐き捨てるとケロ介はまた跳ねていきます。


「マズイ血だぜ……」


 ハードボイルドに決めたケロ介はふと思い出して、ニワトリ吉が持っていたバターと砂糖を食料袋に詰め込みました。


 わりとかつかつだったのです。




 霊峰ハゲタカの中腹、そこには傷だらけになったケロ介が体を木の根に預けていました。


 度重なる鳥族の襲撃と、ここまでの長旅ですっかり疲れ果ててしまったケロ介は、やむおえずに敵地で休むことにしたのです。


 そんなケロ介の頭上、高い木の枝に止まった鳥族首領の大鷲、ハネ男が配下の鳥たちに指示を出していました。


「いいか、お前たち。ここまで攻め込んできた蛙は俺たちのようには飛べない。だから上から攻めるんだ、強襲一撃離脱作戦だ」


「うっす、了解っす」


「よし、まずは高く飛ぶ。そしたら一気に急降下してあの蛙を突っついてやれ。食える奴は食ってもいい」


「うっひょー! ボスのお許しが出たぞ!」


「うひー! ぼくちゃんが食べちゃうもんね!」


「まてまて、お前たち、作戦を覚えているか?」


「さくせん?」


「なんすか?」


「まったく、もう一度説明するぞ。高く飛んで急降下、蛙を攻撃したらまた高く飛んであの厄介な舌が届かない場所に退避するんだ。強襲一撃離脱作戦だ、いいな?」


「うっす、高く飛んで、攻撃して、高く飛ぶんすね!」


「きょーしゅーいちげきりだつっすね!」


「そうだ、よく覚えたな。えらいぞ。よし、それでは作戦開始だ。まずは飛ぶぞ。ついてこい」


「うっす!」


「今日は散歩みたいっすね! ぼくちん散歩だいすきっすよ!」


「ああもう! なんでおまえらはそんなにアホなんだ! もういい、帰ってろ!」


 鳥族は基本的に鳥頭です。


 ハネ男の配下たちが帰っていく中、本物の狩人であるハネ男は、上空まで飛び上がると、一筋の雷のように垂直に落ちていきます。嘴がケロ介をつつく直前、かっと目を見開いたケロ介が咄嗟に舌を吐き出すと、ハネ男の頭頂部をかすりその衝撃でハネ男の軌道がずれて地面に突き刺さりました。


「なんだ、ハゲワシか」


「鷲だよ鷲! おまえのせいでハゲたんだよおおおおお!」


 そして、ケロ介は嘴が抜けないハネ男ならぬハゲ男の周りに木をくべて、いままでと同じように焼き鳥にしてしまいました。


 ハゲたことがよほどショックだったのでしょう。抵抗はありませんでした。




「けこけこ。おにぃ!」


「ケコ実っ!」


 鳥族の村を襲撃し、残らず焼き鳥にしたケロ介はようやくケコ実を見つけ出しました。


 仲良く手を繋いで村に帰る二人の背後では、焼き鳥の香ばしい匂いが漂っていました。




 かえるは村にかえる。

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― 新着の感想 ―
[一言] > ラストの一文 「ほう……?」 「ふむ」 「ほう……」  届け言葉にならないこの気持ち!
[一言] ……なんだこれは……。 面白かったけど。 なんだろう、この気持ちは……、もやもや?
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