初めての戦い
「あ、僕、朝霧コウタっていいます。気軽にミリィって呼んでくださいね。」
なぜかそのまま『狡賢いゴブリン』を二人で倒しにいくことになったシロウに、少女が自己紹介をする。
本名とミリィどっちで呼ぶか迷ったシロウだが、精神衛生上のさまざまな都合を考慮した結果ミリィと呼ぶことに決めた。コウタというどう考えても男な名前は頭の中から消去する。
「それでミリィ、ログアウトできないのはどういうことなんだ?まさかこのゲームに閉じ込めてずっと嫌がらせしようってんじゃないだろうな…。」
ミリィが作ったという街で3時間さまよわされ続けたシロウは、本当に勘弁してほしいと思った。
「ログアウトできない?」
そう言ったシロウに、ミリィは首をかしげる。そして何かメニューを操作する動作を見せると、大きな目をさらに丸くして驚いた。
「あ、本当だ。」
その反応に今度はシロウが焦る。
「おいおい!開発者のあんたでもわかんないのかよ。」
開発者なら何か理由を知っていると思ったが、あてが外れて一気に不安が増す。かなりやばい異常事態なのではないだろうか。開発者も予想がつかなかったということは…。
まさか…デスゲーム…?
ミリィは顎に手を当てて真剣な顔で考え出す。そして何かを思い出し、緑の目を光らせていった。
「そういえば接続システム担当の佐川が、『残業続きのせいで5年間付き合ってた彼女にふられた、こんな会社絶対潰してやる!』と凄い形相でもう完成していたはずのデバイスプログラムをいじってましたね。『もう誰がどうなろうと関係ねえ!こんなゲームをプレイするプレイヤーどもも酷い目に会えばいい!』とかいってましたけど。もしかしたら、そこに何らかのヒントが隠されてるのかもしれません。」
「それが原因そのものだろおおおおおお!会社を恨んでの犯行だよおおおお!ていうか、誰か止めろよおおおお!」
「あはは、だって僕ら徹夜続きでしたもん。仮眠時間は無駄にしたくなかったですし、ちょっとうるさかったので、みんな耳栓して寝ましたよ。」
「誰か良識とか常識もった奴はいなかったのかよおおおお!」
そうしてVRMMOに閉じ込められたシロウは、絶望の叫び声をあげた。
***
何か脱出する方法がないのか、と聞くシロウにミリィは答えた。
「うーん、どういう風にプログラムが改変されたかわからないですけど、こちらからはもういじれませんし、できることといえば魔王を倒してゲーム自体のエンディングを迎えるしかないですね。」
「魔王か。強そうだなぁ。」
「それほど強いってわけでもないですよ。ただ最初の攻撃で、全体のパーティーのHPが1になって治療不能の猛毒にかかります。」
「それほぼ詰んでるだろ!?死亡確定してるだろう!」
「あはは、大丈夫です。ちゃんと防ぐアイテムありますから。普通にやってたら手に入りませんし、持ってなかったら全滅、全装備ロストでデスペナ10倍ですけどね。」
「どんだけプレイヤーを憎んでるんだ!?俺たち別に恨まれるようなことしてないよね。」
「はははー、やだなぁ。広報課課長に好きだった受付の娘を取られた斉藤が、広報課がβテストで魔王早倒し企画すると聞いてちょっと必殺技を付け加えただけです。別にプレイヤーのみなさんを恨んでなんていなかったと思いますよ。ただ恋やぶれた一人の男の悲しみがそこにたゆたっているだけ。切ないなぁ。」
「内部のごたごたにプレイヤーを巻き込むのやめろ!切なくなんかないから!そんなものオンランゲームにたゆたわせなくていいから!」
どこか遠くの空を見上げて、切ない表情をするミリィに、シロウが抗議の悲鳴をあげる。
「あ、そろそろ見えてきましたよ。」
シェリーが指を差した方をみると、そこに一匹のゴブリンがいた。オレンジ色のネームで、『狡賢いゴブリン』と表示されてる。
「何か注意する点とかあるか?」
そう聞くシロウにシェリーは答える。
「特に何もありませんよ。普通の戦闘AIです。」
「そっか。」
それを聞きホッとする。
「本当は瀕死になって逃げるふりをして、プレイヤーを格上のモンスターの巣に引き込んだあと、ぼこられまくるプレイヤーにさんざん罵詈雑言あびせかけて、おしりぺんぺんして止めだけ刺して笑って去っていくAIにしたかったんですけど、山田がそんなの作るのめんどくさいって言いやがって。」
