59.この世界ではなんとなくフリーターみたいな位置づけだ
綺麗に首を落とすことはできなかったけど、致命傷は与えられた。クローラビットは毛皮も売れるから、傷を広げないように止めを刺す。
「他の街にあるダンジョンも行ってみたいよな、王都には塔型のダンジョンがあるそうだ」
ネニトスは盾に傷がないか確認しつつ、見たこともない王都に想いを馳せる。
塔型ダンジョンの話しは僕も聞いたことがある。王都にある一つだけしか確認されておらず、とにかく真っ直ぐ天に伸びる塔で、剥き出しの壁はどんな道具を使っても壊せないという。
地下に伸びるダンジョンを逆さまにしたようなもんで、上に行くほど魔力が濃く、強いモンスターが出現する。中には明らかに塔の幅より広い階層があったり、普通の建物では支えきれないような巨大モンスターも出るそうだ。
「だったら、王都までの護衛任務受けるか、小さい街経由しながらのんびり行くのも楽しそう」
クローラビットを回収して、僕らはまた歩き出した。
僕も王都までの道のりは詳しく知らないけど、徒歩だと十日以上はかかるらしい。
道中は魔物や獣や盗賊が出るから、キャラバンに相乗りさせてもらったり、時間はかかるが小まめに村や町を経由していくのがセオリーだと聞いた。
「良いなそれ、俺この街からほとんど出たことないんだよな、一番遠出したのは、母さんの実家行ったくらいかな」
ネニトスは目を輝かせる。そう言えばルビウス出身だと言っていた。ということは家族もこの街にいるのだろう。
他の冒険者パーティが歩いてくるのが見えたから、僕らは黙る。四人組、知り合いはいない。不審な動きもないから「どうも」「気を付けて」と軽く挨拶して通り過ぎた。
「へえ、僕も田舎の村とこの街しか知らないけど」
僕は一応、故郷の村からルビウスまで旅をしたことはあるけど、ただ田舎道を歩いてきただけという記憶しかない。
なにせド田舎だから、盗賊にだって遭遇しない。モンスターもいない。危険と言えば肉食の獣くらいだが、小型の野生動物には村にいた頃も遭遇したから、旅とか冒険という気分にはならなかった。
分かれ道になったので、僕はまた襤褸布に数字をメモする。これでもう分かれ道が七回目、かなり奥まで来ている。
「ネニトスの実家は何してんの?」
「パン屋」
エルフ混じりの家族が経営するパン屋さん、いよいよ伝説のアイドルナナトちゃん親族説が濃厚になって来たけど、嫌な顔をしそうだから触れないでおく。
「一緒に暮らさないの?」
歩いていたらヒカリダケを見つけたので採集、青く光るのは回復薬の材料になる。
「いーやー、兄貴夫婦が両親と一緒に住んでるから、肩身狭いんだ、俺より姪っ子の方がぜんぜん働き者だし、実家にはよく帰ってるけどな」
パン屋さんと言えば朝から働いているイメージだ。一方、冒険者は特に働く時間は決まってなくて収入も不安定、この世界ではなんとなくフリーターみたいな位置づけだ。
確かに、それでは実家暮らしは肩身が狭かろう。別に仲が悪くなくても、一人暮らしの方が気楽なのはわかる。
「あー、僕の実家も似たようなもんかな、兄弟多くて、農家だけど働き手は余ってるし、どうせ兄が家を継ぐから、さっさと家出た方がいいかなって」
僕の家も家族仲は悪くなかった。村に子供が少なかったから、遊び相手と言えば専ら兄弟たちだった。両親も普通に子供想いの親だったと思う。
しかし、田舎だからというか、貧乏だからだったのか、この世界の標準的な感覚なのかもしれないが、物心ついた時から、さっさと自立すべきだという考えは持っていた。
両親も別に追い出したりはしないけど、子供が家を出るのは当然のことと考えていただろう。でなければ、こんな無計画に村を出る息子を見送ったりしなかったはずだ。
「冒険者にはそういうやつ多いよな、就職先の伝手がないならとりあえず冒険者、みたいな」
「誰でもなれるからな」
もうそろそろ次の分かれ道だろうかと思っていたら、奥の方からカコンッカコンッと音が聞こえてきた。
人の足音じゃない。四つ足で蹄のあるような足音だ。
「大物の予感だな」
「うん、周囲に他のモンスターはいない」
僕らは駄弁るのを止めて武器を構えた。
通路に反響する足音はだんだんと近くなり、奥の暗闇から白いヤギが姿を現した。
「モノセロス、かな?」
「正解、大きいな」
僕は初めて見るけど、額に一本伸びた角を見れば正体はわかる。
一角を持つヤギのモンスターだ。地域によっては羊だったり鹿だったりするらしい。とにかく一角獣は総じてモノセロスだ。唯一、馬だとユニコーンと呼び名が変わる。
草食獣に見えるけどモンスターだから肉食だ。額の角での攻撃が主だが、ネニトスの身長を越えるような体格だから、体当たりされただけでもダメージは大きい。
足が速く、空は飛べないけどジャンプ力はあるし、ヤギらしく、少しの取っ掛かりさえあれば壁を走ることができる。
マンティコアと違って、正面突破の力押しで来る相手だ。大きさ的に、今の僕らには少々手に余る相手かもしれない。
だが、ネニトスは勝算があるようだ。
「ヨナハンと相性が良い、俺が壁際まで追い立てるから」
「ああ、影の中から切る」
飛行能力はないから、上に逃げられても壁から大きく離れることはない。なら影の中から手が届く。攻撃が突きと体当たりだけならベストの完全防御で防げるだろう。
ネニトスは変化の盾を大きめの円盾にする。モノセロスは前足で地面を蹴って突進の構えを見せた。
ガツンガツンと地面をけるだけで石畳に罅が入る。それだけで力強さがうかがえる。
ガッと、地面を砕いてモノセロスが走り出した瞬間、僕は影に潜る。ベストのおかげと思うのは癪だが、魔法の発動が今まで以上にスムーズだ。
ネニトスはモノセロスの突きを受けると見せかけて、直前で横にずれて斧を振り下ろした。突きを受ける気なら、変化の盾を大盾にしていただろう。
しかし、ネニトスの斧は毛を掠めただけだ。モノセロスはネニトスを飛び越えて壁を駆け上がる。僕は影の中からそれを追いかけた。
垂直にしか見えない壁の、僅かな歪みと石材の出っ張りを使って、モノセロスは軽々と壁に立ち止まる。そこから下にいるネニトスを狙っているから、側面にいる僕には全く気付いていない。
貰った!! と首目掛けて剣を振り下ろしたけど、ゴツッと岩を叩いたような感触と共に、僕の剣が手からすっぽ抜けて飛んでいった。
「ええ?! 硬っ……!」
今のでモノセロスは地面に落っこちたけど、僕の攻撃はモノセロスの肩にちょっと傷をつけただけだった。
そりゃそうだ。モノセロスの革は防具にもなるくらい硬いのだ。中古の剣と素人剣術で切れるわけがなかった。
せめて突きにしておけばよかったのに、何で首を切ろうとした僕?!
成人年齢は特に決まってません。十五歳くらいからなんとなく自立した方がいいかな~という雰囲気があるだけです。
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