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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
初心者講習
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7.魔法使いってみんなこんなこっ恥ずかしいポエム読み上げてるの?

 仲間の悩みが一つ解決したところで、講義室にグレンさんが顔を出した。

「ヨナハン、ついて来い」

「はい」


 付いて行ったのは冒険者ギルド内の資料庫、初めて入る。大きな本棚がずらっと並んだ薄暗い部屋だった。

 そこにはレヴィさんとアルバートさんと、初めて見るエルフの女性もいた。


「こいつはスイルー、A級冒険者で明日の実地訓練の引率をする」

「初めまして」


 レヴィさんが紹介してくれたが、スイルーさんは睨むように僕を見て軽く頭を下げるだけだ。

 耳が尖っていて髪の色も肌の色も薄い美形だけど、眼光が鋭くて雰囲気は厳つい。アーミースーツのような実用性一辺倒の野暮ったい服装をしているから、余計に凄味がある。


 たぶん、顔が恐いだけで怒っているわけではないと思う。初対面なのだから、僕が睨まれる謂れはないはずだ。


 それにしても、前世で見たファンタジー作品なら、美人冒険者は水着みたいな服装をしているのが多かったけど、当然のことながら、実際の冒険者でそんな舐めた格好をしている女性はいなかった。

 当たり前だ。別に期待していない。ビキニアーマーだのミニスカ戦闘服だの、そんなもん着て魔物に挑むなんて自殺行為だ。ぜんぜん期待なんかしていない。エルフ美女ならもしや、なんて一度も考えたことはない。


 生まれて初めて見るエルフ女性に思考が逸れてしまった。僕は気を取り直してプロ冒険者たちと向き合った。


「申し訳ありませんが、闇属性の魔法について、見つかったのはこの書籍一冊だけでした」

 アルバートさんが古ぼけた本を差し出してくる。ハードカバーの立派な本だが、長いこと開かれた形跡がない。


「このギルドの一番の古株が言うから間違いない」

 グレンさんが顎で示したのはスイルーさんだった。当の本人は舌打ちしそうな表情で顔を背けたが、たぶんきっと恥ずかしがりやなのだろう。そう思っておこう。


 エルフは永命種と呼ばれるほどの長生きで、その寿命はまさに永遠に近いという。

 人生の途中で精霊に生まれ変わるとか、肉体から解放されるとかするらしいから、同じ肉体で百年も生きない人間からすると、それは長生きしていると言えるのかちょっとわからなくなるけど、とにかく物凄く長命だ。


 だから、スイルーさんも外見は二十代の女性に見えるけれど、この中では一番年上なのだろう。

 そんな彼女の知識を持ってしても、闇属性についての資料はこれしかなかったと。神様がハイパーレアというだけはあるようだ。


「中を見ても?」

「ああ、だが口に出して読むなよ」

 許可を得て本を開いてみる。中身は見たこともない文字で書かれていた。


「あれ……?」


 だが、読める。


 まったく知らないはずの文字なのに、何が書いてあるかはわかる。でも、理解できない。

 書かれているのは詩のようだ。




暗黒の同士~ファミリー~たちよ、我が紅の紋章~エンブレム~に応え真の姿~ダークネスハーツ~を現せ、【暗黒魔道炎舞】ファイヤナイトフェスティバル




 読めるっちゃあ読めるけど……いや読みづらっ。


 まだ序文の一行目くらいだけど、始終この調子みたいだ。

 いくつかの単語にフリガナのような注釈のようなものが付いていて、どっちを読めばいいかわからないし、どっちを読んでも、なんか、これ、なんかすごく、むずむずする。


 口に出して読むなと言われなくても、口に出して読みたくないポエムだ。

 あと、読んだところで意味がわからない。嘘でしょ。これが闇属性についての唯一の資料ってことは、つまり何もわからないってことじゃん。


 僕は頭の痛みを堪えつつ静かに本を閉じた。


「やはり、読めるんですね」

「え?」


 アルバートさんの言葉に僕は首を傾げた。

 しかし、言われてみれば、確かにこの本は見たこともない文字で書かれているから、自分でも何故読めるのかはわからないのだ。


「わかっただろうが、それは闇魔法の魔術書だ」


 あ、そうなんだ。読んでもわからなかったわ。


 グレンさんが説明してくれる。彼は土魔法を使い熟すベテランの魔法使いだ。

「魔術書はだいたい精霊語か神聖語で書かれていて、適性のあるものしか読むことはできないんだ」


 これは初耳だ。

 初心者講習では、魔法は魔術書を読み込んで理解を深めることで、そこに書かれた魔術を習得できるとだけ教わったけど、まさか適性がないと読むことすらできないなんて思わなかった。


「だからその本は何の魔術書かもわからないで、長いことここで埃を被っていた」

 それはそうだろう。適性のあるものしか読めないのに、その適正がハイパーレアだというのだから。


「でも、この本の内容は……」

「初めて読んだら驚くだろ、魔法使いは大層な呪文唱えてるように聞こえるけど、内容が理解できたらなんてことないよな、精霊語や神聖語でやりたいこと言ってるだけだ」

「はあ……」


 グレンさんは軽い口調で言うけど、え? 魔法使いってみんなこんなこっ恥ずかしいポエム読み上げてるの?

 適性のない人には内容は理解できないとしても、僕この魔法を人前で演唱する勇気ないんだけど。


「土属性の初級魔法【石礫】ストーンバレットの呪文も、人間語に訳せば『土の精霊様ここに小さな石を出して前に飛ばしてください』としか言ってないからな」


 すごい普通だった。ポエムじゃなかった。


 じゃあ、なんでこの闇属性の魔術書は、あんなむずむずする読みづらい呪文が書いてあったんだ? もしかしてこれ魔術書じゃないんじゃないか?


 いやいや、でも、だったらこれは何なんだってことになる。魔術書じゃないなら、中学生が書いた最強に格好良いポエム集でしかない。そんなもん冒険者ギルドの資料室に長年保管されているわけないだろ。僕だったら中学の時の自由帳が後世に読み継がれていたら憤死する。

この物語はスケベ方面に夢のない世界線なので、そういうのは期待しないでください。


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