「山田さんありがとう!」
山田さんに最上の感謝の気持ちを抱きながら、シロウは『狡賢いゴブリン』に切りかかった。
ファイターを選択したシロウは『狡賢いゴブリン』に剣を振って攻撃をあてていく。敵はさほど強くなく、こちらも何度か攻撃を食らいながらも、『狡賢いゴブリン』を倒すことが出来た。
ぴろろーんと経験値とお金、クエストをクリアしたというメッセージが浮かんでくる。
「ふう、なんとかなった。」
シロウは汗をぬぐい、一息つく。さほど強くはなかったと言っても、クエスト用のモンスターの上にシロウはほとんど初期レベル。HPは半分ほど削られて黄色くなっていた。
「HP回復しなきゃな。」
一応ヒーラーのはずのミリィだが回復魔法をとなえる気配もないので、シロウはいろいろ諦めてバッグの中らから赤い回復ポーションを取り出す。
そしてそれを使用した。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
轟音がはじけ、辺りに強い光があふれる、体をすさまじい衝撃が襲い、そのまま吹き飛ばされる。
そして光が消えたころ、ほとんど1ミリしか残ってない自分の真っ赤なHPバーがあった。
「なに…これ…。」
「ああ、HP回復ポーションって5%の確率で爆発するんですよね。」
「どういう仕様なんだよ、それは!」
「いやぁ、ここは僕の担当じゃないからよくわからなくて。」
「もういいから、回復魔法かけて!」
「いいんですか?ヒーラーの回復魔法は10%の確率で爆発しますけど。」
「なんで確率あがってんの!?」
「ちなみに最上級回復魔法となると90%の確率で爆発します。」
「それはもう回復魔法とはまったく別の存在だよね!」
次に爆発したら確実に死ぬ。
シロウは地面に座って自然回復を高め、なんとかHPを8割までに戻す。
「それじゃあ、このまま次の街までいっちゃいましょう。」
「ああ…。」
笑顔でそういうミリィ精神的な疲れのため何か言う気も起らず、頷きその後ろをついていく。そしてたどり着いた次の街。
「このゲームに開発者がログインしているらしいぞおおおお!」
「さがしてぶっころせええええええええ!」
「ふざけんなよこんなくそげーやらせやがってええええええ!」
そこには何か世紀末を感じさせる街の姿があった。最初にいた街と違い、たくさんのプレイヤーがいたのだが、みんな荒んだ目をして武器を振り回しながら、おたけびをあげている。
その姿にシロウもミリィも固まる。
硬直から立ち直ったミリィは、シロウの胸元に顔寄せ、上目遣いでウインクしていった。
「僕が開発者ってことは秘密にしてくださいね。」
次の瞬間。
「開発者の仲間がいたらそいつもついでにぶっころせええええええええ!」
ドオオオン
飛んできた何かが、道具屋の看板に当たり店が爆発、炎上する。そして狂ったように武器を振り回す、世紀末なプレイヤーたち。
「………。」
そちらに思わず目がいって、ミリィへの返答が遅れる。すると、ミリィの方が続けて言葉をつなぐ。
「ちなみにシステムプログラマーがデスマーチの途中で逃げたせいで、パーティーは一度組むと解消できない不具合が残ったままなんです。」
可愛い顔にいたずらっぽい笑顔を浮かべて言うミリィ。
「殺せ!殺せ!殺せー!」
響く掛け声。
「そうか…わかった…。」
ミリィの告げた新事実に絞り出す声で頷くシロウ。
「そうですかー。よかった~。ひとりで冒険するのは心細かったんですけど、シロウさんがいるなら安心です。これからよろしくお願いしますね♪」
「ああ…わかった……。」
あくまで可愛らしい表情であいさつするミリィに、シロウはVRMMOの中の澄み切った青空をみあげる。
(ああ、綺麗だ…。なのにこんなに心が暗いのは何故だろう。)
「それじゃあ、僕たちの身の安全のためにも、はやめに魔王を倒してこのゲームを脱出しましょう~。」
そんなシロウとは真逆の表情で、ミリィはシロウの手を引いて歩き出す。
こうしてシロウとミリィ、二人の魔王を倒すための冒険が始まった。




