70.ダンジョン行くのに長剣忘れて来てたんかい
パーティ届を提出したら、今日はダンジョンには行かずに買い物だ。
共闘するために武器を見直したいのだが、僕らは二人してジョブがハッキリしていない。はっきりするほどの実力がないから、なんとなく、ネニトスが前に出て僕が援護するというくらいしか決められない。
「ヨナハンの魔法なら、暗器とか持てば最強だと思うんだけど」
街中は相変わらず人が多い。広場の方からは色んな歌声が聞こえてくるが、ネニトスが嫌な顔をするから、僕たちは大通りを避けて細い路地を歩く。
「使い方わからん」
「だよな」
武器屋には手裏剣みたいな武器もあったけど、あんなの当てられる気がしない。投げる武器は消耗品だから、今は経済的にもキツい。
大通りの賑わいから離れると、日陰にある細い道は酷く寂れた雰囲気がある。でも今日は晴れているから日陰でも充分に明るかった。
そう言えば、魔法の特訓は森の中か夜の街中でしかしたことがない。この程度の日陰でも影の中に入れるのだろうか。いきなり人が消えると怪しまれるだろうから、なかなか検証できないと思っていたけど、ネニトスに見張りに立ってもらえば昼間の街中でも魔法を試せるかもしれない。
「予備にもう一本短刀があればいいかなって思うけど、ネニトスは斧以外に武器持ってるのか?」
「長剣一本、あとナイフだな」
ダンジョン行くのに長剣忘れて来てたんかい。
魔法バッグがあるからって忘れ物大き過ぎやしないか。まあ、僕も前世では学校行くのにランドセル忘れていったことあるけど、七歳の時だからね。
しかし、半年冒険者やってても、武器の数は僕と大差ないわけだ。
「それだけでもやってけるんだ」
「武器たくさん持っても扱いに困るし、あとは狙うモンスターによって網とか爆竹とか使うな」
飛行するモンスターには割と網は有効らしい。爆竹もモンスターの足止めや、逆に追い払うのに使える。
二人で短刀を一本ずつくらい買っておこうかと話し合っていると、もうすっかり見慣れた顔と遭遇した。
「あ」
「お」
「げ」
僕が気付いて、ネニトスが手を振って、シレーネがすごく嫌な顔をした。
こんな人通りのない道では、気付かなかった振りで通り過ぎることもできまい。でも、今日は遭遇一番に鬼の形相で怒鳴り込んでこない。
ただ、シレーネは眉間に皺を有りっ丈寄せている。
「あんたら……昨日のことは忘れな」
「もしかして、酔っぱらうたびにやらかしてるのか?」
酔っぱらって歌って踊ってるところを目撃されて、ブチギレて追いかけてきたくせに、昨日も酔っぱらって気持ち良く歌ってたもんな。
「そんなことは、っ……人前で飲んだりしないし」
「だから森の中で泥酔してたのか、危ないから止めた方がいいよ」
シレーネにまたもや睨まれてしまったけど、もうぜんぜん恐くない。
この様子だと、ナナトちゃんの正体には全く気付いていないようだし、知らん顔でやり過ごそうとネニトスとアイコンタクトをとる。
「うっせー、あたしの勝手だろ」
シレーネはそっぽを向いた。また今後も森の中で隠れて泥酔して歌って踊るつもりらしい。
本当に彼女は何者なのだろうか、政治犯なんて大それた輩ではなさそうだけど、ただの酒好きの変なやつでもあるまい。
「そっちは今日もダンジョン潜るのか」
僕らは鎧も武器もないけど、シレーネの装備は昨日と同じだった。服は昨日と違うから、あれだけ酔っていても自力で帰宅できたらしい。
「ああ、そうだよ」
「そ、頑張って」
そう言って別れた。この街にいるのならこれからも会うことはあるだろうけど、ギルマスに勧められたパーティ入りは当分保留にしておこう。
僕らは結局何も決めることができず、とりあえずネニトス御用達の道具屋に行くことにした。
ネニトスの鎧の整備もあるし、冒険者向けの店だから、武器以外にもいろいろな小道具を置いているらしい。
「らっしゃい、おうネニトス、また鎧壊したのか」
「壊してないよ、でも脇のベルトのとこがとれそうだから直してほしくて」
妙に背の高いドアを潜って入店すると、僕は納得した。中にいた店主がもの凄く大きかったのだ。
三メートル近い身長で、ひょろりと細長く見える体形だけど、そもそもの図体がデカいから、身体の厚みも僕の倍はある。ついでに髪も長くて顎髭も長くて、全体的に縦長だ。
巨人の血が混ざっているらしい。あとから出てきた奥さんもオーガの血が混ざっているそうで、こちらも身長が二メートルくらいあるし横にも大きかった。
店主夫婦は大きいけど、売っているものは平均的な人サイズだ。
いや、奥の方にはすごく大きな武器もある。自分よりも大きなバトルアックスとか、振り回せたらすごく格好良いだろうけど、僕は持ち上げられる気もしない。
「あと、予備の武器が欲しくて」
ネニトスは慣れたもので店主に気安く話しかけるけど、僕は大きさに圧倒されて、なんとなくネニトスの後ろに隠れてしまう。持病の人見知りも発動している。
「今は何を使ってるんだ?」
店主も自分の大きさはよくわかっているのか、台に腰かけて目線を合わせてくれる。とは言え、座っても僕よりも背が高いのだが、ずっと見上げているよりは首が楽になった。
「斧、長剣、ナイフ」
「剣とナイフです」
ネニトスの後に続いておずおずと応える。二人して冒険者としては凡庸すぎる武器だから、今持っている武器については見直す点はないだろう。
「二人とも武術の心得はあるのかい?」
「ない」
「……ありません」
「「うーん……」」
僕たちの答えに、店主夫婦は揃って悩んでしまった。
冒険者は誰でもなれる仕事ではあるけど、やっぱり、それなりに腕に覚えのある人がなることが多い。狩人の子供とか、兵士の倅とか、武術や戦闘訓練は最低限教わっているやつらだ。
前世でも、初心者大歓迎とかいう職場だって、結局は経験者や資格持ってる人の方が優位なのと同じだ。
誰でもなれるからって、何の取り柄もないまま飛び込んだ僕らみたいな輩の方が珍しいのだろう。
店主さんは巨人とオーガのハーフで、女将さんはオーガと人のハーフです。大きい種族同士の混血だと身体はあまり大きくなりません。
巨人は凡そ身長3~5mくらい、オーガは凡そ身長2~3mくらい。巨人と人のハーフは今のところ確認されていません。大きさが違い過ぎるので。
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