65.こいつどんだけ友達いなかったんだ?
ネニトスの実家は本当に飲み屋から近かった。飲み屋のマスターとも子供の頃からの知り合いなんだそうだ。
思ったよりも大きなパン屋だ。建物一棟丸ごとネニトスの実家だそうで、一階が店舗と厨房で、二階が住居だ。
もう夜も遅いからパン屋は閉まっていたけど、二階には灯りが点いている。ネニトスは遠慮なく裏口のドアを叩いた。
「おう、ネニトス、また夕飯食いっぱぐれたのか」
「違うよ兄貴」
出てきたのはどう見ても三十路過ぎのおじさんだったけど、ネニトスの兄だった。お父さんかと思った。顎髭を蓄えているけど、よく見ればネニトスとそっくり、恰幅が良くて優し気でパン屋の似合うダンディだ。
「飯は食ってきたけど、飲んでたら遅くなっちゃって、仲間の家が遠いんだ、泊めてくんない?」
チラリと視線をくれたから、僕はぺこりと頭を下げる。
「それはいいが……」
「ネニトスが友達連れてきた!?」
ネニトス兄が答えると同時に、後ろから女の子の声が上がった。
「友達いたんだ! 初めてじゃない!?」
「チェチー夜中に大声出すんじゃないよ」
大騒ぎする女の子の後ろからまた別の女性の声が聞こえた。
「とりあえず上がって」
ネニトス兄に招かれて、僕とネニトスは二階に上がった。
まず紹介されたのはネニトス兄、また長い名前だったけど略してダーロンさんと呼べばいい。騒いでいた女の子はダーロンさんの娘のチェチリエさん、つまりネニトスの姪っ子。あとから来た女性はダーロンさんの奥さんのスージーさん。
スージーさんは人間だから、チェチリエさんも外見ではエルフ混じりだとはわからない。チェチリエさんは既にパン屋の手伝いをしているというから、ネニトスよりもずっとしっかりした雰囲気がある。
あと、二階にはネニトスの父のガスパローダさんと、母の長い名前を略してカロネリさんがいた。
カロネリさんはエルフらしい線の細い美人で、ガスパローダさんは背が高くガッシリした体形だ。息子二人は顔は母親に似て、体形は父親に似たらしい。
まずは僕も挨拶をしておく。
「夜分遅くにすみません、ヨナハンと言います、ネニトスとパーティを組むことになりました」
「まあまあまあ、真面目な子ね、ネニトスにお友達ができるなんて、お祝いしなくちゃ」
「やめろよ、そんな騒ぐことじゃないだろ」
こいつどんだけ友達いなかったんだ? 家族全員からすごい温かい目で見られちゃってるじゃん。
「あんたには、苦労かけたからね……」
「それは、もういいってば……」
なんだかしんみりした空気になったけど、家族にしかわからない苦労話があるようだ。カロネリさんとネニトスの会話を聞いて、ガスパローダさんも神妙な顔になっている。
それにしても、説明してもらわないと、外見だけだと家族構成がぜんぜんわからない。
最初に出てきた兄ダーロンさんは、見た目通りの三十六歳で、ネニトスとは二十歳差の実の兄弟だという。スージーさんはダーロンさんと同い歳、チェチリエさんはネニトスと同い歳の十六歳だった。
父のガスパローダさんは人間で、既に六十を超えているから、ネニトスと並ぶと親子というより祖父と孫に見える。
母のカロネリさんは人間とエルフのハーフだから、この中の誰よりも年上だけど、外見はスージーさんと同じ歳くらいに見える。
寿命の違う種族同士の異種族婚だとこうなるのかと、改めて驚いてしまう。
二十歳差の兄弟なんて初めて見た。この世界は医療がまだ発達していないから、高齢出産がまず有り得ないけど、長命種族なら二十歳差くらい珍しくもないのだろう。
僕らは客間というか、繁忙期に従業員を泊まらせる部屋を使わせてもらうことになった。ネニトスの部屋は今はチェチリエさんの部屋になっているそうだ。
「それにしても、おまえの部屋だって近いだろうに、そっちの方が気兼ねないだろうし」
僕の分の布団を運んでくれたダーロンさんの話だと、ネニトスの借りているアパートもここから近いらしい。
確かに、実家だからって家族とは初対面の仲間を、しかも夜中に連れてくるのは非常識だろう。
「いやーあの部屋は、その、狭いから」
ネニトスの目がうろうろする。
「あ、おまえ、また足の踏み場も無くなってんだろ」
「足の踏み場くらいある」
「まず物を散らかすなと言ってるだろうが」
どうやらネニトスは散らかし常習犯のようだ。なんとなく知ってた。
「あーもー寝るから! 布団ありがとう」
「ありがとうございます」
追い出すようにダーロンさんを部屋から出して、ネニトスは僕を睨んでくる。ぜんぜん恐くない。ニヤニヤしてしまう。
「笑うな」
「兄弟仲が良いことで」
仲はいいけど、やっぱり二十歳も差があると兄弟というより親子みたいだ。姪っ子のチェチリエさんとの方が姉弟みたいな会話をしていた。
そう言えば、僕は前世のことを思い出してからは、兄妹と言えば前世の家族ばかり思い出している。
別に今世の兄弟と仲が悪かったわけじゃない。そもそもの人口が少ない田舎の村では、兄妹しか遊ぶ相手がいないから、みんな仲が良かった。
思い出したら、まだ実家を出て半年も経っていないのに懐かしい。
兄たちとよく山に芝刈りに行ったり、姉たちとよく川に洗濯に行ったり、弟や妹と森に木の実を採りに行ったり……これ遊んでないな? 全部家の手伝いだな?
でも、裕福でもない家の子供なんてこんなもんだろう。遊びも家の手伝いも同じだ。僕の実家が特別に子供を扱き使っていたわけじゃない。
なるほどね。こんなだから、兄妹とのしょうもない思い出と言えば前世しかないわけだ。
ヨナハンは自分と同族を人間と呼んでますが、この世界では二足歩行で意思疎通可能な生き物はだいたいヒトに分類されます。
所謂ノーマルな人間が一番数が多いので基準になってますが、人間の呼び方も種族ごとの言語で変わります。
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