交換屋
またお母さんに怒られる……。
算数のテストで13点だよ。
またクラスで1番下だ。
何でこんなに僕は馬鹿なんだろう。家に帰りたくない。先生がもしかしたら僕の家に電話しているかもしれない。あなたのお子さんは手におえませんーーてさぁ。運動もあまりできないし、顔も良い方ではない。僕はいったい何の才能があるのだろう。人間には最低1つの才能はあるっていうけどあれはウソだーー。あぁ、僕のこの0に近い才能と何でも良いからレベルの高い才能……交換できたら良いのに……。僕はそう思いながら大都会をぶらぶら歩いてた。 何だこの建物……。こんな建物……あったっけ……?僕の目の前には大きなビルに囲まれた、小さな建物があった。さびれた看板には『交換屋』と黒く太い字で書かれついる。木で造られたその『交換屋』は、沢山のビルが並ぶこの都会では逆に妙に目だっている。
僕は吸い込まれるように交換屋の中へ入っていった。 中は薄暗く、はじには僕は知らないような機械が沢山ある。椅子が1つ機械の1つの前に置かれていてコンセントがごちゃごちゃしている。真ん中にはテーブル1つと椅子2つがある。その椅子の1つに80才くらいのお婆さんが座っている。お婆さんはテーブルに置かれたパソコンをカチカチと音をたて何やら打っている。
「いらっしゃい」
お婆さんは低い声を出した。僕はブルブルっと一瞬震えた。
「こっ今日は」
僕は何とか声を出した。
「まぁ、そこに座りな」
「はい」
僕はそっと椅子に座った。
「ちょっと、そこで待ってな」
お婆さんはゆっくりと立ってとぼとぼと奥へはいっていった。僕は1人になった。なんだか怖い。これだったらさっさと帰った方が良かった。お婆さんが奥から出てきた。何やら何かが乗ったおぼんを持ってきた。
「痛っ」
お婆さんはごんと音をたてておぼんをテーブルに置いた。おぼんには麦茶と氷の入ったコップが2つと袋に入った茶色いおまんじゅうが2つのっていた。
「腰が悪くってな。悪いね。さっ食べな」
お婆さんは腰の当たりを叩きながら椅子にノロノロと座った。
「ありがとうございます」
僕はそう言ってコップを手に取った。
「お客さん、ここ来たことあるかい?」
僕は麦茶をごくりとのみ
「初めてです」
と言った。
「ランドセル床にでも置きな、重たいだろ」
僕はランドセルを床へ置いた。大分背中が軽くなった。
「じゃあ、この店の説明をするよ」僕はコップをテーブルに置いた。
「ここはね、世界中の人と何でも交換出来る場所だよ」
「世界中の人とですか……?」
「そうさ。大阪みたいな国内はもちろん、イギリス、アメリカ、フィリピン……外国でも良い。まぁ、交換屋に来たことがあって相手が交換を許可した場合に限るがな」
僕は袋に入ったまんじゅうをとった。そして袋を開けて口にいれると渋い甘さが口に広がった。
「そして交換。何でも出来る。鉛筆や消しゴム、そういった物質ももちろん、才能、知識、年、健康、何でもだ」
僕は思わずうごかしていた口を止めた。
「面白いだろ?お客さん、ここに来たってことは何かを交換したいんだろ?」
「……まぁ……」
「ちなみにここにはこの店を相当求める者しか来ない。最初は無料で交換出来るがー2回目からは物質ならそんなに高くないのだがー才能みたいのなら高額になるんだよ。お客さんには払えないだろうね。よく考えた方が良い」
僕はもう決めていた。何かの才能を交換するとー……。でも、その何かが難しいんだ。サッカーの才能?いや、スポーツではなく音楽でせめてバイオリンの才能?絵の才能も悪くない。それかいっそ才能ではなく知識にしようかなーー?いやー、よく考えないと!何ができたら女の子にモテるのかーー?そうだ!歌だ!
