68.僕とネニトスの間にBがLする可能性はない
「ひえっ、ぜんぜん効いてない?!」
新しく購入したアイテムは、モンスターを前に無力にも千切れ去った。
強大な敵を前に、小細工は意味をなさない。
いいや、小細工を使うにも、相応の技術が必要だったのだ。
僕らは己の無力を思い知った。
だからと言って、ダンジョンの中で、敵を前にして泣いている暇はない。
すべてはこの寂しい懐を、少しでも潤すために。
* * * * *
改めて考えてみると、パーティメンバーが元男の娘アイドルって結構キツい事実だな。
昨晩は眠気に負けてテキトウに流しちゃったけど、未だにファンクラブが潜伏している男の娘アイドルの正体って、面倒ごとの気配しかしない。
しかし、今のネニトスに女装願望があるわけではないし、今のネニトスにナナトちゃんの正体だと気付く要素はない。過去の行いに羞恥心を抱く程度の正常な感性も持っている。
初恋の美少女が実は男だったとかいうBでLな展開でもあるまいし、深く考える必要はない気もする。
前世で何故か妹に勧められてソッチの作品も嗜んでいたから、僕は多少の見識があるのだ。どうして兄にBとLの作品を読ませるんだ妹よ、と思っていたけど、知識とはどこで役に立つかわからないもんだ。
僕とネニトスの間にBがLする可能性はない。
ナナトちゃんポートレイトを見ても、僕の胸にはドキドキもトキメキもなかったし、僕の好みはセクシーなお姉さんだから、いくら美少女でも十代の女の子と恋愛する趣味はない。
いや、今は僕も十代だから、十代の女の子と恋愛するのはぜんぜん問題ないんだった。というか、もしも女性の好みが前世に引っ張られている場合、僕は熟女好きになってしまうのではないか?
いやいや、混乱している。僕の好みは今はどうでもいい。問題はネニトスだ。
外は明るくなり、パンの焼ける良い匂いに僕は目を開けた。
隣のベッドからはまだ寝息が聞こえてくる。
下で人が忙しなく動き回る音などものともせず、涎を垂らして寝こけているこの男、元男の娘アイドルだという残念イケメンだ。
「…………何の問題もないな」
間抜けな寝顔を見ると、考えるのがアホらしくなってきて、僕はあくびをしながらネニトスを叩き起こした。
「おはよう、よく眠れた?」
顔を洗ってから居間に行くと、ネニトスの母カロネリさんの輝く笑顔に目を潰された。
エルフ族の方は本当に顔が良い。正確に言うと、エルフ族の顔は人族の大半の美的感覚に直撃する造形をしている。美醜の感覚は種族によって大分違うからね。
純粋なエルフ族と言えばスイルーさんだけど、彼女は常に強者感のある表情をしているから、美人だけど恐さが勝る。
その点、カロネリさんは長年接客業をしているため笑顔が板についている。年齢を感じさせる目元の笑い皺すら可愛らしい。
これで年齢数百歳の二児の母だとは思えない。やっぱり僕は熟女好きなのかもしれない。
「おはようございます、おかげさまで快眠でした」
「よかったわ、待っててね、朝食のパンを持ってくるから」
「そんな、朝食まで頂くなんて悪いですよ……」
昨晩いきなりベッドを借りた上に朝食まで頂くなんて、僕の感覚でいうと図々しいと思うのだが、友達の家に泊る時ってどこまで甘えていいのかわからない。
「お待たせ、あ、おはよう、朝ご飯これで足りるかな?」
僕が遠慮しようとしていたところで、下のパン屋からネニトスの姪のチェチリエさんが上がって来た。抱えるほど大きな籠には、まだ湯気の立つ焼き立てパンが入っている。
チェチリエさんは既に店の開店準備を手伝っていたらしく、作業着みたいなワンピースの上からエプロンを付けていた。カロネリさんとはまた違う気の強そうな美人だから、質素な服装も彼女が着ると可愛らしいメイド服に見える。やっぱり同年代の女の子も好きかも。
僕は明るくなるまで惰眠を貪っていたことが無性に恥ずかしくなる。故郷の村にいた時は割と早起きで、陽が昇る前から家の手伝いをしていたものだが、冒険者になってからは借金があるのに思いの外暢気な生活をしていたかもしれない。
「焼きたてのパンを貰うなんて申し訳ない……お店の手伝いも何もしてないのに……」
「おはよ~、朝飯パンだけ?」
またもや僕が遠慮しようとしたところで、ネニトスが寝起きそのままの顔でやって来た。パンだけの朝食に不満そうだ。実家がパン屋だとパンを食べ飽きているのだろうが、実家だろうと図々しさにも限度があると思う。
「だらしない、さっさと顔洗ってきなさい」
「手伝いもしないで偉そうに」
案の定、母と姪に尻を叩かれている。それが当たり前という態度でネニトスは水場へ行ったから、実家で暮らしてた頃からずっと甘ったれだったのだろう。
「まあ恥ずかしいわ、あんな子ですけどこれからも仲良くしてあげてね」
「だらしないことしてたらブッ叩いて良いからね」
「はあ……」
僕は曖昧に笑っておいた。ネニトスには、元男の娘アイドルという過去や女性関係よりも、普段の生活態度で苦労させられそうな気がしてきた。
「やっぱり僕もお店の手伝いを……」
「いいから座ってて、素人がいきなり店入られても邪魔になるだけなんだから」
「じゃあお金を、売り物ですし……」
「いいのいいの気にしないでちょうだい、焦げたり形悪くて店に出せないやつだからね、昨日の残りだけどスープもあるわよ」
押し切られるようにして食卓に座らされてしまう。カロネリさんもチェチリエさんも美人だからか、なんだか笑顔に迫力がある。何故か逃がさないという圧を感じる。
あ、ネニトスに初めて出来た友達を逃がさないようにしているのかもしれない。なんやかんや言ってネニトスのことを大事に思っているのだろう。
ネニトスが家族に過去の自分のことを話せずにいる気持ちも、なんとなくわかってしまう。家族想いがちょっと重たい。
「えーヨナハンばっかり……」
「あんたはお客さんじゃないでしょうが」
「ネニトスお皿出してちょうだい」
顔を洗って戻って来たネニトスは、また母と姪に背中を叩かれて台所へと消える。コミュ力弱弱の僕はお客様席で小さくなっているしかない。
とりあえず、どんな美人だとしても、カロネリさんとチェチリエさんを好みかどうかで考えるのはやめておこう。この家族を見るに、ネニトスも家族愛が重い可能性があるし、そうじゃなくても、友達の母をそういう目で見るのはキモい。
「おはよう! 朝食まだ食べてない? お隣さんからお裾分け貰ったからこれも食べてちょうだい、食べられないなら持ち帰っても良いから」
恐縮している僕を置いて、ネニトスの兄嫁のスージーさんまでやってきて、美人と朝食の追加で僕はもう朝からいっぱいいっぱいになった。
特に関係ない設定ですが、スージーさんは黒髪でツリ眼の美人です。ルビウス近隣の小麦農家の娘さんで、小麦仕入れに行ったダーロンさんが一目惚れして口説き落としました。チェチリエさんも母親似の美人さんです。
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