64.そんなシリアスな話しだと思われると居た堪れない
「おまえ、なんか犯罪現場見たわけじゃないよな?」
「ないないない」
確かに、さっきの会話だけ聞いたらヤバい現場を目撃してしまったと思われても仕方ないけど、そんなシリアスな話しだと思われると居た堪れない。
でも、ネニトスは胡乱気な眼でジトーッと見てくる。
「別に仲間だからって隠し事するなとは言わないけど、法に触れることは勘弁しろよ」
「だからそれはないって、本当にそんな真面目なことじゃなくて……」
僕はチラッとシレーネを見る。いびきが途切れることはないから、狸寝入りではないはずだ。
念押しで誰にも言うなとは言われたけど、僕、別に約束するとは言ってないからね。
それでも、念には念を入れて小声になる。
「この前、森で魔法の練習してたら遭遇したんだよ、そん時のシレーネすごい酔ってて、一人でノリノリで歌って踊ってるのを目撃しちゃったんだ」
「それは居た堪れないな……え? そんだけ?」
ネニトスはポカンとする。だよね、さっきの深刻な声音とか、やたらと凄味のある顔からは、ぜんぜん想像できないアホな経緯だ。
しかし、残念ながら、幸いなことにそれだけなのだ。
こんなことで、結成したばかりのパーティが解散になっては堪らない。
「そんだけ」
僕は神妙な顔で頷きながら、揚げたイモを口に入れる。揚げたイモには香辛料がかかっているから、カレー味のフライドポテトっぽくて好きだ。エールに合う。
「その歌が犯罪組織の暗号だったとか、国家転覆の歌だったとか」
困惑した顔をするネニトスは、さっきから蒸かしたイモばかり食べている。こちらチーズと和えてある。
「ないな、私は世界一可愛い冒険者とかいう歌詞だった」
「聞かれたら死ぬほど恥ずかしいのは確かだな」
ネニトスも呆れた目でシレーネを見る。ブスではないけど、酔っぱらって眠りこける姿はオッサンのようだ。可愛いからはかけ離れている。
そこで、ブシッと豚みたいな鼻息と共にシレーネのいびきが途切れた。
僕とネニトスは揃ってビクッとしてしまった。
「んあ……あれ~、寝てたぁ~わるいわるい」
「別に、いいけど」
「もう飲むのは止めろよ」
「だぁ~いじょうぶらって」
全然大丈夫じゃない様子でシレーネは再びジョッキを傾けるけど、中身は水にすり替えている。ここまで酔っていれば水も酒もわからないだろう。
「ふっふっふ、い~い酒だ、パンも美味い、フフ、パ~ンパン~美味しいパン~」
水を飲みながら、シレーネは残っていたパンの切れ端を齧る。肉の煮込みについてきたやつだけど、もう煮込みは残っていない。
「あさのおひさまおはよ~お~、ひるのとりさんこんにちは~、きょお~もいちにちげんきにね~、おいしいぱ~んでげんきにね~」
この女、酔っぱらって歌っていたのを見られてブチギレていたくせに、ここでまた酔っぱらって歌うのかよ。喋ったら殺すって何だったんだ。僕は流石にキレそうになった。
「ぱ~んぱん~、おいひぃぱんと~~な~なとちゃんっ」
でも、僕はキレる前にその歌詞でハッとした。
隣を見ればネニトスが顔を青くしている。
「あ、ナナトちゃんの……」
僕が思わず声を上げると、気持ち良く歌っていたシレーネの声が消えた。
「あんた! ナナトちゃんのこと知ってんのかい?!」
突然立ち上がり迫って来たシレーネに、僕は仰け反った。この人の酔い醒めるタイミングわかんない恐い。
「いいえ、噂聞いただけで、詳しくは知らない」
「なんだよ、クソ、くそ……ぜったい見つけてやる……あたしのじんせいめちゃくちゃにしやがって……」
どうやらシレーネは酔いが醒めたわけではなかったらしい。いきなり動いたことで目が回ったのか、フラフラと椅子に戻ってしまう。
「あーあー、そろそろお開きにしようぜ、これじゃあ俺らが酔い潰したみたいだ」
ネニトスはさっきの表情はなかったように、シレーネを支えて立たせる。僕も立って個室を出た。
途中からシレーネが勝手に注文していたから、どれだけ呑んだかわからない。結局、三人で割り勘にしたから、僕らの方が損をしたけど、今の酔っ払いシレーネには何を言っても通じそうにない。
店を出たら、シレーネは一応一人で立って歩き出した。
「本当に一人で帰れるのか?」
「だ~いじょぶだいじょぶ」
「ちゃんと家に帰れよ、気を付けろよ」
「だ~いじょうぶだ~いじょうぶ」
ぜんぜん大丈夫そうではないけど、シレーネの住処は知らないし、今日初めて会った女性の家に行くなんて、どんな噂を立てられるかわからない。
千鳥足の酔っ払いだけど、あれでも冒険者だし、僕は酔いが醒めた時の彼女の脚力は知っている。
大分心配だったが、帰っていくシレーネを見送って、僕とネニトスは溜息を吐いた。
「何だったんだ、あの人……」
すっかり遅くなってしまった。この街の転移門はあまり遅くまでやっていないから、寮まで歩いて帰るしかない。
そう考えてたら、ネニトスが振り返った。
「ヨナハン、俺んち……いや、俺の実家近いから泊ってくか?」
「え、いや、いきなりは迷惑なんじゃ」
「俺も今日は実家で寝るつもりだし、布団くらいはすぐ用意できるって」
それは有難い。正直、今日は色んな意味でもうクタクタで、今から寮まで歩くのはうんざりだった。
それに、ネニトスは何か話したそうな顔をしているから、僕はお言葉に甘えてネニトスの実家に泊めてもらうことにした。
どうでもいい設定ですが、今回利用した店は居酒屋というよりファミレスです。酒も出すけど子供を連れて家族で利用する飯屋でした。ネニトスも家族でよく食べに来てるので店主とも知合いです。
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