71.改めて言われると僕の特技、貧弱過ぎるな
武器の専門家から見ても、特におすすめの武器が思い付かないという僕らの体たらく。
やっぱり、もう少し真面目に戦闘訓練を受けた方がいいかもしれないとは思うけど、前世みたいに気軽に入れる道場なんかこの世界にはない。
いや、どの町にも剣術道場とか武術道場とかはあるのだが、どこも気軽には入れない。なにせ、この世界での剣術や武術はスポーツなんかじゃなく、全て実戦のための技術なのだ。人殺しにも使える方法を誰にでも気軽に教えるわけにはいかない。
大真面目に兵士を志しているとか、道場主の知り合いからの紹介とか、まともな筋じゃなければ門は潜れない。僕みたいに冒険者としてもう少し稼げるようになりたいから、なんてふわっとした理由では間違いなく門前払いだ。
「武器は多けりゃいいってもんじゃないからな」
店主がめちゃくちゃオブラートに包んで言ってくれたが、つまりは、今の僕らに扱える武器はないということだ。
「護衛の仕事をするなら見栄えも必要だけど、ダンジョン潜るんなら、ほら、こういう小細工の方が役立つだろうさ」
女将さんも、僕らのようなうだつの上がらない冒険者のことをよくわかっているらしい。
見せてくれたのは、有刺鉄線みたいなトゲトゲの付いた縄だ。元から蔓に棘が付いていて、乾燥させると固くなる植物があるらしい。それを小さく丸めたマキビシみたいなものもあった。
これを投げて足止めに使うらしい。中型モンスターくらいなら効き目がある。
「これなら、死角から投げつけたらそこそこ効果あるんじゃないか」
「まあ、手裏剣よりは扱いやすいか」
有刺鉄線みたいな縄はどうなるかわからないけど、マキビシなら、モンスターに当たらなくても撒くだけで足止め効果は期待できる……かな?
これまでダンジョン内で遭遇したモンスターを思い出してみる。強敵だったのはミニコカトリスやマンティコアだが、基本的に地上に降りてこないマンティコアは論外だし、鱗に覆われた鶏の足にマキビシは効くのだろうか。同じくモノセロスの蹄にも効きそうにない。
でも、ミディアムフッドとかヒベアには効くかもしれない。ヒベアにはできるだけ遭遇したくはないけれど。
「あんたはシーカーかい?」
女将さんに聞かれて僕は首を傾げてしまう。確かに僕の魔法は陽動や攪乱に向いているから、職業としてはシーカーなのかもしれないけど、そう断言できる実績もない。
「まだはっきりした役割も決まってなくて……」
「でも、死角に回り込んだりとかは得意だよな」
ネニトスが僕の魔法のことを言わずに説明してくれたが、ただのすばしっこいやつになっている。別に間違いでもないけど、改めて言われると僕の特技、貧弱過ぎるな。
「それじゃあ、こういうのも使えるんじゃないか」
店主が出してくれたのは煙玉というもので、別に煙は出ないけど、中に粉が入っているから破裂すると煙みたいに広がるのだそうだ。
店主が持っているとピンポン玉くらいに見えたけど、僕が持つと野球ボールくらいの大きさがあった。表面はあまり硬くないから、店主あの手の大きさでよく潰さずに持てるな。
赤青黄色の三色あって、赤は目潰し、青は麻痺、黄色は混乱の効果があるという。
「と言っても、効果は大したことないけどな」
赤の目潰しは、目を開けていられないくらい痛くなる。前世の熊除けスプレーに似ているけど、目以外は付着しても痛くならないらしい。持続時間は二十分くらい。当然、目にかからないと効果はない。
青の麻痺は、付着したところが動かなくなる。効果はモンスターにもよるが凡そ二十分くらい持続する。付着したところしか効果はないから範囲があまり広くない。それに、表面上動かなくなるだけだから、例えば胸に当たっても心臓を止めることはできないという。
黄色の混乱は、かかると酔っぱらっているようにフラフラになる。どこにかかっても同じ効果が得られるが、持続時間が五分程度とあまり長くない。
モンスター用と銘打たれている通り、ゴーストなどの実体が無いモンスターにも不思議と効くそうだ。しかし、スライムなど目がないモンスターには目潰しは効かない。水に混ざると効果は薄れるから、水中モンスターにもあまり効き目がないらしい。
あと、どれもモンスター以外にも効くから、自分たちへの誤爆に注意しなければいけない。特に黄色の混乱なんて効果範囲が広いから、最悪の場合、モンスターと一緒に自分たちもフラフラする羽目になる。
どれも使い捨てだが、効果も大したことないからお値段も手頃だ。
「なんだ、こんな面白そうな物あるなんて、早く教えてくれれば良かったのに」
ネニトスが目を輝かせている。玩具を前にした子供みたいな顔を見ると、こいつには持たせるべきではないと僕でも思う。店主夫婦も同じ気持ちだったらしい。
「あんたに持たせても、どうせ部屋で失くすのがオチだね」
ネニトスの片付けられない性は有名なようだ。不安になってきた。
「これ組み合わせて使うことはできるんですか?」
目潰しと麻痺を同時に使えば楽にモンスターも倒せると思うけど、そう上手い話しはないらしい。
「いや駄目だ、互いに打ち消し合ってまったく効果がないか、どれか一つの効果が出るだけだな」
なるほど、もしも全部いっぺんに使えるなら、もっと人気が出ていそうだもんな。
麻痺や混乱の魔法は、属性関係なく誰でも習得できる魔法だ。ただ、かなり熟練の魔法使いじゃないと習得できない。しかし、魔法だったら一度に複数の魔法をかけることも可能だから、パーティに熟練魔法使いがいればこんな小細工は必要ないのだ。
とりあえず、僕はお試しで煙玉三色を格一個ずつと、ロープを一本買っておいた。今まで使っていた縄は、冒険者ギルドでタダで貰ったゴミの繋ぎ合わせだったからね。
予備の武器は、これらの小細工を使ってみてから改めて考えようと思う。
ネニトスも武器は買わずに、爆竹と網を買い足しただけに終わった。こいつの場合は既に斧と長剣を持っているので、今後は忘れ物をしないように気を付ければいいだけだ。
「うちで買うのは初めてだろ、煙玉三個セットで割引しとくよ」
大きな店主は、それでも商売人だから、背中を丸めて小さなコインを器用に数えている。女将さんも丸々とした大きな手で買ったものを包んでくれている。二人の手にあると何でも玩具みたいな大きさに見える。
「ありがとうございます、使い勝手が良かったらまた買いに来ます」
「ああ、待ってるよ、まとめて十個買ったらオマケで一個付けるからね」
大きな店主夫婦はなかなか商売上手だった。
実は金を積めば道場に入ることはできます。でも金で入れる道場は詐欺の可能性も高いので注意が必要です。主人公たちは金がないので関係ない話しです。
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2026/3/7誤字報告ありがとうございます。




