72.レベルアップした感じする!
今日は買い物をして解散、明日また第一ダンジョンに潜ることにした。
なので僕は午後から魔法の練習だ。
また森の中にやって来ていた。シレーネのような不審者に遭遇するのは恐いけど、使いこなせているとは言い難い魔法を人前で使う方が恐いので仕方がない。
あと、やっぱりグローブとベストは人前であまり着たくない。森の中ですら、グローブとベストを身に着けた上からマントを着ている。なんせ、グローブとベスト以外は、相変わらずダルンダルンの古着だからね。誰に見られなくたって僕が恥ずかしいのだ。
昨日のモノセロス戦で気付いたのだが、もしかすると魔法を同時に二つ使えるようになったかもしれない。
今までの魔法実験でも、実はシャドウウォークを使いながらブラックホールを発動してみようとしたことはあったのだが、どちらかしか発動できなかった。
しかし、昨日の戦いの最後、ブラックホール小を離れた場所に出現させた際、僕はシャドウウォークを発動したまま上半身だけを地上に出していた。
試しにシャドウウォークで影に潜った状態で、外にブラックホール小を出してみる。
出来た!
思わず声を上げてしまい、魔法を解除して外に飛び出し、一旦咽る。
やはり同時に発動できるようになっている。
嬉しくなって、もう一回、今度はブラックホール小を出した状態でシャドウウォークを発動する。
「ぅわ?! あぶなっ!」
シャドウウォークを発動した瞬間、ブラックホール小に身体が引っ張られたから、慌てて両方とも解除する。
そりゃそうだ。ブラックホールは下手すれば自分自身すら引っ張り込んでしまう魔法だ。小なら普通に立っていれば耐えられるくらいの吸引力だけど、シャドウウォークで足場を失くせば耐えられなくなるのは当然だった。
出来ることが増えて浮かれてしまったが、闇魔法はとても危険な魔法だということを再確認した。
深呼吸して一旦考える。
今は練習中だったからよかったものの、実戦であたふたしながら魔法を使えば、自分の魔法で自滅しかねない。
まずは安全な発動方法を考えよう。それから、どんな状況でも安全な発動ができるように練習を繰り返そう。
マニュアルの作成とそれの徹底、前世で耳ダコができるほど教わったことだ。
かなり形骸化していて、己の経験や感覚でやった方が早いとか言うやつもいたし、実際にマニュアルが役に立たない事態も多々あって、勝手するやつと役に立たないマニュアルの狭間で胃を傷めた思い出もたくさんあるけれど、あ、思い出しただけで胃がキリキリしてきた。とにかく、新人はマニュアル通りに動くべきなのだ。
今の僕は新人魔法使いだ。効率化だの簡略化だの考える前に、まずは安全なマニュアル作り。
じゃあ手始めに、ブラックホール小の吸引力の及ぶ範囲を掴んで、シャドウウォークと同時発動できる距離を探ろう。
「いや、まてよ……」
僕はハッとした。
さっきシャドウウォークで影に潜ったままブラックホール小を出した時、できるかどうか不安だったから、ブラックホールを出現させたのは影の中にある手からほんの十センチもないところだった。
余裕でブラックホール小の吸引範囲にあったはずなのに、引っ張られる感覚はなかった。
もしも引っ張られていたら、掴まるところもない影の中では無抵抗でブラックホールに消されていただろう。
「ひえ」
気付いたら冷や汗が出てきた。知らんうちに危険なことをしていた。これだから安全マニュアルが必要なのだ。
しかし、実際は引っ張られなかった。
つまり、影の中ではブラックホールの影響を受けない!
早速試してみる。シャドウウォークで影に潜ったまま、外にブラックホール小を出してみる。引っ張られる感覚はない。
更にブラックホールを中くらいまで大きくしてみる。周囲の木の葉や枝が引っ張られて、一部は千切れて吸い込まれて行く。土も吸い込まれて地面も抉れていくのに、僕はまったく引っ張られない。
近くの木が少し傾き始めたところで、ブラックホール中を引っ込めた。
影の中ならば安全にブラックホールを使える。僕が影に潜っている間に地面が完全に抉れたらどうなるかは、安全な実験方法を考えてから実験した方がいいだろう。
これで僕は、シャドウウォークで完全に隠れた状態で攻撃できるだけでなく、安全にブラックホールを使うこともできるようになったわけだ。
「どこまで実戦で使えるかだな」
ブラックホールの使い道が増えたとはいえ、やはり全部吸い込んでしまうのではだめだ。獲物も無くなるし、仲間との連携もできない。
だから、理想はシャドウウォークで隠れて、ブラックホール小でピンポイント攻撃だ。
見えないところから突然撃ち抜かれる、うん、強力だし、絶対に格好良い。もしかすると最強の技を編み出してしまったかもしれない。
僕はちょっと得意になって、影の中に潜った。
狙いはさっき傾けてしまった木の枝だ。どうせ影の中なら誰にも見えないからと、片手を銃のように構えてみたりしちゃう。
それで、ブラックホール小を出現させて枝を消そうとしたが、狙いが定まらない。
なんとかしようと、影の中で仁王立ちで踏ん張ってみたり、逆に身体を丸めて安定する姿勢を探ったり、立ち泳ぎやホバリングを試みたりしているうちに、息が続かなくなって外に飛び出した。
「駄目だこりゃ」
泳いでいると気付かなかったけど、影の中には足場がないから、フワフワしていて一所に止まるというのが非常に難しいことがわかった。
それに、影の中から外を見た時、真っ黒い世界に白い線で景色が描かれているように見えるのだ。この眺めだと距離を測るのがもの凄く難しい。
ちょっと調子に乗ったことが途端に恥ずかしくなる。誰にも見られていないけど、格好付けてスンマッセンと謝りたくなる。
結局、腰から上くらいは外に出しておかないと、まともにブラックホール小を狙ったところに当てることはできなかった。
久しぶりに大きめのブラックホールを出したから、ちょっと実験しただけで物凄くお腹が空いた。
持ってきていたパンを齧りながら、わかったこととわからないことと今後の対策を検討する。
これじゃあ、多少は発動が早くなるかもしれないけど、シャドウウォークで移動して、外に出てブラックホール小を撃つのと変わらない。同時発動の意味がない。
しかも、身体を半分外に出していると、やはりブラックホールの影響を受けるから、引っ張られない距離を探る必要がある。まあ、影響範囲は把握しておくべきだけど、もう少し使い勝手を良くできないだろうか。
魔法を二つ同時発動できるようになったのは、魔法使いとしてレベルアップしているのだろうが、あまりレベルアップが実感できる変化はなかった。
そう思ったけど、僕は思い出した。
「ダークネス!」
ぜんぜん使い道がわからなくてすっかり忘れ去っていたが、僕の使える基礎魔法は三つあったんだった。
【暗雲】ダークネス、黒いモヤモヤを出すだけの魔法だ。単体だと視界を遮るくらいしか効果がないし、モヤモヤを出せる範囲が狭いから、使いどころのない魔法だった。
しかし、僕は早速ダークネスを発動してみる。
「やっぱり、影ができてる」
狙い通りだ。つまりこれは任意の場所に影を作れる魔法ってことだ。シャドウウォークと併用すれば、僕はどこでも移動し放題になったわけだ。
レベルアップした感じする!
ブラックホールはサイズを小さくすると吸引できる効果範囲が狭くなるだけで吸引力は変わりません。
空気の流れで吸い込んでいるのではないので、掃除機みたいに吸い込み口を狭くすると吸引力が強くなるということもありません。大きくても小さくても吸引力は一定です。
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