「歌の才能でお願いします!歌の才能のある人と」
「わかった。それで良いんだな?」
「はい」
僕は大きく頷いた。するとお婆さんはもうスピードでパソコンを打ちはじめた。
「でたぞ」
「でたって?」
「名簿だよ。」
そしてお婆さんは僕の正面にパソコンの画面を持って来た。
オペラの男性ーー。オペラは僕の趣味ではない。演歌の歌手。演歌も悪いが僕の趣味ではない……。お!人気歌手のがあるではないか。
「この人のでお願いします」
「わかった」
お婆さんはまたすごいスピードでうちはじめた。「では、また相手の都合が良い日が分かったら連絡する。同時に行わなくてはならないのでな」
「わかりました」
「では、これを記入してくれ」
それは氏名 名前、電話番号、住所、生年月日、職業、交換するものと書かれた紙った。僕はそれを記入した。
「では、今日はここら辺で……」
僕は店を出た。後ろを振り向くとそこはただの草が無造作に生えている空き地だった。
いったいあれは何だったのだろう……?本当にお婆さんから連絡は来るのだろか。そんなことを考えているうちに3日の月日が流れた。
「剛ー」
母の声だ。僕はその時、僕の部屋でゲームをしていた。面倒くさいと思いながらもノロノロと体を立たせ、部屋から出た。
「何ー?」
「ねぇ、変な電話なのよ」
「……変な電話……?」
僕は首をかしげた。
「何かー。声的にお婆さんみたいなんだけどー『交換屋』って名のってて」
交換屋はやっぱりあったんだ。
「電話貸して」
僕はお母さんの手にあった電話をするりととった。
「ちょっと剛ー」
僕はさっと部屋に入った。
「もしもしーー」
「もしもし……剛君か?」
「はい」
「相手の都合がわかった……何でも忙しいらしく今週の水曜、午後5時が唯一空いてるらしい。来れるか」
「大丈夫です」
「では……また水曜日に来てくれ。では」
そう言ってお婆さんは電話を切った。来週の水曜になれば僕は天才になれる! 水曜日にようやくなった。こういう楽しみがある時は何故か時間を長く感じる。
僕は約束の時間の30分も前に例の場所に建っていた。交換屋はしっかりと存在していた。中に入ると前と同じ景色が広がっていた。
「早かったな」
「まぁ……」
「ちょっと待ってろ」
お婆さんはまた皆の奥へと入っていった。そして直ぐあののおぼんにまた何かを乗せて出てきてた。乗ってたのは麦茶と氷のはいったコップと皿にねったようかんとようじがのっていた。おばあさんはそっとおぼんをテーブルにのせノロノロと椅子に座った。
「まぁ、食べな」
「いただきます」
お婆さんはパソコンを打ち、僕はようかんを食べ始めた。
ゆっくりと時は流れ5時になった。
「さて、始めるか……」
「あの、相手の人来てないんですけど……」
「大丈夫だ。世界中に『交換屋』は沢山ある。そのどれかにいれば交換はできるからな」
「……そうなんですか……」
お婆さんは椅子を指差し
「あそこに座って来れ」
と言った。僕が座るとお婆さん何やらパソコンをまた打ち初め打つのをやめると
「相手の準備も出来ているようだ」
と言った。そして機械と繋がっているホースの先に吸盤みたいなのがついたものを床からとり吸盤の部分を僕のでこに付けた。今度はお婆さんは機械のボタンを何やら押し
「いくぞ」
と言った。
「あぁ……はい……」
お婆さんが赤いボタンを押すとガーッと機械が唸り初めて振動が吸盤を伝ってきた。何だか眠くなってきた。
「終わったぞ」
何だか頭が重い。いつの間にか寝てしまったみたいだ。
「ありがとうございます」
「気にするな。また何かあったら来るが良い……。まぁ、2回目からは金額がかかるからな」
僕は店を出た。後ろを振り向くとまた空き地になってて辺りは暗くなっていた。 僕は家に帰ると直ぐに歌ってみることにした。前とは明らかにレベルが違う!才能はしっかりと交換されていたんだ。バタンという音をたててお姉ちゃんが入ってきた。
「アンタ才能あるんじゃない?」
「そ……そんなことないよ」
褒められた僕は思わずニヤニヤしてしまった。
学校の音楽の時間ー…。この歌の才能のおかげで皆の注目の的となった。
「剛君すごーい」
「かっこいいー」
「絶対才能あるよぉ」
おかげで女の子からはモテモテ!作戦大成功だ。
「剛君。貴方はオーディションを受けてみるべきよ」
と先生から言われる程だった。やっぱ有名歌手の才能は違う!
