53.魔法バッグの中は血塗れにならないのだろうか
「良かった入った、余計なもの出しとかないとな……」
どうやら、魔法バッグは何でも入って重さも無くなるから、ネニトスは色々なものを入れっぱなしにしているようだ。
そんな中にモンスターの死骸を放り込んだのかと思うと、衛生面とかいろいろ心配だ。僕のリュックも大概モンスターの血の染みだらけだけど、魔法バッグの中は血塗れにならないのだろうか。
「それ、時間停止の魔法はかかってないんだろう?」
「そんな高価なものじゃない」
「中の物腐ってたりしない?」
「大丈夫だ、……たぶん」
かなり心配だったけど、マンティコアは食用じゃないし、今日中に出すからなんとかなるだろう。たぶん。
「ここがマンティコアの縄張りになってたなら、この先は大したモンスターはいないだろうな」
第一ダンジョンは、初級ダンジョンに比べればモンスターの出現率は高いけど、ひしめき合うほど大量にはいない。モンスターにも縄張りがあるから、複数の中型モンスターに同時に遭遇することは滅多にないらしい。
「まだ先長いのか?」
「いや、分かれ道を四つ越えたから、もうすぐ行き止まりだな、端にはよくわからない祭壇があるだけだ」
何が祀られているのかは誰も知らないらしい。宗教的なものに見えるだけで、本当に祭壇かどうかもわからないという。
「ちょっと見てみたい」
「まあ、今日は充分な収穫もあったし、端まで行って帰還の輪で帰ろうか」
僕らはやり切った気分で歩き出した。
それでも油断はできない。天井に張り付いていたブレインイーターが降ってくることもあるそうだから、上も下も警戒しながら奥に進む。
結局、行き止まりに着くまで、苔むしたファングタートルが二匹いただけで、碌なモンスターはいなかった。
行き止まりには確かに宗教的なオブジェがあった。
祭壇というよりも、石の祠のようなものだ。中にはひょうたん型の石が立っている。たぶん何かの石像だったものが、風化してただのひょうたん型の石になったのだろう。
前世の神社とかにはありそうな祠だけど、周りに掘られた模様か文字はヒエログリフに似てる。今世では教会でもこういう物は見たことがなかった。
僕はとりあえず祠の前でしゃがんで手を合わせておく。
「なんか知ってるのか?」
「いいや、ただ異国ではこういう祈り方をするって聞いたことがあるだけ」
ということにしておく。
ネニトスは不思議そうにしていたが、なんとなく僕に倣って両手を合わせていた。
「じゃあ帰ろうか」
「ああ」
他には特に何もないので、僕らは予定通り帰還の輪を取り出したが、その時、近くでゴトンッと音がした。
二人揃ってビクッとしてから、武器を構えて振り返る。
だが、動くような気配はなかった。
そろりそろりと灯りを向けると、壁際に何かが落ちている。ここに来た時は何もなかったはずだ。
「もしかして!」
「アイテム!」
二人で顔を見合わせてから駆け寄った。
壁際には見覚えのない盾と、何か黒いものが落ちていた。
黒いものに一抹の不安を覚えつつ、僕は恐る恐る拾い上げる。手触りは革だ。広げてみると大きさはそれほどない。
見覚えがないものだ。
だのに、僕には見覚えがあった。
うわああああああ黒革のベスト!! 襟が大きくてチャックが斜めに付いてるやつうううううううう!!
ついでに、肩のところにシルバーの鋲が並んでいるし、チャックの上にドラゴンを模したシルバーの留め金も付いていて、非常に着脱しづらい。
もの凄く格好付けたデザインなのに、なんだろうこの、洗練されて無さ。どことなく漂うパチモン臭さ。ショッピングモールの片隅で埃を被ってそうな安っぽさ。
僕は全身むずむずする感覚に襲われる。正体不明の羞恥心に襲われて、ネニトスがいなかったら、のた打ち回って悶絶していたところだ。
こんなの僕は知らない。知らないけど、前世の記憶がほじくられる。前世の兄が中学の頃に欲しがって、両親が必死にやめとけって説得してたのを見たことがある気がする。
黒革の指ぬきグローブと同じく、着る物を選ぶ非常にピーキーなアイテムだ。
そう、どう見ても黒革の指ぬきグローブとセットだ。
だって、背中に大きく古代文字が刻印されている。無駄に凝った装飾文字で、『闇』って。
つまり、僕のために出てきたアイテムだ。闇属性のアイテムに『闇』って書くのやめろよ。
「……変わったデザインの服、だな」
横で眺めていたネニトスも怪訝な顔をしている。
繊維業がまだ発展していないこの世界では、革製の衣類は珍しくない。むしろ、モンスター素材が多く出回っているから、一般庶民の衣類はだいたい革製だ。
黒革のベストは継ぎ目も傷もなく、僕の目からすると合皮かな? と思うくらいに、綺麗な革で仕立てられている。シルバーだって純銀だとは思わないけど、それでも金属製の留め具を服に使うのは贅沢だ。
つまりこの黒革ベストはすごい高級品なわけだが、しかしベストだ。防御力は大したことないし、防寒としても中途半端だし、通気性がないから暑い時期にも適さない。素材は良いのに実用性がなく、高級指向の商人や貴族が好みそうなデザインでもない。
ネニトスだってコメントに困るだろう。
「これ、ネニトスのかも……」
「いいやサイズが合わない、二つあるってことは、盾の方が俺ので間違いない」
首を横に振りながら、ネニトスは落ちてた盾を拾い上げて抱きしめる。サイズは確かにそうだけど、正直に着たくないって言えよ。
「デザインはともかく、ダンジョンから出たアイテムならきっと良い物だ、外に出てすぐに鑑定してもらおう」
デザインはともかくって言っちゃったよ。ネニトスは正直者で、馬鹿正直なやつみたいだ。
デザインはともかく、捨てていくのは勿体ないから、僕も仕方なく黒革のベストを持って地上へ戻ることにした。
特定のブランドなどを貶める意図はありません。主人公の趣味じゃないだけです。
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