69.既に厄ネタパーティと認識されてしまっている
朝から腹がはちきれるほどの朝食をいただき、お土産のパンまで貰って、僕は恐縮しながらネニトスと一緒に冒険者ギルド本部に戻った。
パーティ結成届を出すためだ。この届を出しておかないとパーティ単位での依頼が受けられない。
「本部来るの久しぶりだ」
ネニトスは古ぼけた本部の建物を見上げて呟いた。確かに、本部にネニトスがいれば目に付いただろうが、今まで見かけた覚えはない。
「そんなもんか、僕はまだ寮暮らしだけど、寮から出たら本部に寄ることなくなるのかな」
冒険者だからって、ギルド本部に定期的に来ないといけない決まりはない。本部でしかできない手続きもあるらしいけど、そんなもの必要になるのは高ランクの冒険者だけで、低ランク冒険者は支部に寄るだけで事足りるらしい。
でも、何もなくても、ランク関係なくギルド本部には冒険者たちが屯していると思っていた。
僕の疑問に、ネニトスは言いづらそうに眼を反らす。
「そんなことはないけど、俺は……」
「よう! ネニトスじゃねえか、ここに顔出すなんざ珍しいな」
僕らが届け出を書いているところ、後ろから大きな声が飛んできた。
ギルマスのベンドレンドさんが大股で歩いてくる。ドワーフは声が大きいって本当だったんだ。
「おはようございます」
「おお、ヨナハン、金稼いでるか!!」
「はあ、まあ、ぼちぼち、まだ完済できる額じゃありませんけど……」
背は低いけどずんぐりむっくりした身体、髭に覆われた顔、大きな口を開けるとミディアムフットにしか見えない。
「おう、頑張れ! なんだおまえらパーティ組むのか」
僕らの書いている書類を見て、ベンドレンドさんが片方の眉毛を上げた。ギルマスの目初めて見たかもしれない。
「丁度良いんじゃねえか!! ヨナハンとなら一年と経たず解散はなさそうだ」
これは僕が女っ気がないと言われているんだけど、事実なので反論できない。
それにしても、ネニトスの過去のパーティ解散理由が、ギルマスにまで知れ渡っているとは思わなかった。
不思議そうにする僕に対して、ネニトスはさっきからずっと縮こまっているばかりだ。
「そりゃあ、こいつらの痴話喧嘩の仲裁したのは俺だからな!! ガッハッハ、あんな阿呆な解散は初めてだ!!」
どうやら、ネニトスの最初のパーティ解散の時、ネニトスを取り合っていたメンバーの女性二人が、ギルドで派手に喧嘩を始めたせいで、ギルマスが仲裁に入るほどの大事になったそうだ。
女性にとり合いされるなんて男としては羨ましい話しだが、殴り合いの罵り合いをする女性たちは見たくない。
「言わんでくださいよ~、その節はどうもご迷惑おかけしました」
だから、ネニトスはベンドレンドさんの前では縮こまらずにいられないらしい。こいつはきっと一生このネタで笑われ続けるのだろう。
ネタにされるのはギルマスの執務室を半壊させた僕も他人事ではないのだが、それにしても、男女の問題でパーティ解散なんて別に珍しくもない気がする。
「ギルマスが仲裁に入るなんて滅多にないんですか?」
「いいや、暇なら仲裁くらいするさ、ただ、こいつのはなぁ、あんだけ女にとり合いされてて、どっちにも手出したこともなくて、パーティの中で誰も付き合ってもいないのに痴情の縺れで解散なんてよ、阿呆だろガッハッハッハッハ」
それは確かに、傍から見れば笑い話だ。
これだけモテる外見なのに女性に手を出さないのは、見た目を活用する技術がないのか、女性に手を出す度胸がないのか。ネニトスの場合は両方かもしれない。
僕も人のこと言える立場じゃないけど、温かい笑みでネニトスの肩を叩けば、苦々しい顔で脇腹を小突かれた。
愉快に笑っていたベンドレンドさんは、何かを思い出してピタリと笑い声を止めた。口を閉じた途端ワサッと顔が眉毛と髭に覆われるから、余計にモンスターっぽく見える。
「そう言えば、おまえさんら、昨日はシレーネと一緒にいたらしいな」
「え? 彼女のことも知ってるんですか?」
シレーネは一ヶ月前にこの街に来たと言っていたし、初心者講習などもここで受けたわけじゃないだろうから、ギルマスに覚えられているとは思わなかった。
「あの嬢ちゃんのことは俺も詳しかねえが、なかなか実力はあるようだぜ、だのに四年やっててまだE級たぁ、なんか問題がありそうじゃねえか」
冒険者は基本的に犯罪者でもない限り誰でもなれる職だ。犯罪歴以外の過去を詮索することはないけど、組織を預かるギルマスなら、多少おかしな行動をするやつがいれば注意して見るのも仕事のうちだろう。
「この街に縁故もないらしいのに、流れてきたのも気になるしな、それに……」
ベンドレンドさんは言葉を切って周囲を見回した。
朝の早い時間なので、ギルド内は依頼を求める冒険者が結構いるけど、誰も彼も暇ではないからこちらに注目しているやつはいない。
「まだ調査中だがな、ここの領主の手先が、あの嬢ちゃんのことを嗅ぎまわってたって噂があんのよ」
ベンドレンドさんはさっきよりも声を押さえて言う。
領主に調べられているというなら、犯罪でなくても面倒なことに関わっていそうだ。僕とヨナハンは顔を見合わせた。
あの酔っ払い女がまさか貴族令嬢か諜報員でもないだろうけど、何かを隠しているのは確かなのだ。
「だから、おまえらのパーティに入れてやれば?」
「「はい?」」
今の話しのどこで「だから」になるのかわからない。面倒ごとがありそうだから付き合い方を考えろ、という忠告をされるのかと思ったのに。
「だってよ、問題ありの厄ネタパーティだろ、丁度良いじゃねえか」
あっけらかんと言うベンドレンドさんに、僕もネニトスも顔が引きつる。
既に厄ネタパーティと認識されてしまっている。だが、既に自分たちの厄ネタで手一杯なのだ。更に政治的な問題を抱えているかもしれない女性なんて抱え込める気がしない。
「パーティ結成したばかりなんで……」
「新メンバーはまだちょっと……」
言葉を濁して、大急ぎで書類を書き上げると、僕らは逃げるようにギルド本部を後にした。
ギルマスは仕事中でしたが、未済の書類の山が自分の身長を越えると執務室を出る癖があります。
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