その後、オーディションを受けることを家族に相談するともちろん良いとのことだ。音楽の先生にオーディションを受けることにしたと報告をした。
その後……地獄が待ってるとも知らずに…… 「正しい選択だわ。貴方はオーディションを受けるべきだもの。先生、貴方の練習をみてあげる」
「はぃ?」
僕は首を傾げた。
「だって教え子がオーディションに受かったら教師として鼻が高いもの。それに貴方には是非受かって欲しいもの」
「練習……しなきゃ受かりませんか?」
「当たり前でしょ!じゃあ明日からで良いから、放課後みっちしやりましょ」
僕は唖然とした。あの有名歌手はプロだ。小学生が出るようなオーディションにあの人の才能があるのだから練習しなくとも落ちる訳がない……。
その日、またあの場所へ僕は行った。そこにはあの『交換屋』があった。僕は中へ入った。
「どうした……?」
「どうしたもこうもないですよ!何で才能があるのに練習しなきゃいけないんですか!ちゃんと才能は交換してくれたんですよねぇ?」
「したとも」
「じゃあなんでですか!?大人の歌手のなら、小学生がでるようなオーディションくらい練習しなくても良いじゃないですか?」
「わかっとらんな。まぁ、座れ。ちょいと待ってな」
お婆さんはまたいつものようにお菓子と麦茶を持って来た。
「わかってないってどういうことですか……!?」
お婆さんは麦茶1口飲んだ。
「まぁ、きけ。いくら才能はあっても、努力しないと良いものは仕上がらないんだよ」
「あの有名歌手は努力した。それが僕に与えられたんではないんですか?」
「ワハハハハッ」
お婆さんはいきなり大笑いした。
「何がおかしいんですか?」
「悪いな。お前が言ってることは間違ってる」
お婆さんはまたごくりと麦茶を飲んだ。
「えっ?」
「お前に与えたのは歌の才能だよ。その有名歌手の歌声などを与えはけではない。だから有名歌手の努力は関係ないわけだよ」
しばらく沈黙が続いた。
「ひどいよ」
「何がだ?私は言ったはずだ。よく考えろとな」
「その……歌声とかも交換出来たんですか」
「もちろんさ。ここでは何でも交換出来るからな」
僕は地面を見つめた。
「お前が努力する気がないのなら、声にしろ才能にしろ同じことだ」
「はぃ?」
僕は顔をあげた。
「レベルを上げるのも大変だがそのレベルを維持するのも大変なのさ。大物ってのは努力してんだよ。お客さん、その才能無駄にするなよ。さぁ、今日はそれを食べたら帰りな」 その後、僕は結局放課後先生と練習をし、さらに家でも練習をしてオーディションに合格することができた。
その時の喜びは今までに経験したことのない程の大きさだった。
でも、その後練習量はさらに求められるようなった。僕は出来る限りの練習をした。そして3年後に見事CDを発売した。しかし、最初は売れなかったんだ。ようやく100位に入ったのはその7年後。その時僕は涙がとまらなかった。でもここは終わりじゃない。僕は歌い続ける。そしていつか1位になる。僕はまだまだ歌い続ける。