美女で野獣
今夜は王宮での夜会。しかし着飾った王太子は、婚約者である公爵令嬢をエスコートしていない。
彼の側にすがるのは聖女。周囲の貴族たちは何ごとかとざわめく。
公爵令嬢は蒼白な顔で2人と向かい合っていた。
王太子は婚約者の令嬢をにらみつけて口を開く。
「お前は聖女に暴言を吐き、教科書を破り、階段から突き落とそうとしたそうだな」
周りの貴族はザワッとした。
聖女の祈りで構築される結界は、この国の防衛のかなめだ。
その聖女に害をなそうとするなんて、高位貴族ではありえない所業。
衆人の注目を集めた美しき公爵令嬢は、目に涙を浮かべながら反論した。
「誤解です! そんなこと、おこなっておりませんわ」
たしかに、王族が気に入らない婚約者に冤罪を着せることもなくはない。
悲しむ公爵令嬢は言葉を絶する美しさで、嘘を言っているようには見えなかった。
公爵令嬢と王太子、どちらを信じるべきか貴族たちが悩みだした最中、公爵令嬢は弁明を続ける。
「わたくしはただ聖女様に毒を盛っただけですのに!」
「え?」
王太子と聖女とその他大勢の目が丸くなる。
「聖女様には何回毒を盛っても聖なる力で解毒されてしまったので、嫌がらせにもなりませんでした‥」
「じゃ、じゃあ最近お腹の調子が悪かったのは‥」
聖女が胃の当たりを押さえている。
「わたくしが盛ったヒ素とか青酸カリとかのせいでしょうね」
みんな思った。聖女すげって。
「それにまだ暗殺者の仕事だって済んでいないはずなのに、なぜわたくしが断罪されなくてはいけませんの!」
公爵令嬢の暴露に、王宮の広間は静まりかえる。
「あ、暗殺者、だと?」
問いかける王太子の顔からは汗が止まらない。
「ええ。もう料金は全額振りこんでありますから、もうすぐ来るのではないでしょうか?」
王子と聖女の開いた口がふさがらない。
「な、なんでそんなことを」
「だって、どんなにわたくしがあなたを愛しても、あなたは聖女様に夢中じゃありませんか」
しかしどう考えても、それはやりすぎだ。
「き、貴様など処刑だ!」
「むきーわたくしはただ殿下を慕っているだけですのに」
激昂する王太子。
さすがにもう、公爵令嬢に同情する者は誰も現れなかった。
「こうなりましたら‥」
かなしむ公爵令嬢の体からどす黒いオーラが立ち上がる。
「殿下と結婚するため、必死に隠してきましたが、もう構いませんわね」
バサッと公爵令嬢の背中から巨大な羽根が生えた。
赤と黒を基調としたその羽根の色は、天使と形容するにはあまりに毒々しい。
ボコッと彼女の華奢な体は膨れ上がり、体調2.5mの筋骨隆々な姿に変わった。
口はさけ牙がむき出し、爪はのび鋭くなる。
「公爵家が魔物の血を引いていた話は本当だったのか」
その場にいたみな、思い出した。
王国を支えるために、その昔魔物が公爵に叙せられた伝説を。
「ショックでこらえきれず、本性をさらしてしまいましたわ」
化け物としか形容できない姿に変わった彼女は、ニッコリ笑った。
「もう後戻りできませんわね。自分で聖女を殺して、王太子殿下は誘拐すればいいかしら」
元令嬢の体からふきだすのは、もはや魔王と呼んでも遜色のない魔力だ。
「そ、それは困る。この国の防衛はどうするのじゃ」
ここでやっと国王が口を開いた。
みんながすがるように玉座を見上げる。
「問題ありませんわ。隣国の侵攻くらい、わたくし1人で対処可能ですし」
でしょうね、と広場の貴族もそこだけは共感する。
「で、では」
陛下は必死の形相で元令嬢を説得した。
「やはりそなたが王妃に‥いや、女王になれば良かろう!」
「は? 父上、こんな怪物と私が結婚ですと?」
「だまれ、そちに決定権などないわ」
王太子の口答えを一蹴する陛下。
「聖女はこちらで拘束いたす。愚息との結婚式は1月後で良いか?」
陛下の心がこもった説得に、公爵令嬢は怒りを鎮めて元のサイズに戻った。
そして1月後、結婚の儀と王冠の移譲が行われ、新女王が即位する。
「わたくしが王になったのですから、今まで民から陳情が絶えなかった税制改革を断行しますわ!」
特権階級にのみ富が集まる構造はおかしいと、相続税の改正と累進課税の制度導入が国中で叫ばれていた。
反対派は国内の有力貴族全員。
新女王の実家もその一つだったが、女王は公爵家を容赦なくたたきつぶす。
「貴族の連合軍ごときで、わたくしに勝てるとお思い?」
灼熱ブレスで反乱軍を焼きはらう女王。
そしてそのかたわらにたたずむ青年は、元王太子である。
「ワア、キミハ今日モ美シイ」
彼は王家に仕える魔導士たちにより、全力で愛妻家へと洗脳されていた。
「うふふ、愛するあなたとの愛の巣を、壊させるわけには行きませんものね」
巨大化した女王は王配を両手に包みこみうっとり見つめる。
反乱軍の鎮圧は、前王にも伝えられた。
「ふう‥彼女を王位につけたのは正解だったな」
近年、税制の面倒くささと不公平が積もりに積もり、革命の気運が高まっていた。
「あんなバカ息子になど譲っていたら、革命を防げず一族皆殺しにあっていたわ」
不満をためこんだ民衆の牙が、王家に届く危険性さえあっただろう。
しかし既得権益者の大貴族を敵に回してまで改革を実行する力を、王家は持っていなかった。
「公爵家の令嬢は改革派であったから息子との婚約を結ばせていたが、いやぁ英断じゃったな、ワシ」
まさか国軍全体に匹敵する力を、1人の令嬢が持つなんて。
彼女の両親ですら知らなかったらしい。
子供時代、必死になって力をコントロールするすべを身につけた女王。幼子の健気な姿は涙を禁じ得ない‥はずだが、現女王の雄姿がすごすぎて特に誰も泣かなかった。
今日も彼女は極彩色の羽根をはばたかせ、王国中を飛び回る。
そして若く美しく超強い魔女王によって改革は進み、王国は安らかに統治されたとさ♪
追記 聖女様は貴族牢に拘束中、不審死をとげたそうです。




