63.いや舌打ちはいらなくないですか
とりあえず椅子に座る。まだ名前も知らない酔っ払い女も、僕の向かいに腰を下ろす。めちゃくちゃ睨まれている。僕はもう挙動不審に視線をキョロキョロさせるしかない。
しかし、せっかくネニトスとパーティ結成できたのだ。結成一日も経たずに解散は避けねばならない。
「あの……」
静かに座って僕のことを睨んでいた酔っ払い女に声をかけようとしたが、まず名前すら知らないから呼びかけることもできない。
「あ、えと、僕はヨナハンっていいます」
「……シレーネ」
よかった、会話してくれる気はあるらしい。
視線を合わせるのは恐い。こういう時は相手のネクタイを見ると顔を向けているように見える、と前世の新人研修で教わった覚えがある。
でも、女性の場合、胸元を見るのも不躾だし、だからと言って顔を向けるのは恐いし、結局、僕は視線をうろうろさせながらモジモジ喋る。
「シレーネさん、あの、この前は盗み見しちゃってすみませんでした、でも、本当に誰にも言ってないんで、あの、何でそんなに怒ってるのかくらいは教えてほしくて、あの……」
もう完全にコミュ症の喋り方で自分でも情けなくなるけど、でもだってシレーネさんの顔どんどん恐くなるんだもん。話し着けられる気がしないんだが。
僕はここから逃げたい気持ちでいっぱいだったけど、シレーネさんの方が大きな舌打ちをしてから話し出してくれた。いや舌打ちはいらなくないですか。
「あたしも頭に血が上ってた、いきなり怒鳴りつけたのは悪かったよ」
「あ、それは、はい……」
すんごい不愛想だけど、とりあえず常識があって何よりです。シレーネさんの第一印象山姥だからね。言葉が通じただけ大きな進歩だ。
「だが、あの時のことは忘れろ、なんにもなかったんだ、あんたは何も見ていない、いいね」
「あ、はい」
結局脅すんかーい、と言いたかったけど言わなかった。だって恐い。
うん、よくわからないけどお互い謝ったし、これで話しは着いたってことで良いよね。入り口付近で様子見ているネニトスに目を向ける。隠れてるつもりみたいだけどバレバレだから、さっさと入ってきてくれ頼む。
「お待たせ~、料理テキトウに貰ってきたぜ、シレーネさんも、今日は俺ら奢るんで」
ネニトスは今戻ったみたいな顔で入ってきたけど、名前呼んだら話し聞いてたのバレバレでしょうが。隠す気ないなら隠れるなよ。
お盆代わりの板にいくつも皿を乗せてきた。板をそのままテーブルに置いて、それぞれのグラスを配る。ネニトスの手慣れた様子は、居酒屋でバイトでもしたことがあるみたいだ。
メインは肉の煮込み料理と茹で野菜を和えたやつ、あと焼いたイモと揚げたイモと蒸かしたイモが並んでいた。
僕の実家だと豆料理ばかりだったけど、ルビウスの一般庶民の食事はイモが多くなるらしい。安くて腹持ちがいいから豆もイモも好きだ。
「いい、自分で払うよ、あんたも迷惑かけて悪かったね」
シレーネさんは最初の山姥のような態度はどこへやら、普通に喋るようになったけど、ネニトスのイケメンに見惚れて丸くなったような様子でもない。
でも、遠慮しても運ばれた酒は飲むようだ。最初に会った時も酒瓶持ってたし、普通に酒が好きなのかもしれない。
「それじゃあ、俺たちのパーティ結成とシレーネさんとの出会いに、乾杯!」
数時間後、シレーネはテーブルに突っ伏していびきをかいていた。
「酒になんか混ぜた?」
「いいや俺らと同じもの飲んでたけど、一人ペース早かったからな」
僕とネニトスはちびちびとエールを飲んでいたが、シレーネだけはパカパカとジョッキを空けて、後半は自分でカウンターに行って勝手に注文していた。
それで、すっかり酔いつぶれている。いやホント、何この人?
しかし、美味い酒と料理で場も和んで話しは色々聞けた。
シレーネは十九歳で、四年前に冒険者になり今はE級だそうだ。アルージュの街出身、流れ流れて一ヶ月前からルビウスを拠点に活動しているらしい。
年上の先輩だったけどランクはネニトスと同じだし、今のこの様を見ていると、さん付けで呼ぶ気も失せる。名前を知っても酔っ払い女であることは変わらなかった。
それに、基本情報はわかったけど、肝心のあの歌のことや、覗き見しただけでブチギレて殺しに来たことについては、何も教えてくれなかった。
この地方の一般市民の主食は豆とイモです。
麦もあるのでパンや麺もありますが、お店で食べるちょっといい食事という感覚です。
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