ギルド
とりあえず世紀末な街からは逃げることにしたシロウとミリィ。
次についた街は比較的平和な様子だった。もちろん、ミリィがこのゲームの開発者と分かれば、どうなるかはわからないが。
一安心した二人は、空腹を感じた。ゲームの中とはいえ、こういうのはリアルにできているらしい。シロウもミリィも見かけた酒場に入って、適当な料理を注文して今後のことについて話す。
「そういえばおかしいですね。」
ミリィがパスタを口に入れながら首をかしげる。
「何がだ?」
「僕が開発者ってことは、シロウさんにしか話してないんです。なのに、あの人たち開発者がゲームの中にいるって暴れてたじゃないですか。」
「そうなのか。俺はてっきり誰にでも話してまわったのかと。じゃあ、あいつらが言ってたのは、お前のことじゃなくてまた別の奴のことかもしれないな。」
「ばれて追いかけまわされるなんて間抜けなやつですね。あはは。」
「お前がいうな。」
苦々しい顔で鶏肉のスープをすするシロウ。警察にでも冒険者にでも突き出してやりたい気分だが、共犯者にみなされる可能性がある現状そういうわけにもいかない。
「とりあえずこのゲームの中で過ごして、オーガン社がプログラムを修正するまで待つのはだめなのか?」
オーガン社がログアウトできるように改変されたプログラムを直してくれたら、問題は全て解決する。もしかしたら魔王を倒すより早くすむかもしれない。
「うーん、サービス開始前に主だったプログラマーは全員逃げましたしね。ネットの掲示板を使ってブラック企業だって広めてやったから、そうそう人も来ないだろうし、誰も修正できないんじゃないですか?」
「お前らがやったあらゆる行動で、ことごとく俺たちが被害をこうむってるんだけど、罪悪感とか湧かないのかなぁ!なあ!」
「やだなぁ、僕たち運命共同体じゃないですか。そんな遠慮いりませんよ。」
「その台詞は遠慮されるべき人間が言う事で、遠慮すべき人間が言う事じゃない!」
しかし、文句をいっても仕方がないのも事実だった。こいつに文句を言うのが無駄だとわかりはじめてきたことも含め。
シロウは話を元に戻す。
「それじゃあ、魔王を倒すしかないわけか…。」
「そうですね。そのためにはまずレベル上げですね。」
「冒険者ギルドに入ってクエストでも受けてみるか?」
シロウはそう言って、酒場と隣接している冒険者ギルドのカウンターを見る。このゲームにもギルドが存在し、依頼を受けて解決すればお金がもらえる仕組みだ。
「ああ、やめたほうがいいですよ。ここの冒険者ギルドにはいると報酬の8割がぴんはねされますから。誰もやらない面倒くさい依頼をたくさん押しつけられて、ろくに休みもとれませんし、休日にも集会やなんやらと呼び出されます。福利厚生は最悪ですし、失敗したら罰金とられたりします。まさにブラック企業です。」
「なんでそんなところ、無駄に作り込んでやがる…。」
改めて聞くこのゲームの酷い仕様に、シロウは頭痛を感じ頭を手で押さえる。
冒険者ギルドのカウンターでは、若い男のプレイヤーが美人の受付に笑顔で応対され、少し顔を紅く染めながら羊皮紙に言われたとおりにサインしていく。
「ちなみにあの受付のAIはいま『今日もカモが来たわ。冒険者なんてちょろい奴らばかりね。』と考えてます。」
ずるずるとパスタをすすりながら言うミリィ。
「俺はもうこのゲームが何のために作られたかすらわかんねぇよ…。」
シロウの暗澹たる呟きとは対照的に、パスタを食べ終えたミリィは満足そうに口元を拭った。
***
とりあえずモンスターを倒してレベル上げをすることにした。
相手は引き続きゴブリン。ただちょっとレベルが上がって少し手ごわくなっているので一匹一匹、確実に倒していく。HPが減ったら座って体力を回復する
適正レベルなこともあり、狩りは順調だったのだが。
「あのー、僕ひまですけどー。」
しばらくしてミリィが口をとがらしてそう言いだした。後衛職なので火力はぜんぜんなく、防御力も低い。おまけに回復魔法は危険物なので、ぶっちゃけ役にたたない。
「大人しくしてろ。」
「ええー。」
なによりこいつが動くことがシロウにとてつもない不安を与える。
ミリィはシロウの返答にぷくーっと頬をふくらませて不満げな声をあげる。
「じゃあ、敵に回復魔法でもかけて倒せ。」
爆発すりゃ倒せるだろ、そう思ったシロウはミリィにそれだけ言って、次の獲物に切りかかる。
シロウの攻撃、ゴブリンに30のダメージを与えた。
ゴブリンの攻撃、シロウは12のダメージを受けた。
ミリィはゴブリンにヒールを唱えた。ゴブリンは45回復した。
シロウの攻撃、ゴブリンに32のダメージを与えた。
ゴブリンの攻撃、シロウは9のダメージを受けた。
ミリィはゴブリンにヒールを唱えた。ゴブリンは45回復した。
シロウの攻撃、ゴブリンに会心の一撃、60のダメージを与えた。
ミリはゴブリンにハイパーヒールを唱えた。ゴブリンは100回復した。
ゴブリンの攻撃、シロウは14のダメージを受けた。
シロウのこうげ
「おいいっ!」
「え、どうしました?」
「どうしたじゃないだろ!なんで俺が攻撃している敵の回復してるんだ!」
「いやぁ、なかなか爆発しなくて。困りましたね。」
「わざわざ俺が殴ってる奴に何故ヒールを使う!しかも、最後の方、ちょっと悪意あったよな!」
「はっはっは、まっさかー。シロウさん、もっと人を信じましょうよ。面白いからシロウさんの足をちょっと引っ張ってみようとか僕が考えたりするわけないじゃないですかぁ。」
「本音まるわかりだよ、畜生。やっぱ面白半分か!」
シロウは頭を掻き毟る。
(落ち着くんだ、俺!俺はPKになる気なんてない。そう人間どんなに辛いことがあっても、失っちゃいけないものがある。落ち着くんだ。人という字を書いて飲みこむんだ。)
ゴブリンに殴られたまま、人という字を書いて飲むシロウ。それを楽しそうに見つめるミリィ。
「頼むから大人しくしてろ。ヒールかけるなら俺が戦って奴にしろ。俺が倒してもレベル上がるんだから。」
「ちぇっ…。はぁーい、わかりましたよー。」
そのままゴブリンに殴られながら、ミリィに含めるように言い聞かせたシロウはゴブリンとの戦いに戻る。
なんとか聞き入れてくれたようで、ミリィは座ったり寝転んだり、思い出したようにあたりをうろつくゴブリンにヒールをかけたりで、シロウの邪魔をすることは無くなった。
その姿を横目で見てほっとしたシロウは、再び狩りに没頭しようとした。
しかし、何やらさびしそうにしている様子が、ちらちらと目に入る。
(俺は悪くない…。悪くないぞ…。)
何故か罪悪感がちくちくと湧いてくる。
結局。
「おい。」
「なんですぅ…。」
シロウは体操座りのまま見上げてくるミリィに、ゴブリンの落としたハンマーを渡して言った。
「敵のHPが半分になったら一緒に叩け。そしたら少しは早くなるだろ。」
ミリィは渡されたハンマーを見てぱちくりとしたが、シロウの言った言葉を認識すると嬉しそうに立ち上がった。
そうして二人は協力して、ゴブリンを狩りはじめた。
「シロウさんがピンチになったらヒールもかけますよ!」
「それはいらん!」