66.神妙な顔で何言ってんだコイツ
「で、話したいことがあるんじゃないのか?」
ベッドの上を整えて、腰を下ろしてから僕は切り出した。ネニトスは話したそうなのに、なかなか切り出せないという顔をしていたからだ。
まあ、予想は付いている。ナナトちゃんのことだろう。前々からその名前が出るたびにネニトスの表情は微妙だったし、今日はシレーネがナナトちゃんに恨みがあるようなことを言っていた。
兄妹かと思ったけど、実家にはナナトちゃんらしき人物はいなかった。母のカロネリさんが似ているように思えたけど、流石に四年前でも少女と呼ぶには厳しい年齢だ。
だったら、親戚とか、知り合いの同族とか? もしも亡くなった妹とかだったら、ちょっと重いな。
「あのな、その……パーティのこととかは関係ないんだけど、いや関係するかもしれないけど、その、な……」
ネニトスも隣のベッドに腰かけてモジモジする。イケメンでも、その図体でモジモジするのは可愛くないぞ。むしろキショいぞ。
僕はうんうんと根気よく話し出すのを待っていれば、ネニトスも意を決したように顔を上げた。
「実は、俺がナナトちゃんなんだ」
「はい?」
予想通りだが、予想外な告白に僕は目が点になった。
目の前の背が高くて肩幅も広くて、どっからどう見てもガタイの良い男が、伝説のアイドルナナトちゃん、だと?
いやいやいや、種族くらいしか一致する点ないじゃん。
「ナナトちゃんが誰だって?」
聞き間違いの可能性もあるのでもう一度聞いてみる。
「だから俺だって」
「ナナトちゃんの本名はオレ?」
「俺だよ俺」
オレオレ詐欺かよ。
ネニトスは自分を指さしながら必死に訴えているので、これ以上の悪足掻きはできない。オレオレ詐欺であってほしかった。
「ネニトスが、ナナトちゃん……」
「ああ……四年前まで、俺はすごく可愛かったんだ」
何言ってんだコイツと思わないでもなかったけど、ネニトスはいつになく神妙な顔をしているから、僕は黙っておいた。神妙な顔で何言ってんだコイツ。
本人が言う通り、ネニトスは四年前までは背が低くて華奢で、声変わりも来ないから、よく女の子に間違われていたらしい。
というか、家族以外は近所の人ですら、ネニトスのことを女の子だと思っていたようだ。しかも、とびきりの美少女だと思われていた。
ちなみに、ナナトというのはネニトスの小さい頃の愛称だそうだ。
どっちにしろ、本名からはかけ離れていて略し方はわからないけど、エルフ的に、同じ文字が繰り返される愛称は可愛らしいというか、幼いイメージがあるらしい。
エルフ感覚は僕はよくわからないけど、だから今のネニトスをナナトと呼ぶと、子ども扱いしているとか、馬鹿にしているように感じるそうだ。
「でも女装したり女の子のふりしてたわけじゃないからな、母さんの趣味でエプロンがちょっとヒラヒラだったけど、周りが勝手に勘違いしてただけだ」
「わかったわかった、続きをどうぞ」
ネニトスの必死の弁明をテキトウにあしらって、僕は頭痛のする頭を押さえた。
僕の雑な態度にネニトスは不満そうな顔をするけれど、気を取り直して真面目腐った顔で話しを続けた。よくこんな話を真面目に話せるもんだ。
ネニトスの美少女っぷりは街中に轟き、美少女店員を目当てにパン屋に人が来るようになった。
当時は、父ガスパローダさんが借金をして店を大きくした頃だったから、客足が増えることに家族みんなが喜んでくれて、ネニトスも調子に乗って店に出るだけじゃなく、歌ってみたり躍ってみたりしたらしい。
「……ノリノリじゃん」
僕の感想に、ネニトスは何も返さなかった。
そのうち、いつの間にかナナトちゃんのファンクラブができていて、ナナトちゃん目当ての人だかりがパン屋の周りにできるようになり、家族も喜ぶばかりではいられなくなった。
ネニトスも身の危険を感じて、気軽に家から出られなくなった頃、母カロネリさんが一時的に実家に帰ることになったそうだ。
カロネリさんの実家では父親が一人暮らしをしていたが、その人が病に倒れたから、一人娘のカロネリさんが看病に行くことになった。
渡りに船なので、ネニトスもカロネリさんと一緒に、遠い母の実家で半年ほど暮らすことになった。
その半年間で、ネニトスに成長期がやって来たのだ。
半年で身長が二十センチも伸びて、身体つきもガッシリして、声変わりもきた。もう絶対に美少女には見えない今のネニトスになったわけだ。
ちなみに、そのネニトスのお祖父さんは、御年四百五十七歳、病気も完治して今も元気に一人暮らしをしているという。
祖父が元気になり、ルビウスに帰る頃には、ネニトスは家族にすら別人かと思われるような変貌を遂げ、ナナトちゃんという幻想は完全に消え去った。
近所の人ですら、ナナトちゃんは母の実家で暮らしていて、実家に預けていた別の子を連れて帰ってきたと思っている人が多いらしい。
こうして、ナナトちゃんフィーバーはだんだんと下火になっていたわけだが、一度爆誕した偶像はそう簡単には消えないようだ。
「まさか、まだあのポートレイトが出回っているなんて、家族総出で回収したはずなのに……」
「配ってた男の口ぶりだと、ファンクラブもまだ地下で活動してそうだったな」
僕の話しにネニトスは苦虫をかみつぶしたような顔になる。ノリノリで美少女アイドルをしていても、本質は男なので、男どもにモテて喜ぶ趣味はないようだ。
「さっきカロネリさんが言ってた、あんたには苦労かけたっていうのは、もしかして……」
僕がそろりと訊ねると、ネニトスはガックリ肩を落とす。
「家族は未だに、俺が客呼ぶために無理して人気取りしてたって思ってるんだよ、別にそんな苦労してないんだけど、親父なんて商売のために息子を売ったみたいに考えてて、すごい気に病んでてさ」
困り果てた様子のネニトスを前に、僕は耐えきれず肩を震わせた。
どうでもいい設定ですが、ネニトスの祖父は現在オーガ女性と同棲中で再婚を考えてます。長命種族は人生で3~5回ほどパートナーを変えるのは普通のことなので、娘のカロネリさんも好きにすればと思ってます。
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